意味
「峠を越す(とうげをこす)」とは、物事の最も盛んな時期や、最も危険な状態を過ぎて、勢いが衰えたり落ち着いたりしていくという意味です。
山道の一番高い地点である峠を境に上り坂が下り坂に変わることから、病気や天候など自然に上下する物事については「これから楽になる」という安堵を、人気や勢いなど盛衰のある物事については「これから下り坂になる」という響きを持ちます。
- 峠(とうげ):山道を登り切り、下りに変わる最も高い地点。
語源・由来
「峠」という言葉は、山を越える人が道の最も高い地点で山の神や道祖神に旅の安全を祈って捧げ物をした「手向け(たむけ)」が音変化したもの、というのが有力な説です。
峠の頂には、こうした祈りの場として道祖神の祠や地蔵が置かれることが多く、そこは登りと下りの境目であると同時に、村と村、国と国の境目でもありました。
上り坂を歩き続けてきた旅人にとって、峠の頂に立てばあとは重力に任せて下るだけになることから、「峠を越す」は病気や天候など自然に上下する物事について「これでもう悪くはならない」という安堵を表す言葉として使われるようになりました。
使い方・例文
「峠を越す」は、病気や天候、忙しさなど、盛んな時期や苦しい時期が過ぎていく場面で使われます。
- 手術は無事終わり、ようやく峠を越したと主治医が言った。
- 今回の台風による影響も、今夜には峠を越す見通しだ。
- 繁忙期の峠を越して、ようやく定時に帰れるようになった。
類義語・関連語
「峠を越す」と同じように、物事の盛んな時期や危険な状態が過ぎたことを表す言葉には、次のようなものがあります。
- 山を越す(やまをこす):
物事の最も困難な、または重要な局面を通り過ぎること。 - 下火になる(したびになる):
勢いが弱まり、以前ほど盛んでなくなること。 - 快方に向かう(かいほうにむかう):
病気やけがの具合がよくなっていくこと。
「峠を越す」と「山を越す」の違い
「山を越す」は「峠を越す」との違いに迷いやすい言葉です。
もとになっている地形が違うため、指しているものが少し異なります。
| 語句 | 指している地形 | 伝わるニュアンス |
|---|---|---|
| 峠を越す (とうげをこす) | 山と山の間の、上りと下りが入れ替わる境目 | この先は下り坂だという「転換」 |
| 山を越す (やまをこす) | 盛り上がった山、またはその頂上そのもの | 高く困難な対象を乗り越えたという「達成」 |
英語表現
over the hump
最も苦しい局面を越え、これから楽になる状況を表す口語表現。
We’ve had a rough few months, but I think we’re finally over the hump.
(ここ数か月大変でしたが、ようやく峠を越したと思います。)
the worst is over
危険や困難の最悪期が過ぎたことを伝える表現。
The doctor said the worst is over and she should recover soon.
(医師は峠を越えたので、じきに回復するだろうと言った。)
鎌倉時代の歌論書に、すでにこの比喩があった
「峠を越す」がいつ頃から使われていたかは、鎌倉時代初期の歌論書『無名抄』にさかのぼれます。
鴨長明が1211年頃に著したこの書物の第71話には「骨法ある人の境に入り、峠を越えて後」という一文があり、和歌の技術を極めていく過程を峠越えにたとえています。
少なくとも鎌倉時代には、この比喩がすでに使われていたことがわかります。









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