意味
「事事物物」とは、「事」と「物」をそれぞれ重ねることで、目に入るかぎりのあらゆる物事を指す言葉です。
まとめて全部という意味と、一つ一つそれぞれという意味の両方を含んでおり、身のまわりのものを一つ残らず言おうとするときに使われます。
古い文章では、繰り返しの記号を使って「事々物々」と書かれることもあります。
- 事(じ):おこないや出来事。
- 物(ぶつ):形をもったもの。
語源・由来
「事事物物」は、儒学の書物に出てくる言い方です。
中国明代の王陽明の語録『伝習録』の上巻(1518年刊)に、この語が登場します。
その上巻には、弟子が朱子の「事事物物に皆定理あり」という言葉を持ち出して先生の説との食い違いを尋ね、先生が、事事物物の上に至善を求めるのはかえって心の外に道理を求めることになると答える場面があります。
日本では、熊沢蕃山の随想録『集義和書』(1676年ごろ)に「吾心、事々物々の上にをいて好悪する所ある時は、仁にあらず」とあり、心が一つ一つの物事に好き嫌いを起こすようでは仁ではない、という意味です。
使い方・例文
「事事物物」は、身のまわりの物事をひとまとめに指したいときに使われます。
- 新任の課長は現場の事事物物にまで口を出したがる。
- 留学先では事事物物が珍しく、毎日が発見の連続だった。
- 祖父は事事物物に意味を見いだそうとする人だった。
小説での使用例
『内地雑居未来之夢』(坪内逍遙)
何を見てもそれを自分の材料として見てしまう、という文脈で使われています。
万般の事々物々を、おのれが材料と思ひて見るゆゑ
類義語・関連語
「事事物物」と同じように、ありとあらゆるものをひとまとめに指す言葉には以下のようなものがあります。
- 森羅万象(しんらばんしょう):
宇宙に存在する一切の事物や、あらゆる現象の総称。 - 一切合切(いっさいがっさい):
残らずすべて。何もかも全部という、勢いのある言い方。 - 一木一草(いちぼくいっそう):
その場にある全ての植物。転じて、ごくわずかなものまで。
「事事物物」と「森羅万象」の違い
どちらもすべてをひとまとめに指す言葉で、範囲の広さを言うときに並びます。
分かれるのは、一つ一つを数え上げる見方に立つか、天地全体をひとかたまりとして見るかという点です。
| 語句 | 見ている範囲 |
|---|---|
| 事事物物 (じじぶつぶつ) | 一つ一つの物事の集まり |
| 森羅万象 (しんらばんしょう) | 宇宙にあるすべての現象 |
英語表現
「事事物物」を英語で言うときは、一つ残らずという取りこぼしのなさを強める言い方があります。
each and every
一つ残らず、と念を押す言い方。取りこぼしのなさを強めるときに使う表現。
She checks each and every detail before the show.
(彼女は本番の前に一つ一つの細部を確かめます。)
every last thing
何から何まで全部、という言い方。くだけた会話で使う表現。
He remembers every last thing about that summer.
(彼はあの夏のことを何もかも覚えています。)
「じじもつもつ」というもう一つの読み
「事事物物」には「じじもつもつ」という読みもあります。
「物」は「荷物」「禁物」「進物」では「もつ」、「物質」「物価」では「ぶつ」と読み、二通りの音を持っています。
古く日本に入った漢字音を呉音、平安時代の初めごろまでに遣唐使や留学僧が伝えた唐の長安の音に基づくものを漢音といいます。
呉音がマ行・ナ行で取り入れた音は、漢音ではバ行・ダ行になることがあり、「馬」を「マ」と読むか「バ」と読むかがその例です。
「もつ」と「ぶつ」の違いも、この二つの系統の分かれ方にあたります。









コメント