意味
「触手を伸ばす」は、興味を持った対象に対して実際に働きかけ、自分のものにしようとする行動を表す言い方です。
気持ちが向くだけの段階ではなく行動に移す段階を指すため、企業や個人が新しい分野や利権に進出する場面でよく使われ、相手を出し抜こうとする下心が透けて見えるような、やや否定的な響きを伴うことがあります。
語源・由来
「触手を伸ばす」は、クラゲやイソギンチャク、タコなど無脊椎動物の体にある「触手」の働きから生まれた言い方です。
触手は獲物をとらえる感覚器官や捕食器官としての役目を持ち、イソギンチャクは触手の毒で獲物をしびれさせ、タコの触手は吸盤の力で一度からみつくと引きはがすのが難しいほどです。
自分から相手に向かって腕を伸ばし、とらえたものを離さないというその性質が、欲しいものに向けて働きかけ続ける人や組織の姿に重ねられ、この言い方が生まれました。
使い方・例文
「触手を伸ばす」は、企業や個人が新しい市場・分野・獲物に狙いを定めて動き出す場面で使われます。
- 大手商社が再生可能エネルギー事業にも触手を伸ばし始めた。
- 老舗の看板欲しさに、大手チェーンが触手を伸ばしてきた。
- 闇金業者が学生にまで触手を伸ばしていたと発覚した。
小説『悪魔の紋章』に登場
『悪魔の紋章』(江戸川乱歩)
1937年から翌年にかけて雑誌『日の出』に連載された長編で、指紋を残す殺人鬼の影に怯える登場人物の心情を表す場面で使われています。
「あいつが早くもこの隠れ家を探し当てて、奇怪な復讐の触手を伸ばしているのではあるまいか。」
類義語・関連語
「触手を伸ばす」と同じように、望むものに向けて働きかける言葉には以下のようなものがあります。
- 食指が動く(しょくしがうごく):
ごちそうや興味のある物事を前にして、欲しいという気持ちがわき起こること。 - 手を広げる(てをひろげる):
関わる仕事や活動の範囲を、新しい分野にまで広げること。
「触手を伸ばす」と「食指が動く」の違い
どちらも欲しいものに引かれる場面で使われますが、指す段階が異なります。
「食指が動く」は欲しいという気持ちが起きた段階を、「触手を伸ばす」は実際に手に入れようと動き出した段階を表します。
| 語句 | 指す段階 |
|---|---|
| 触手を伸ばす (しょくしゅをのばす) | 実際に働きかける行動 |
| 食指が動く (しょくしがうごく) | 欲しいという気持ちが起きる段階 |
英語表現
spread its tentacles
組織や企業が新しい分野・地域にまで勢力を広げる際に使う、「触手」の比喩をそのまま用いた言い方。
日本語の「触手を伸ばす」と発想が重なる、数少ない英語の表現。
The company began to spread its tentacles into new markets.
(その会社は新しい市場に触手を伸ばし始めた。)
イソギンチャクの腕が、欲の比喩になるまで
「触手」は、クラゲやイソギンチャク、タコやイカなどが獲物を捕らえるために持つ、腕のような器官を指す生物学の言葉です。
触れたものに絡みつき、引き寄せて捕食するこの器官の動きが、欲しいものに向かって静かに手を伸ばし、取り込もうとする人や組織の振る舞いに重ねられ、「触手を伸ばす」という言い方が生まれました。
日本語での使用例は大正から昭和にかけての小説にも見られ、平林初之輔の作品には「博士の病院の方へ探訪の触手をのばしたものである」、久生十蘭の作品には「あらゆる方面へ原料輸入の触手を伸ばしていた」という一文があります。









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