友人とのささいな意見の食い違いから、クラスや職場での激しい競争。
あるいは、ニュースで流れる遠い国の情勢まで。
私たちの日常には、常に大小さまざまな「争いと平和」(あらそいとへいわ)が影を落としています。
人が集まれば対立が生まれるのは世の常ですが、同時に私たちはその先に必ず、穏やかな平穏を願ってきました。
古くから伝わる言葉には、争いを勝ち抜くための冷徹な戦略と、平和を尊び守り抜こうとする切実な祈りが、表裏一体となって刻まれています。
- 争いの端緒と苛烈さ
- 一触即発(いっしょくそくはつ)
- 鎬を削る(しのぎをけずる)
- 泥仕合(どろじあい)
- 乾坤一擲(けんこんいってき)
- 弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)
- 戦いの駆け引きと教訓
- 和解への道と仲裁
- 平和と安寧の理想
- 英語表現
- まとめ
争いの端緒と苛烈さ
一触即発(いっしょくそくはつ)
少し触れただけでも爆発しそうな、極めて緊迫した危険な状態のこと。
もとは一本の髪の毛で重い物を引くような危うさを指しました。
言葉のやり取りが激しくなり、今にも手が出そうな一瞬の静寂や、戦争が始まる直前の緊張感を象徴します。
鎬を削る(しのぎをけずる)
激しく争うこと。
特に実力が同じくらいの者同士が、激しく競い合う様子を言います。
「鎬(しのぎ)」は日本刀の側面にある盛り上がった部分です。
切り結ぶ際、ここが削れるほど激しく刀を交えるという描写から、現在の激しい競争を意味するようになりました。
泥仕合(どろじあい)
互いに相手の弱点や醜い点を探し出して、罵り合ったり非難し合ったりする見苦しい争いのこと。
もとは相撲の用語で、泥の中で取組をして泥だらけになることが語源です。
出口のない感情的な対立を指して使われます。
乾坤一擲(けんこんいってき)
運命を賭けて、のるかそるかの大勝負をすること。
「乾坤」は天と地、「一擲」はサイコロを一度投げることです。
平和な日常を捨ててでも、すべてを賭けて戦わなければならない決定的な瞬間を表します。
弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)
強い者が弱い者を犠牲にして栄えること。
弱者に容赦のない、厳しい生存競争の現実を指します。
自然界の掟を象徴する言葉ですが、人間社会における実力至上主義や、力による支配を肯定、あるいは揶揄する文脈で多用されます。
戦いの駆け引きと教訓
漁夫の利(ぎょふのり)
二者が争っている隙に、第三者が苦労せずに利益を横取りすること。
シギとハマグリが争っているのを見て、漁師が両方を捕らえたという故事に由来します。
争いがもたらすのは当事者の疲弊であり、思わぬ他者を利することになるという戒めです。
喧嘩両成敗(けんかりょうせいばい)
争いが起きた際、理由の良し悪しを問わず、双方に等しく罰を与えること。
中世日本の武家法に由来する考え方です。
どちらが正しいかを議論し続けると争いが長引くため、強制的に決着をつけて平和を取り戻すための強引ながらも実効性のある解決策でした。
呉越同舟(ごえつどうしゅう)
敵対する者同士が、同じ場所に居合わせたり、共通の困難のために協力したりすること。
かつて激しく争った呉と越の国の人が、同じ船で嵐に遭った際に協力し合ったという故事によります。
争いの最中であっても、共通の利益や危難の前では平和的な協力が必要になることを示しています。
備えあれば憂いなし(そなえあればうれいなし)
日頃から準備を万全にしておけば、いざという時に困ることがないということ。
平和を維持するためには、単に願うだけでなく、不測の事態や争いに対する備えが欠かせないという、防衛の基本となる教訓です。
和解への道と仲裁
鉾を収める(ほこをおさめる)
争いや攻撃をやめて、平和的な状態に戻ること。
また、議論や追求を途中で切り上げて矛先を収めること。
武器である「鉾(ほこ)」を置くという動作が、そのまま和解や不戦の意思表示となります。
一歩引くことで争いの連鎖を断ち切る、大人の対応を指します。
仲裁は時の氏神(ちゅうさいはときのうじがみ)
争いをしている最中に仲裁に入ってくれる人は、まるで神様が現れたかのようにありがたい存在であり、その仲裁には素直に従うべきだということ。
当事者同士では引くに引けなくなった時、第三者の介入こそが平和を取り戻す絶好の機会であることを説いています。
呉越の和(ごえつのわ)
かつての仇敵同士が仲直りをすること。
深い恨みを超えて、平和のために握手をすることの難しさと尊さを表しています。
平和と安寧の理想
和をもって貴しとなす(わをもってとうとしとなす)
人々が互いに仲良くし、争わないことを何よりも大切にすべきであるということ。
聖徳太子が制定した「十七条憲法」の第一条に掲げられている言葉です。
日本人の平和観や協調性を象徴する、最も有名な言葉の一つです。
天下泰平(てんかたいへい)
世の中が穏やかに治まり、平和が保たれていること。
「泰」も「平」も、安らかで乱れがない状態を指します。
誰もが願う理想の社会像ですが、平和に慣れすぎて油断している様子をからかう意味で使われることもあります。
安寧秩序(あんねいちつじょ)
社会が穏やかで、規律が守られていること。
公共の平穏を維持するための言葉であり、単なる静けさではなく、人々がルールに従って安心して暮らせる建設的な平和を意味します。
牛を桃林の野に放つ(うしをとうりんのやにはなつ)
戦争に用いた牛や馬を野に放し、二度と争わないことを誓うこと。
中国の周の武王が、天下を平定した後に軍用の家畜を解き放った故事に由来します。
究極の不戦と、平和への固い決意を象徴する美しい言葉です。
英語表現
Bury the hatchet
- 意味:「和解する、争いをやめる」
- 解説:直訳は「手斧(ハチェット)を埋める」。かつてアメリカ先住民の部族が、争いを終える際に武器である手斧を地面に埋めたという儀式に由来します。「鉾を収める」に近いニュアンスで使われます。
- 例文:
After years of fighting, the two brothers finally decided to bury the hatchet.
(何年もの争いを経て、二人の兄弟はついに和解した。)
Offer an olive branch
- 意味:「和平を申し出る、歩み寄る」
- 解説:オリーブの枝は古くから平和の象徴とされています。相手に対して和解の意思を示す具体的な行動や提案を指します。
- 例文:
The company offered an olive branch to the union to avoid a strike.
(会社側はストライキを避けるため、労働組合に妥協案を提示した。)
まとめ
「争いと平和」にまつわる言葉を辿ると、そこには対立を煽るのではなく、いかにして争いを終わらせ、平穏を維持するかという先人たちの苦闘の歴史が見て取れます。
「和をもって貴しとなす」という高い理想を掲げつつも、「備えあれば憂いなし」という現実的な防衛も忘れない。
このバランス感覚こそが、複雑な現代社会を生きる私たちに必要な知恵と言えるかもしれません。
「鉾を収める」勇気や、「仲裁は時の氏神」という謙虚さを心に留めておくことで、私たちの身の回りのささいな諍いも、平和な解決へと導かれることでしょう。









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