目標を達成したときや、周囲から称賛を浴びたとき。
つい気が緩んで自慢したくなったり、自分を特別な人間だと思い込んだりする心の動きは、誰にでも起こり得るものです。
しかし、本当の意味で優れた人物は、成功の絶頂にいるときこそ、静かで落ち着いた態度を崩しません。
物事が思い通りに進んでいるときでも、おごらず、執着せず、平然としていること。
そんな高潔な心の在り方を、「得意淡然」(とくいたんぜん)と言います。
意味・教訓
「得意淡然」とは、物事がうまくいって得意な絶頂にあるときこそ、執着せず、あっさりと平然としているべきだという教訓です。
この熟語を構成する言葉の意味は以下の通りです。
- 得意(とくい):願いが叶い、満足している状態。
- 淡然(たんぜん):物事にこだわらず、心が静かに落ち着いている様子。
単に喜びを隠すということではなく、成功という強い刺激にさらされても、水面のように穏やかな心を保ち続ける精神性の高さを説いています。
語源・由来
「得意淡然」の語源は、中国・明(みん)代の学者である崔銑(さいせん)が記した「六然訓」(ろくぜんくん)という教えにあります。
「六然訓」は、人生のさまざまな局面で持つべき六つの心の持ちようを示したものです。
その一つに「得意のときは淡然とすべし」という一節があり、これが四字熟語として定着しました。
この教えは、江戸時代の儒学者・佐藤一斎(さとういっさい)が著書『言志四録』(げんししろく)で紹介したことで、日本でも広く普及しました。
成功しても有頂天にならず、失敗しても落ち込まないという、日本人が理想とする「静かな強さ」を象徴する言葉として大切にされてきました。
使い方・例文
「得意淡然」は、自分の成功を鼻にかけない姿勢を称える際や、自分自身の慢心を戒める言葉として使われます。
例文
- 彼は営業成績でトップを独走しているが、常に「得意淡然」とした態度を崩さないため、周囲からも信頼されている。
- 第一志望の高校に合格したが、不合格だった仲間の前では得意淡然でありたいと思う。
- 「優勝したからといって浮かれるな。得意淡然の心構えを忘れてはいけない」と監督に諭された。
- 母は料理コンテストで賞をもらっても「得意淡然」として、いつも通り夕飯の支度をしていた。
文学作品・メディアでの使用例
『言志四録』(佐藤一斎)
江戸時代の儒学者、佐藤一斎が自身の修養のために記した随筆集です。
この中で、心の持ちようを説く一節として紹介されています。
(自分自身に対しては執着せず、人に接するときは和やかに、事に当たるときはきっぱりと、何もないときは澄んだ心で、成功したときは淡々と、失敗したときはゆったりと構えるべきである。)
誤用・注意点
「得意淡然」を使う際、単に「無愛想」や「冷淡」な態度と混同しないよう注意が必要です。
この言葉の本質は、心の中に喜びを隠して不機嫌に振る舞うことではありません。
「嬉しい」という感情を否定するのではなく、その成功によって自分を偉いと思い込んだり、他者への敬意を失ったりすることを戒めるものです。
また、「淡然」を「断然」と書き間違えるケースが見受けられますが、意味が全く異なります。
「淡い(あわい)」という字を使うことを意識すると、間違いを防ぎやすくなります。
類義語・関連語
「得意淡然」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 不驕不屈(ふきょうふくつ):
成功してもおごらず、逆境にあってもくじけないこと。 - 戒驕戒躁(かいきょうかいそう):
おごらず、騒がず、慎み深くあること。 - 謙虚(けんきょ):
自分を偉いと思わず、素直に他人の意見を受け入れること。
対義語
「得意淡然」とは対照的な意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
英語表現
「得意淡然」を英語で表現する場合、以下のようなフレーズが使われます。
Modesty in success
- 意味:「成功における謙虚さ」
- 解説:最も一般的で分かりやすい表現です。成功しても謙虚であり続けるというニュアンスをストレートに伝えます。
- 例文:
He showed great modesty in success, which impressed everyone.
(彼は成功しても非常に謙虚であり、周囲を感銘させた。)
Keep one’s feet on the ground
- 意味:「地に足をつけたままにする」
- 解説:成功して浮ついたり、現実を見失ったりしないという、日本語の「得意淡然」に近い実践的なニュアンスを含みます。
- 例文:
Even after winning the prize, she managed to keep her feet on the ground.
(賞を取った後でも、彼女は決して浮かれることはなかった。)
「得意淡然」の対句
「得意淡然」には、セットで語られるべき有名な対句(ついく)があります。
それが、「失意泰然」(しついたいぜん)です。
これは「失敗して失意の底にあるときこそ、ゆったりと落ち着いて構えていなさい」という意味です。
成功したときはおごらず(得意淡然)、失敗したときは慌てず騒がずどっしりと構える(失意泰然)。
この二つを合わせて「得意淡然、失意泰然」と覚えることで、人生の波に左右されない、真に自立した精神の在り方を深く理解することができます。
多くの経営者や教育者がこの一対の言葉を大切にしているのは、勝負や成果の一喜一憂を超えた場所にある「心の平安」こそが、長期的な成功の鍵であることを知っているからかもしれません。
まとめ
「得意淡然」という言葉は、私たちがつい忘れがちな「成功との正しい向き合い方」を教えてくれます。
良い結果が出たときに、それを自分の実力のおかげだと過信せず、周囲への感謝と共に静かに受け入れる。
そうした「淡々とした強さ」を持つことで、一時の成功に振り回されない、より大きな人間的成長が期待できることでしょう。
日々の中で小さな成功を収めたとき、心の中でこの言葉を唱えるだけでも、自分自身を客観的に見つめるきっかけになるかもしれません。







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