意味
「その手は桑名の焼き蛤(そのてはくわなのやきはまぐり)」とは、相手の魂胆はすっかりお見通しなので、そんな誘いには乗らないという意味です。
相手の誘いを、しゃれを利かせて断るときに使う言い回しで、「その手は食わない」を、焼き蛤で有名な「桑名」に掛けたしゃれになっています。
- その手(そのて):相手が仕掛けてくる手段や計略。
- 桑名(くわな):三重県北部の地名。東海道の宿場町。
- 焼き蛤(やきはまぐり):蛤を焼いた桑名の名物。
語源・由来
「その手は桑名の焼き蛤」は、「その手は食わない」という断りの言葉から生まれたしゃれです。
「食わな(い)」と地名の「桑名」は音がよく似ていて、そこへ土地の名物である焼き蛤を続けて言い足しました。
桑名は古くから東海道の宿場町として知られ、近くの海で良質の蛤がとれたため、焼き蛤や時雨蛤が名物になりました。
時雨蛤は、蛤をむき身にしてショウガを加えてゆで、たまり醤油で煮詰めたもので、今も三重県桑名の名産です。

(写真:yo &、Wikimedia Commons/CC BY 2.0)
使い方・例文
「その手は桑名の焼き蛤」は、相手のたくらみを見抜いて、誘いをはねつける場面で使われます。
- 今度こそ必ず儲かる話だって? その手は桑名の焼き蛤だ。
- 無料と言っておいて後から請求だろう。その手は桑名の焼き蛤。
- 泣き落としで値切るつもりか、その手は桑名の焼き蛤だよ。
小説での使用例
『つづれ烏羽玉』(林不忘)
1930年に書かれたこの作品では、相手の言い分を退けながら、そちらの動きはすっかり見えているぞと突きつける場面で使われています。
だがね、その手は桑名の焼き蛤だ。なあ、お前が今し方あそこのお邸を抜けて来たてえこたあこちとら百も、承知なんだ
類義語・関連語
「その手は桑名の焼き蛤」は、言いたいことのあとへ語呂の合う言葉を続けたしゃれです。
同じ型の言い回しや、逆にだまされる側を表す言葉には以下のようなものがあります。
- 恐れ入谷の鬼子母神(おそれいりやのきしもじん):
「恐れ入りやした」の「いりや」を地名の入谷に掛け、その地の鬼子母神へ続けた言い方。 - 驚き桃の木山椒の木(おどろきもものきさんしょのき):
「驚き」の「き」に「木」をかけた語呂合わせで、たいそう驚いたという意味。 - 口車に乗る(くちぐるまにのる):
巧みな話しぶりに乗せられて、だまされたり言いくるめられたりすること。 - 鵜呑みにする(うのみにする):
物事の真偽を確かめないまま、そっくりそのまま信じ込むこと。
「その手は桑名の焼き蛤」と「恐れ入谷の鬼子母神」の違い
どちらも、言いたいひとことに音の似た地名を掛け、そこから土地にちなむ言葉を続けた点で同じ形をしています。
「その手は桑名の焼き蛤」は相手の誘いを断るときに、「恐れ入谷の鬼子母神」は恐れ入りましたと応じるときに使います。
| 語句 | 伝えたいこと | 掛けた音 |
|---|---|---|
| その手は桑名の焼き蛤 | その手には乗らないという断り | 食わな/桑名 |
| 恐れ入谷の鬼子母神 | 恐れ入りましたという応じ方 | 入りや/入谷 |
英語表現
be not born yesterday
直訳は「昨日生まれたわけではない」で、世間知らずではないから、その手には乗らないと伝える言い回し。
Don’t think you can fool me with that old ruse. I wasn’t born yesterday.
(その古い手で私をだませると思わないでください。だまされるほど世間知らずではありません。)
1799年の洒落本、「桑名の焼き蛤」は四日市へ続いた
「その手は桑名の焼き蛤」の古い例は、寛政11年(1799)の洒落本(遊里を舞台にした江戸の読み物)『品川楊枝』に見られます。
出かける前に支度をしに家へ帰ると言う連れに、もう一人の男が「又はづさうと思ツて、其手はくはなのやき蛤」(またすっぽかすつもりだろう、その手は食わないよ)と言い返します。
言われた側はそんなつもりはないと打ち消していて、相手のたくらみを見抜いたつもりで使う、今と同じ使い方です。
この台詞は「やき蛤」で終わらず、「四日市夜の…」と続きます。
四日市は東海道で桑名の次の宿場で、1926年の注釈書『洒落本評釈』は、その「よ」を「一夜」に掛け、桑名から四日市へ続けたしゃれだと説明しています。
ここでは「その手は桑名の焼き蛤」が、地名のしゃれをもう一つつなげる起点になっています。









コメント