意味
「一将功成りて万骨枯る」は、「一将」と「万骨」という数の落差で組み立てられた句です。
一人の将軍の輝かしい功名の陰には、戦場に命を捨てた多くの兵士がいます。
成功者や指導者ばかりが功名を得るのを嘆く言葉です。
- 一将(いっしょう):一人の将軍。
- 万骨(ばんこつ):数え切れないほど多くの戦死者の骨。
- 枯る(かる):草木のように朽ちはてる。
語源・由来
「一将功成りて万骨枯る」は、唐王朝の末期を生きた詩人、曹松の漢詩「己亥歳」の一節です。
詩題の「己亥の歳」は、西暦879年にあたります。
唐は7世紀の初めから約300年続いた王朝ですが、このころには衰えて各地で反乱が起こり、この後わずか30年足らずで滅びました。
詩の後半は「憑君莫話封侯事、一将功成万骨枯」と続きます。
お願いだから軍功を挙げて高い地位を得たいなどと言わないでくれ、一人の将軍が功名を上げる陰で、おびただしい数の人骨が朽ちていくのだから、という意味です。
戦乱に苦しむ庶民の暮らしを案じたうえで置かれた一節でした。
この詩は『三体詩』に収められ、江戸時代の知識人に広く知られていたとされます。
使い方・例文
「一将功成りて万骨枯る」は、上に立つ者だけが称えられ、支えた人が報われない場面で使われます。
- 表彰されたのは部長一人。一将功成りて万骨枯るである。
- 現場が支えた成果を、一将功成りて万骨枯るにはしたくない。
- 名が残るのは監督だけか。一将功成りて万骨枯るだ。
類義語・関連語
「一将功成りて万骨枯る」と同じように、労を担った側が報われない様子を表す言葉があります。
- 犬骨折って鷹の餌食(いぬほねおってたかのえじき):
苦労して得た成果を他人に横取りされること。 - 縁の下の力持ち(えんのしたのちからもち):
人の見えないところで他人のために努力し、支える人。 - 論功行賞(ろんこうこうしょう):
功績の大小を論じ定め、それに応じた賞を与えること。
「一将功成りて万骨枯る」と「犬骨折って鷹の餌食」の違い
どちらも苦労した側が報われない話のため、置き換えて使いたくなります。
「一将功成りて万骨枯る」は上に立つ者が功名を受け取る形、「犬骨折って鷹の餌食」は横から現れた相手にさらわれる形です。
| 語句 | 得をする側 | もとの場面 |
|---|---|---|
| 一将功成りて万骨枯る (いっしょうこうなりてばんこつかる) | 上に立つ指導者 | 戦場 |
| 犬骨折って鷹の餌食 (いぬほねおってたかのえじき) | 横から来た第三者 | 鷹狩り |
元の詩で枯れるのは庶民の骨
元の詩で犠牲になるのは、戦乱に巻き込まれた庶民です。
いまの日本では、多くの場合、成功者とその部下や協力者の関係を指して使われます。
曹松の批判精神を受け継ぎ、部下や協力者の存在を忘れて成功者だけが手柄を独占していることを非難する意味合いで用いるのがふつうです。
佐藤紅緑の『ああ玉杯に花うけて』(1927〜28年)には、「一将功成りて万骨枯るという古言があります、ひとりの殿様がお城をきずくに、万人の百姓を苦しめました」という演説の場面が出てきます。









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