意味
「人事不省(じんじふせい)」とは、意識を失い、周りのことが何も分からなくなった状態という意味です。
重い病気やけがで昏睡に陥ったときのほか、気絶して何も感じなくなったときにも使います。
- 人事(じんじ):人のなし得る事柄。
- 不省(ふせい):省みないこと。
語源・由来
「人事不省」は、ドイツ語で意識のない状態を表す Bewusstlosigkeit の訳語にあたります。
使い方・例文
「人事不省に陥る」「人事不省になる」の形で使います。
- 階段から落ちた祖父は、頭を強く打って人事不省に陥った。
- 熱中症で倒れた選手は、救急車が着くまで人事不省のままだった。
- 酒を飲みすぎて人事不省になり、その夜のことを何も覚えていない。
類義語・関連語
この言葉と同様に、意識を失った状態を表す言葉には、次のようなものがあります。
- 前後不覚(ぜんごふかく):
物事の区別もつかなくなるほど、正体を失うこと。 - 昏睡(こんすい):
刺激を与えても反応せず、目を覚まさない状態。意識障害のうち最も重い段階。 - 失神(しっしん):
ごく短い間、一時的に意識がなくなること。
「人事不省」と類義語の違い
どれも意識を失った状態を表しますが、「失神」はごく短い間の意識の消失に限られ、「昏睡」は意識障害の中で最も重い段階を指します。
「人事不省」は意識が完全に失われた状態を広く表し、昏睡にも気絶にも使います。
| 語句 | 違い |
|---|---|
| 前後不覚 (ぜんごふかく) | 物事の区別がつかないほど正体をなくすこと |
| 昏睡 (こんすい) | 刺激にも反応せず目覚めない、最も重い意識障害 |
| 失神 (しっしん) | ごく短い時間だけ意識がなくなること |
英語表現
lose consciousness
意識を失うこと。
He lost consciousness after hitting his head on the floor.
(彼は床に頭を打って人事不省に陥った。)
out cold
完全に意識を失った状態。
The boxer was out cold for a few minutes.
(そのボクサーは数分間、人事不省になっていた。)
漱石は修善寺で三十分の人事不省に陥っていた
夏目漱石は1910年(明治43年)、療養のために滞在していた伊豆の修善寺で、胃の潰瘍から大量の血を吐きました。
漱石は、その夕方から翌朝までの様子をすべて覚えているつもりでいました。
ところが後で妻の日記を読み、自分が人事不省に陥っていたことを知ります。
随筆「思い出す事など」には、そのときのことが次のように書かれています。
程経て妻の心覚につけた日記を読んで見て、その中に、ノウヒンケツ(狼狽した妻は脳貧血をかくのごとく書いている)を起し人事不省に陥るとあるのに気がついた時、余は妻は枕辺に呼んで、当時の模様を委しく聞く事ができた。徹頭徹尾明暸な意識を有して注射を受けたとのみ考えていた余は、実に三十分の長い間死んでいたのであった。
(しばらくして妻が書きとめた日記を読むと、脳貧血を起こして人事不省に陥ったとあった。それに気づいて妻を枕元に呼び、そのときの様子を詳しく聞いた。はっきりした意識のまま注射を受けたと思っていた私は、実に三十分もの間、死んだも同然だったのである。)
同じ文章の中で漱石は、この人事不省が、寝たまま体の向きを変えようとしたときに起きた脳貧血によるものだったと記しています。

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