テストで悪い点数を取ったとき、親に見つからないよう机の引き出しの奥に隠してしまった。
あるいは、部屋の隅に溜まったゴミを片付けるのが面倒で、上から大きな布を被せて見えないようにした。
誰にでもある、不都合なことから目を逸らし、その場をやり過ごしたいという心理。
まさに「臭いものに蓋をする」(くさいものにふたをする)というわけです。
一時的に安心はできても、根本的な問題は残ったままというこの言葉には、人間の弱さと社会の縮図が隠されています。
意味・教訓
「臭いものに蓋をする」とは、失敗や悪事、醜聞など、自分にとって都合の悪いことが外部に漏れないよう、根本的な解決をせずに一時的な手段で隠し通すことを意味します。
この言葉は、単に「隠す」というだけでなく、「本当は解決すべき問題があるのに、それを無視して表面だけを取り繕う」という、やや批判的なニュアンスを含んで使われるのが一般的です。
語源・由来
「臭いものに蓋をする」は、日本の生活の中から自然に生まれた言葉です。
悪臭を放つものがあれば、その原因を掃除して取り除くのが一番ですが、手間がかかったり汚れたりするのを嫌い、とりあえず蓋をして臭いが漏れないようにする。
この様子を、人間関係や社会的な問題の処理の仕方に例えるようになりました。
この表現は、江戸時代にはすでに庶民の間で広く浸透していました。
「江戸いろはかるた」の読み札に採用されたことで、日本全国に定着したと言われています。
使い方・例文
「臭いものに蓋をする」は、家庭内の小さな隠し事から、組織的な不祥事の隠蔽まで、幅広い場面で使用されます。
ただし、自分自身の行動を反省する際だけでなく、他人の卑怯なやり方を批判する文脈で使われることも多いため、使用する相手には注意が必要です。
例文
- 弟が花瓶を割ったことを母に黙っているのは、まさに「臭いものに蓋をする」ようなものだ。
後できっと叱られるに違いない。 - クラスで起きたトラブルについて、先生が詳しい調査をせずに全員を仲直りさせたのは、「臭いものに蓋をする」ような対応で納得がいかない。
- 「不祥事の原因を究明せずに臭いものに蓋をするような体質では、この会社に未来はない」と、先輩が嘆いていた。
文学作品・メディアでの使用例
多くの作家が、人間の心理や社会の欺瞞を描く際にこの言葉を用いています。
『それから』(夏目漱石)
主人公の代助が、友人との関係や自身の身の振り方について、世間体や体面を気にする周囲の態度を冷ややかに見つめるシーンで登場します。
何でも臭いものに蓋をする式で、其場さえ済めば、後は野となれ山となれと云ふ覚悟らしい。
誤用・注意点
「臭いものに蓋をする」は、あくまで「一時しのぎ」や「隠蔽」を指すマイナスの意味を持つ言葉です。
そのため、「問題を上手に解決した」というポジティブな意味で使うのは誤りです。
また、似た響きの言葉に「臭い飯を食う」がありますが、こちらは「刑務所に入る」という意味の隠語であり、全く意味が異なります。
混同しないように注意しましょう。
類義語・関連語
「臭いものに蓋をする」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 弥縫策(びほうさく):
失敗や欠点を一時的に取り繕うための、間に合わせの策。 - 糊塗する(ことする):
一時しのぎに表面だけを塗り繕って、物事をうやむやにすること。 - お茶を濁す(おちゃをにごす):
いい加減なことを言ったりしたりして、その場をごまかすこと。
「臭いものに蓋をする」は具体的な「物理的に隠す」イメージが強いですが、「弥縫策」や「糊塗する」はより抽象的で、議論や説明において欠陥を隠す際によく使われます。
対義語
「臭いものに蓋をする」とは対照的な意味を持つ言葉は、以下の通りです。
- 膿を出す(うみをだす):
内部に溜まった悪い要素や不祥事を、隠さずにすべてさらけ出して根本的に解決すること。 - 白日の下に晒す(はくじつのもとにさらす):
隠されていた悪事や秘密などを、すっかり明るみに出すこと。
英語表現
「臭いものに蓋をする」を英語で表現する場合、比喩表現を用いるのが一般的です。
Sweep something under the rug
- 意味:「(不都合なことを)絨毯の下に掃き出す」
- 解説:ゴミを掃除機で吸い取るのではなく、見えないように絨毯の下へ押し込む様子。
日本の「蓋をする」と非常によく似た比喩表現です。 - 例文:
The company tried to sweep the scandal under the rug.
(その会社はスキャンダルを臭いものに蓋をするように隠そうとした。)
Put a lid on it
- 意味:「蓋をする、秘密にする」
- 解説:日本語の「蓋をする」に直結する表現。
噂が広がらないように抑え込む、あるいは話を打ち切る際にも使われます。 - 例文:
The government is trying to put a lid on the news.
(政府はそのニュースに臭いものに蓋をするように、報道を抑え込もうとしている。)
まとめ
「臭いものに蓋をする」という言葉は、私たちの生活のいたるとるところに潜む「不都合を隠したい」という誘惑を鋭く突いています。
確かに、その場をやり過ごすことで一時的な平穏は得られるかもしれません。
しかし、蓋の下にある「臭いの元」は、時間が経つほどに深刻な事態を招くこともあります。
この言葉を思い出したとき、それは「今こそ根本的な解決に取り組むべきタイミングだ」という、自分自身へのサインと言えるかもしれません。








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