意味
「疑わしきは罰せず」とは、有罪だと証明しきれない相手を、疑いだけで罰してはいけないという教えです。
もとは刑事裁判で判決を下すときの原則を指す言葉ですが、日常の会話でも、根拠のない疑いだけで人を責めるべきではない場面のたとえとして使われます。
語源・由来
「疑わしきは罰せず」は、ラテン語の法格言「イン・ドゥビオ・プロ・レオ(in dubio pro reo)」を日本語に置き換えた言葉です。
証拠に基づかずに人を罰することを戒める考え方は、すでに古代ローマ法の思想に見られます。
この考え方が近代的な原則として明文化されたのは、1789年にフランス国民議会が採択した人権宣言によってです。
バスティーユ牢獄が襲撃された直後に定められたこの宣言の第9条は、何人も有罪と宣告されるまでは無罪と推定されると定め、身柄拘束の行き過ぎを戒めました。
日本では明治時代に近代的な刑事司法の制度を整えるなかでこの考え方が取り入れられ、現在の刑事訴訟法336条は、犯罪の証明がないときは無罪を言い渡さなければならないと定めています。
使い方・例文
「疑わしきは罰せず」は、証拠が不十分なまま人を有罪だと決めつけるべきではない場面で使われます。
- 証人の証言が食い違い、疑わしきは罰せずの原則で無罪判決が出た。
- 決定的な証拠がない以上、疑わしきは罰せずで処分は見送られた。
- はっきりしないまま責めるのは疑わしきは罰せずの考え方に反する。
類義語・関連語
「疑わしきは罰せず」と同じように、確かな証拠もなく人を罪に定めることを戒める言葉には、次のようなものがあります。
- 推定無罪の原則(すいていむざいのげんそく):
有罪の判決が確定するまでは、被疑者や被告人を無実の人と同じように扱うべきだとする、より広い人権の原則。 - 十人の真犯人を逃すとも一人の無辜を罰するなかれ(じゅうにんのしんはんにんをのがすともひとりのむこをばっするなかれ):
えん罪を防ぐことを、真犯人を取り逃がすことより重く見る考え方を示した言葉。
「疑わしきは罰せず」と「推定無罪の原則」の違い
どちらも証拠が不十分なときに被疑者や被告人を守るための考え方ですが、対象とする範囲が違います。
「疑わしきは罰せず」は判決を下す場面に絞った証明責任のルールで、「推定無罪の原則」は逮捕から判決確定までの扱い全体を貫く、より広い原理です。
| 語句 | 対象となる場面 | 性質 |
|---|---|---|
| 疑わしきは罰せず (うたがわしきはばっせず) | 判決を下す場面 | 証明責任のルール |
| 推定無罪の原則 (すいていむざいのげんそく) | 逮捕から判決確定まで | 人権保障の原理 |
英語表現
give someone the benefit of the doubt
証拠がはっきりしない間は、相手を疑わずに信じておくという意味の日常表現。
Let’s give him the benefit of the doubt until we know more.
(もっと分かるまでは、彼を疑わしきは罰せずの気持ちで見てあげよう。)
innocent until proven guilty
有罪と証明されるまでは無罪として扱うという、裁判の原則を表す言い方。
In this country, a suspect is innocent until proven guilty.
(この国では、容疑者は有罪だと証明されるまで無罪として扱われる。)
取調べの23日間
日本の刑事訴訟法は、逮捕から起訴までの身柄拘束を最長23日間まで認めています。
この間、否認を続ける被疑者の保釈は認められにくく、否認事件の保釈率は12.3%にとどまるという集計があります。
自白すれば早く外に出られるという状況が虚偽の自白を招くとして、この仕組みは「人質司法」と呼ばれ、国連自由権規約委員会やヒューマン・ライツ・ウォッチが繰り返し是正を求めてきました。
日本の刑事裁判の有罪率は、99.9%前後で推移しています。









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