意味
「善く泳ぐ者は溺る(よくおよぐものはおぼる)」とは、泳ぎが巧みな人は自分の技術を過信して無理をするため、かえって水に溺れてしまうことがあるという意味です。
自分が得意な物事ほど油断や慢心が生じやすく、それが原因で足元をすくわれるという教訓を表します。
単なる失敗の事実ではなく、本人の自惚れに原因があることを咎める厳しい響きを持ちます。
語源・由来
古代中国・前漢時代の思想書『淮南子』の原道訓にある、次の一節からきています。
夫善游者溺,善騎者墮,各以其所好,反自為禍。
(そもそも泳ぎのうまい者は溺れ、馬に乗るのがうまい者は落馬する。それぞれ自分の好むことによって、かえって自ら災いを招く。)
優れた技術を持っていても、それに頼りすぎて慎重さを欠けば身を滅ぼすという真理を説いています。
使い方・例文
「善く泳ぐ者は溺る」は、慢心を戒め、気を引き締めるよう促す場面で使われます。
相手への忠告や、自分自身への自戒の念を込めて用いる言葉です。
- 善く泳ぐ者は溺るの通り、得意な科目こそ検算を省かない。
- 彼は運転に自信があったが、善く泳ぐ者は溺るで事故を起こした。
- 優れた交渉術も強引すぎれば破談を招く。まさに善く泳ぐ者は溺るだ。
誤用・注意点
善く泳ぐ者は溺るには、本人の過信や油断を原因とする批判的なニュアンスが含まれます。
そのため、不運なミスをして落ち込んでいる人に対する慰めの言葉として使うのは不適切です。
能力の高い人が不注意からミスをした際に、自戒や警告として使うのが本来の用法です。
類義語・関連語
「善く泳ぐ者は溺る」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 過ちは好む所にあり(あやまちはこのむところにあり):
自身の好きで熱中している物事においてこそ、かえって失敗が起こりやすいという法則。 - 策士策に溺れる(さくしさくにおぼれる):
策略を操るのが上手な人は自身の策に頼りすぎ、かえって失敗を招く状態。
「善く泳ぐ者は溺る」と類義語の違い
「達人の失敗」を表す他のことわざと「善く泳ぐ者は溺る」は、一見似ていますが、そのニュアンスと適した使用シーンが明確に異なります。
対義語
善く泳ぐ者は溺ると反対の意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 石橋を叩いて渡る(いしばしをたたいてわたる):
堅固な石橋であっても叩いて安全を確かめるような、用心に用心を重ねる様子。 - 転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ):
失敗することがないように、前もって十分な準備や対策をしておくこと。
英語表現
Good swimmers are at length drowned
直訳:善く泳ぐ者はついに溺れる
意味:泳ぎが得意な人ほどリスクを冒すため最終的には溺れるという教訓
Don’t be overconfident, remember that good swimmers are at length drowned.
(自信過剰にならないでください、善く泳ぐ者は溺るということを忘れないように。)
『淮南子』は「善く泳ぐ者は溺る」の例に共工の滅亡を挙げる
『淮南子』原道訓は、「善く泳ぐ者は溺る」の一節に続けて、次のように書いています。
是故好事者未嘗不中,爭利者未嘗不窮也。昔共工之力,觸不周之山,使地東南傾。與高辛爭為帝,遂潛於淵,宗族殘滅,繼嗣絕祀。
(だから、事を好む者は傷を負わなかったためしがなく、利を争う者は行き詰まらなかったためしがない。昔、共工はその力で不周山に突き当たり、大地を東南に傾けた。高辛と帝位を争い、ついには淵に潜み、一族は滅び、跡継ぎも祭りも絶えた。)
力自慢の共工が、その力で帝位を争ってかえって一族を滅ぼした話を、得意なことが禍を招く例として挙げています。
原道訓はこの後、土は低いところにいて高さを争わないから安らかで、水は低いほうへ流れて先を争わないから速い、と続けます。
「善く泳ぐ者は溺る」は、もともと争わないことを説く文脈の中に置かれた言葉です。











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