意味
「刀折れ矢尽きる」は、武器を失った戦場の様子をそのまま言葉にした言い方で、いまは事業や交渉、闘病など戦い以外の行き詰まりにも広く使われます。
力を出し惜しみした末の行き詰まりではなく、打てる手をすべて打ったうえで打つ手がなくなった状態を指します。
「刀折れ矢尽きて」「刀折れ矢尽きた」の形で、結末を語る文の中に置かれることが多い語です。
- 刀折れ(かたなおれ):斬り結ぶ刀が折れること。
- 矢尽きる(やつきる):射るための矢がなくなること。
語源・由来
「刀折れ矢尽きる」は、中国の歴史書『後漢書』の段熲伝に出てくる一節から生まれました。
段熲は、二世紀の後漢で西方の異民族と戦い続けた将軍です。
ある日の明け方、羌と呼ばれる人々の軍が段熲の陣へ攻めかかりました。
段熲は馬を下りて自ら斬り合い、正午ごろには次のような有様になります。
段熲、馬を下りて大いに戦い、日中に至り、刀折れ矢尽く
刀は折れ、矢は残らず射尽くした、という意味です。
それでも段熲が引かなかったため、攻めてきた側のほうが兵を退きました。
この一節が日本に伝わり、戦いに敗れてさんざんな有様になること、さらに物事に立ち向かう方策がまったくなくなることを表す言い方として使われるようになりました。
使い方・例文
「刀折れ矢尽きる」は、手を尽くしたうえで続けられなくなった局面を語るときに使われます。
- 資金繰りに走り回ったが刀折れ矢尽き、廃業を決めた。
- 延長十五回、投手陣は刀折れ矢尽き、ついに逆転を許した。
- 上告も棄却され、弁護団は刀折れ矢尽きたと会見で語った。
小説での使用例
『黒潮』(徳富蘆花)
手立てを失ってもなお引かないという気持ちが、刀が折れ矢が尽きても息のある限り敵に勝ちどきはあげさせない、という言い方で示されています。
刀折れ矢竭きても、一息吾に存する限りは、敵に凱歌は揚げさせぬ
類義語・関連語
「刀折れ矢尽きる」と同じく、手段が尽きて動けなくなった状態を表す言葉には以下のようなものがあります。
- 万事休す(ばんじきゅうす):
あらゆる手段が尽き、どうすることもできない状態。 - 進退窮まる(しんたいきわまる):
前にも後ろにも動けない窮地に陥ること。 - 八方塞がり(はっぽうふさがり):
どの方向にも差し障りがあり、身動きが取れないこと。
「刀折れ矢尽きる」と「万事休す」の違い
どちらも打つ手がなくなった場面で使いますが、目を向けている先が違います。
「刀折れ矢尽きる」は、戦う道具を使い果たしたという手段の側を言います。
「万事休す」は、もう終わりだという結末の側を言います。
| 語句 | 見ているもの | 使いどころ |
|---|---|---|
| 刀折れ矢尽きる (かたなおれやつきる) | 手段の枯渇 | 力を出し切った経緯 |
| 万事休す (ばんじきゅうす) | 結末の確定 | 望みが絶えた瞬間 |
英語表現
at the end of one’s rope
つないだ綱の端まで来たという言い方で、手立ても我慢も残っていない状態に合う表現。
After three failed rounds of funding, they were at the end of their rope.
(三度の資金調達に失敗し、彼らは刀折れ矢尽きた状態でした。)
「弓折れ矢尽きる」という言い方
「弓折れ矢尽きる」も、同じ意味の別の形として使われます。
もとになった後漢書の文で折れるのは刀のほうで、弓は出てきません。
刀は近づいて斬り結ぶ道具、弓は離れて射る道具で、どちらを失っても戦えなくなる点は変わりません。
日本語では二つの形が並んで使われ、憲法学者の宮沢俊義は一九六七年の著書で「刀折れ矢つきた状態」とかな交じりに書いています。










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