意味
「愛及屋烏」とは、ある人を深く愛すると、その人にまつわるものまですべていとおしく思えてくることを表す四字熟語です。
好意が対象そのものを越えて広がっていく心の動きを指し、ほほえましいものとして語られます。
- 愛及(あいきゅう):愛情が及ぶこと。
- 屋烏(おくう):屋根にとまっているからす。
語源・由来
「愛及屋烏」は、中国の古い書物『尚書大伝』の大戦篇に出てくる一節から生まれました。
周の武王が殷の紂王を倒した直後の場面です。
殷の人々をどう扱えばよいかと問われた太公望は、こう答えました。
人を愛する者は其の屋上の烏をも兼ぬ、人を愛せざる者は其の胥余に及ぶ
「胥余」は村里の垣根を指します。
人を愛せばその家の屋根のからすまでかわいく思え、憎めばその村の垣根まで憎らしくなる。
だから敵はことごとく討つべきだ、というのが太公望の進言でした。
武王はこれを「不可」と退けています。
からすは、中国でも日本でも不吉な鳥として嫌われてきました。
その嫌われ者でさえかわいく見えるという極端な例で、好意がどこまで広がるかを示した言い方です。
中国語では「愛屋及烏」の形で使われ、日本では字の順を入れかえた「愛及屋烏」が四字熟語として定着しました。
使い方・例文
「愛及屋烏」は、好きな相手にまつわるものまで好きになってしまう心情を説明する場面で使われます。
- 孫がかわいくて、その落書きまで飾る。愛及屋烏である。
- 推しの出身地まで好きになるのは愛及屋烏というものだ。
- 師を敬うあまり、その筆跡まで写す。愛及屋烏の心だろう。
類義語・関連語
「愛及屋烏」と同じく、好意が判断を色づける様子を表す言葉には以下のようなものがあります。
- あばたもえくぼ:
好きになると、欠点まで魅力に見えてくること。 - 惚れた欲目(ほれたよくめ):
好意ゆえに、相手を実際より良く見てしまうこと。
対義語
- 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い(ぼうずにくけりゃけさまでにくい):
嫌いになると、その人に関わるものまで憎らしく思えること。
もとは戦後処理をめぐる進言だった
いまは好意の広がりを表す言葉ですが、『尚書大伝』での「屋上の烏」は、敵をどこまで討つかという相談の中に置かれていました。
太公望は好意と憎悪の対句を根拠に敵の殲滅を勧め、武王はそれを退けます。
続いて召公が有罪の者だけを殺すよう述べ、これも退けられ、最後に周公が「各々その宅に安んじ、各々その田を耕させよ」と述べたところで、武王はようやく世が定まったと感じた、と書かれています。
三つの案のうち、採られたのはからすの句ではないほうでした。









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