一陽来復

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四字熟語 故事成語
一陽来復
(いちようらいふく)

8文字の言葉」から始まる言葉

厳しい寒さに身を縮めて過ごす日々の中で、ふと日差しの暖かさに春の予感を感じることがあります。
長く続いた不運や苦しい状況に耐え忍んだ末に、ようやく明るい兆しが見え始め、物事が良い方向へと転じる。
そんな、希望が巡ってくる瞬間を、
「一陽来復」(いちようらいふく)と言います。
冷たい土の下で芽吹きの準備が整い、光が差し込むような時の移ろいを表す言葉です。

意味・教訓

「一陽来復」とは、冬が去り春が来ること、あるいは悪いことが続いた後にようやく幸運が巡ってくることを意味します。
単に季節が巡るだけでなく、どん底の状態から運気が好転するという力強い励ましのニュアンスが含まれています。

  • 一陽(いちよう):
    易学において、冬至の時期に初めて生じる一筋の「陽」の気を指します。
  • 来復(らいふく):
    一度去ったものが、再び戻ってくることを意味します。

語源・由来

「一陽来復」の語源は、中国の古い哲学書である『易経』(えききょう)にあります。
古代中国では、万物の変化を「陰」と「陽」の二つの気で捉えていました。

一年の中で最も昼が短く、陰の気が極まる冬至の時期を、易の形(卦)では「地雷復」(じらいふく)と呼びます。
この卦は、全てが陰であったところに、一番底から一つの陽が戻ってくる形をしており、これを「一陽が生じる」と表現しました。

このことから、冬至を境に太陽の力が再び強まっていくように、「どん底の状態から再び上昇へと転じる」という意味で使われるようになりました。
かつての農耕社会において、冬の終わりは生命の再生を意味する最も喜ばしい節目だったのです。

使い方・例文

「一陽来復」は、長い間の苦労が報われる際や、景気や健康状態が回復に向かう場面で使われます。
「これから良くなっていく」というポジティブな展望を示すため、新年の挨拶や、再起を期する場面でのスローガンとしても親しまれています。

例文

  • 受験勉強の苦労が実り、第一志望の合格という「一陽来復」の春を迎えた。
  • 業績不振で苦しんだ我が社も、新プロジェクトの成功でようやく「一陽来復」の兆しが見えてきた。
  • 「今は辛い時期だけど、一陽来復を信じて前を向こう」と病床の友人を励ました。
  • 家族の相次ぐトラブルに悩まされていたが、ようやく一陽来復の平穏な日々が戻ってきた。

文学作品・メディアでの使用例

『吾輩は猫である』(夏目漱石)
明治時代の文豪、夏目漱石の代表作の中でも、新年のめでたい空気感を象徴する言葉として登場します。

門松を立てたから一陽来復だなどと云うのは、いかにも景気が宜過ぎる。
(中略)
新年に際して、ただ一陽来復の四字を頭に浮べ得れば、それで猫としては満足なのである。

正月という区切りに、世の中が「これからは良いことが起こる」と期待する楽天的な雰囲気を、猫の冷めた視点を通してユーモラスに描いています。

類義語・関連語

「一陽来復」と似た意味を持つ言葉には、好転や再起を表すものが多く存在します。

  • 苦尽甘来(くじんかんらい):
    苦しい時期が終わり、楽しい時期がやってくること。
  • 禍を転じて福と為す(わざわいをてんじてふくとなす):
    身に降りかかった災難を、うまく活用して幸せに結びつけること。
  • 待てば海路の日和あり(まてばかいろのひよりあり):
    今は状況が悪くても、じっと待っていれば必ず幸運な機会が訪れるという教訓。

対義語

「一陽来復」とは対照的に、物事の衰退やさらなる悪化を指す言葉は以下の通りです。

  • 盛者必衰(じょうしゃひっすい):
    勢いのある者も、必ずいつかは衰え、滅びてしまうということ。
  • 泣きっ面に蜂(なきっつらにはち):
    不幸な状況にある時に、さらに別の災難が重なること。
  • 暗雲低迷(あんうんていめい):
    悪い状態が続き、好転の兆しが全く見えない様子。

英語表現

「一陽来復」を英語で表現する場合、光や希望の到来に例えたフレーズが用いられます。

After a storm comes a calm.

  • 意味:「嵐の後は凪(なぎ)が来る」
  • 解説:厳しい状況の後には、必ず穏やかで良い状態が訪れるという、西洋で最も一般的な「一陽来復」に近いことわざです。
  • 例文:
    Hang in there! After a storm comes a calm.
    (頑張れ!一陽来復、きっと良くなるよ。)

Every cloud has a silver lining.

  • 意味:「どんな雲にも銀の裏地がある」
  • 解説:厚い雲(困難)の向こうには常に太陽が輝いていることから、どんなに悪い状況でも必ず希望の兆しがあることを意味します。

冬至と穴八幡宮のエピソード

「一陽来復」という言葉は、東京・早稲田にある「穴八幡宮(あなはちまんぐう)」の伝統的なお守りとしても有名です。
この神社では、毎年冬至から節分までの期間に限り、「一陽来復」と書かれた特殊なお札を授与しています。

このお守りは「金銀融通(お金の巡りが良くなる)」の御利益があることで知られ、江戸時代から庶民の間で親しまれてきました。
一年で最も「陰」が極まる冬至の日に、翌年の「陽」への転換を願って自宅の定められた方角に貼るという独特の風習があります。

どん底から這い上がり、運気を一転させたいという人々の切実な願いが、この四字熟語には込められています。
単なる概念を超えて、人々の暮らしに寄り添う「縁起物」としての側面も、この言葉の魅力の一つです。

まとめ

人生には、どうしても避けられない冬のような停滞期が訪れます。
しかし、どんなに夜が長くても必ず朝が来るように、物事は常に変化し、巡り続けています。

「一陽来復」という言葉は、私たちの心に「今は辛くても、必ず春は来る」という確信を与えてくれます。
目の前の困難に一喜一憂せず、耐えるべき時は静かに力を蓄え、訪れる好機を前向きに待つ。
そんな古人の知恵は、変化の激しい現代を生きる私たちの背中を、穏やかに、そして力強く押してくれることでしょう。

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