「早く新しい方法を取り入れればいいのに」と思いつつ、つい慣れ親しんだ古いやり方にしがみついてしまう。
あるいは、根本的な解決が面倒で、とりあえず目先のことだけを取り繕って逃げてしまう。
そんな、古い習慣を改められず、その場しのぎで物事を済ませようとする態度を、
「因循姑息」(いんじゅんこそく)と言います。
意味・教訓
「因循姑息」とは、古い習慣や方法にこだわって改めようとせず、その場しのぎの間に合わせで済ませるという意味の四字熟語です。
現状を打破する勇気がなく、消極的な態度で問題を先送りにする様子を指して使われます。
- 因循(いんじゅん):
古い習慣に頼って、なかなか決断を下さないこと。 - 姑息(こそく):
根本的な解決をせず、一時しのぎをすること。
「姑息」という言葉は、現代では「卑怯(ひきょう)だ」という意味で使われることが多いですが、本来は「一時的な休息」や「その場しのぎ」を指す言葉です。
語源・由来
「因循姑息」の由来は、中国の古い歴史書や思想にまで遡ります。
「因循」は、『漢書』(かんじょ)などの歴史書において、皇帝の命令が実行されずに滞る様子や、古いしきたりをそのまま引き継ぐことを指して使われていました。
一方の「姑息」は、『礼記』(らいき)という書物に登場します。
「姑」はしばらくの間、「息」は休むことを意味し、本来は「少しの間、息をつく」というニュアンスでした。
この二つが組み合わさり、「古いやり方に固執して、一時しのぎで済ませる」という、改革を拒む消極的な姿勢を批判する言葉として定着しました。
現在では、組織の硬直化や、個人の決断力不足を指摘する際に用いられることが一般的です。
使い方・例文
変化が必要だと分かっていながら、面倒を避けて現状を維持しようとする場面で使われます。
特に、抜本的な解決策を講じずに目先のことだけを取り繕うような状況に適しています。
例文
- 前例がないという理由で改革を拒む、自治会の「因循姑息」な姿勢が問題になっている。
- テスト前に部屋の掃除を始めて現実逃避するのは、まさに「因循姑息」な態度だ。
- 深刻な赤字を抱えているのに、因循姑息な経費削減だけで乗り切ろうとするのは無理がある。
- 「因循姑息な対応では根本解決にならない」と、父は壊れた棚の修理をやり直した。
文学作品での使用例
夏目漱石の作品など、明治から大正にかけての文学作品において、当時の古い価値観や優柔不断な態度を描写する際によく登場します。
『坊っちゃん』(夏目漱石)
主人公の坊っちゃんが、中学校の教師たちの事なかれ主義や、はっきりしない態度を批判する文脈で使われています。
「因循(いんじゅん)な奴(やつ)だ。いくら言葉を並べたって、そう、因循姑息(いんじゅんこそく)に構えていては、永久に解決はつかないぞ」
誤用・注意点
「因循姑息」を使う際、特に注意すべきは「姑息」のニュアンスです。
現代の日常会話では、「姑息な手段」を「卑怯なやり方」「正々堂々としていない」という意味で使う人が増えています。
しかし、本来は「一時しのぎ」という意味です。
そのため、「因循姑息」を「卑怯で優柔不断」という意味で捉えるのは、厳密には間違いです。
あくまでも「問題を先送りにして、根本から解決しようとしない怠惰な姿勢」を指す言葉であることを忘れないようにしましょう。
類義語・関連語
「因循姑息」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 旧態依然(きゅうたいいぜん):
昔のままの状態が変わらず、進歩が全く見られないこと。 - 弥縫策(びほうさく):
失敗や欠点をつくろい、一時的に逃れるための計画。 - 苟且(こうしょ):
その場しのぎ。いい加減に物事を済ませること。 - おざなり:
その場限りの間に合わせで、物事をおろそかにすること。
「因循姑息」はこれらの言葉の中でも、特に「変化を嫌う保守性」と「一時しのぎ」の両方のニュアンスを強く含んでいます。
対義語
「因循姑息」とは対照的な意味を持つ言葉は、果敢に変化を求める姿勢を示すものです。
- 進取果敢(しんしゅかかん):
自ら進んで物事に取り組み、強い決断力を持って実行すること。 - 抜本塞源(ばっぽんそくげん):
物事の根本にある原因を取り除き、問題を解決すること。 - 勇往邁進(ゆうおうまいしん):
目的に向かって、恐れることなくまっしぐらに突き進むこと。
英語表現
「因循姑息」を英語で表現する場合、ニュアンスに応じて以下のようなフレーズが使われます。
temporizing measures
直訳すると「一時しのぎの対策」。
根本解決を避けるニュアンスが含まれます。
- 例文:
The government’s response was nothing more than temporizing measures.
(政府の対応は、因循姑息な一時しのぎに過ぎなかった。)
stopgap measure
「間に合わせの策」という意味。
問題の本質を解決せず、とりあえず穴埋めをする際に使われます。
- 例文:
We need a permanent solution, not just a stopgap measure.
(因循姑息な間に合わせではなく、永続的な解決策が必要だ。)
まとめ
古い習慣にしがみつき、目の前の課題を先送りにしてしまう態度は、一時の安らぎを与えてくれるかもしれません。
しかし、根本的な原因に向き合わなければ、問題は形を変えて再び目の前に現れるものです。
大切なのは、現状の綻びに気づいたとき、勇気を持って「今、何を変えるべきか」を自問自答すること。
この言葉は、私たちがつい陥りがちな「事なかれ主義」に対する、鋭い警鐘であると言えるかもしれません。
変化を恐れず、根本的な解決へと一歩踏み出す姿勢を大切にしたいものです。





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