意味
「流れに棹さす(ながれにさおさす)」とは、時の勢いや好都合な成り行きに乗って、物事を調子よく進めるという意味です。
人が時流をうまくつかんで事を運ぶ場合にも、物事そのものが順調にはかどる場合にも使います。
- 棹(さお):舟を進めるときに川底などを突く長い棒。
- さす:棹を水の底に突き入れて舟を進めること。
語源・由来
この言葉は、流れに乗って下る舟に棹をさし、さらに勢いをつけて進ませる様子にたとえたものです。
水の勢いに棹の力が加わることから、順調な物事にいっそう弾みがつく意味になりました。

使い方・例文
「さす」は「差す」「刺す」と書くこともあります。
- 初戦の大勝で流れに棹さし、チームは一気に決勝まで勝ち進んだ。
- 町おこしの機運が高まる流れに棹さすように、市は新しい補助制度を始めた。
- 大口の注文が続き、事業は流れに棹さすように伸びていった。
漱石『草枕』の冒頭の一句
『草枕』(夏目漱石)は、絵の具箱を肩にかけた「余」が山道を登りながら、人の世の住みにくさを考える場面から始まります。
その冒頭に、この言い回しを踏まえた次の一句があります。
山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
「情に棹させば流される」は、人情に引かれるままに動けば、その流れに押し流されて理性を失う、という意味です。
「棹さす」を流れに乗って勢いを増す意味で読むと、「流される」とすんなりつながります。
使うときの注意
「流れに棹さす」を、流れに逆らう、時の勢いを止めるという意味で使うのは誤りです。
棹を立てて水の流れを止めるものと取り違えた使い方で、たとえば、皆の意見がまとまりかけたところで反対を述べることを「流れに棹さす」と言うと、本来の意味と逆になります。
文化庁の令和7年度「国語に関する世論調査」では、「その発言は流れに棹さすものだ」がどちらの意味だと思うかを尋ねています。
本来の意味とされてきた、勢いを増す側の意味を選んだ人は22.7%で、勢いを失わせる側の意味を選んだ人が68.9%でした。
類義語・関連語
いずれも、勢いや好機に乗って物事が順調に進むことを、舟や波にたとえた言葉です。
- 得手に帆を揚げる(えてにほをあげる):
得意なことを生かせる好機が来て、張り切って事に当たること。
勢いのもとが自分の得意なわざである点が、「流れに棹さす」との違い。 - 追風に帆を上げる(おいてにほをあげる):
勢いに乗じて、思いのままに力を振るうことのたとえ。物事が順調にはかどる意味にも使う。 - 波に乗る(なみにのる):
時勢にうまく合って栄えること。時流に乗る、調子に乗るの意味にもいう。 - 順風満帆(じゅんぷうまんぱん):
追い風を帆いっぱいに受けて船が進むように、物事が順調に運ぶこと。
勢いに乗る動きよりも、順調な状態そのものを言う語。
『十訓抄』では努力を重ねて待つたとえに
鎌倉時代の説話集『十訓抄』にも、この言い回しが出てきます。
人は若いうちから務めに励むべきで、何もせずに幸運を当てにするのは心もとない、と説く章に、次の一節があります。
まづ、あるべからむ振舞ひを用意して、そのうへ果報を待つは、流に棹ささむごとし。
(まず、なすべき行いをきちんと整えたうえで、よい報いを待つのは、流れに棹さすようなものだ。)
なすべきことをしたうえで待てば、物事は流れに乗った舟のように進む、という勢いに乗る側の意味で使われています。











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