「上司に怒られたらどうしよう」
「老後の資金は足りるだろうか」
「嫌われたらどうしよう」
まだ起きてもいない未来の出来事を想像して、不安に押しつぶされそうになる夜があります。
まさに「取り越し苦労」(とりこしくろう)です。
未来のことは、神様でもない限り誰にもわかりません。それなのに、人間は数千年も前から同じように悩み、見えない影に怯えてきました。
この記事では、そんな「尽きない心配事」や「不安な心理」を表す言葉、過剰な警戒心、そして肩の力を抜いてくれる先人の知恵を整理して網羅的に紹介します。
- 無用な心配・しなくていい苦労
- 杞憂(きゆう)
- 気を揉む(きをもむ)
- 杯中の蛇影(はいちゅうのだえい)
- 独り相撲(ひとりずもう)
- 疑心が生み出す幻・過敏な反応
- 疑心暗鬼(ぎしんあんき)
- 戦々恐々(せんせんきょうきょう)
- 幽霊の正体見たり枯れ尾花(ゆうれいのしょうたいみたりかれおばな)
- 風声鶴唳(ふうせいかくれい)
- 草木皆兵(そうもくかいへい)
- 落ち武者は薄の穂にも怖ず(おちむしゃはすすきのほにもおず)
- トラウマ・慎重すぎる姿勢
- 未来はわからない・楽観的な教訓
- 案ずるより産むが易し(あんずるよりうむがやすし)
- 明日は明日の風が吹く(あしたはあしたのかぜがふく)
- 来年の事を言えば鬼が笑う(らいねんのことをいえばおにがわらう)
- 人事を尽くして天命を待つ(じんじをつくしててんめいをまつ)
- 果報は寝て待て(かほうはねてまて)
- 英語表現
- まとめ
無用な心配・しなくていい苦労
まずは、しなくても良い心配をして疲弊してしまう状態や、笑い話になるような過剰な不安を表す言葉です。
杞憂(きゆう)
まったく心配する必要のないことをあれこれと心配すること。
中国の杞(き)という国に、「天が落ちてきたり、大地が崩れたりしたらどうしよう」と本気で心配して、夜も眠れず食事も喉を通らなくなった人がいたという故事に由来します。
「それは杞憂に過ぎない」「杞憂に終わる」のように、取り越し苦労であることを指摘する際によく使われます。
気を揉む(きをもむ)
心配してあれこれと考え、落ち着かない状態になること。
「揉む」とは、紙などを手でこすり合わせる動作のこと。
心配のあまり、手や体をそわそわと動かしてしまう様子、あるいは心が揉みくちゃにされるような葛藤を表します。
「結果が出るまで気を揉む」のように、日常で最もよく使われる表現の一つです。
杯中の蛇影(はいちゅうのだえい)
疑い深いあまり、事実ではないことを気にして無駄に苦しむことのたとえ。
酒の入った杯に蛇のような影が映り、それを飲んでしまった男が「蛇を飲み込んだ」と思い込んで病気になってしまいましたが、実は壁に掛かっていた弓の影だったと分かった途端に治ったという話から来ています。
独り相撲(ひとりずもう)
相手がいないのに一人で気負い込んだり、結果が出ているのに一人でやきもきしたりすること。
周囲は何とも思っていないのに、「きっと怒っているに違いない」と一人で勝手に焦って空回りしている状態は、まさに精神的な独り相撲と言えます。
疑心が生み出す幻・過敏な反応
不安な心持ちでいると、何でもないことまで恐ろしいものに見えてくるものです。ネガティブな心理状態を表す言葉です。
疑心暗鬼(ぎしんあんき)
「疑心暗鬼を生ず」の略。
疑いの心があると、何でもないことまで恐ろしく感じたり、疑わしく思えたりすること。
暗闇の中に鬼がいるように錯覚してしまう心理です。
「上司の機嫌が悪いのは私のせいではないか」「あのヒソヒソ話は私の悪口ではないか」といった妄想の多くは、この疑心暗鬼によるものです。
戦々恐々(せんせんきょうきょう)
ある事態を恐れて、びくびくすること。
「戦戦」は恐れおののいて震える様子、「恐恐」は恐れ慎む様子。
「リストラにおびえて戦々恐々として過ごす」のように、悪い予感に対して極度に萎縮している状態を指します。
幽霊の正体見たり枯れ尾花(ゆうれいのしょうたいみたりかれおばな)
幽霊だと思って恐れていたものをよく見ると、実は枯れたススキの穂だったということ。
恐ろしいと思っていたことも、冷静になって実体を確かめてみれば、案外なんでもないつまらないものであるという教訓です。恐怖心の正体は、自分の心が作り出した幻影に過ぎません。
風声鶴唳(ふうせいかくれい)
わずかなことにも過敏に反応して恐れること。
敗走する軍隊が、風の音や鶴の鳴き声を聞いただけで「敵の追手が来た!」と怯えたという故事に由来します。精神的に追い詰められると、携帯の通知音ひとつにもビクッとしてしまうような状態です。
草木皆兵(そうもくかいへい)
山野の草や木がすべて敵兵に見えるほど、極度に恐れること。
上記の「風声鶴唳」と同じ戦い(肥水の戦い)の故事から生まれた言葉です。
敵を恐れるあまり、ただの植物すらも兵士に見えてしまうという、パニックに近い心理状態を表します。
落ち武者は薄の穂にも怖ず(おちむしゃはすすきのほにもおず)
何かに怯えている者は、何でもないものを見ても恐れるというたとえ。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花」と似た意味を持ちます。
何かに失敗した後や、後ろめたいことがある時に陥りやすい心理です。
トラウマ・慎重すぎる姿勢
過去の失敗が原因で、必要以上に未来を警戒してしまう心理を表す言葉です。
羹に懲りて膾を吹く(あつものにこりてなますをふく)
前の失敗にこりて、必要以上に用心深くなることのたとえ。
「羹(あつもの)」は熱い吸い物、「膾(なます)」は冷たい和え物のこと。
熱い吸い物を飲んで火傷をしたのに、その痛みを恐れるあまり、冷たい和え物までフーフーと吹いて冷まそうとする様子から来ています。
一度の失敗を引きずり、過剰な「取り越し苦労」をしている状態です。
呉牛喘月(ごぎゅうぜんげつ)
過度に怯えることのたとえ。
中国の暑い地方(呉)の水牛は、暑さに弱いため、太陽を見ると喘ぐ(あえぐ)ほど恐れますが、夜に出てきた月を見ても「また太陽が出た!」と勘違いして喘いだという故事から。
トラウマによる過剰反応を指します。
石橋を叩いて渡る(いしばしをたたいてわたる)
堅固に見える石の橋でさえ、叩いて安全を確かめてから渡るということ。
用心深さの肯定的表現として使われますが、度を超えると「叩きすぎて橋を壊す(心配しすぎてチャンスを逃す)」という皮肉になることもあります。取り越し苦労の一種とも言えるでしょう。
未来はわからない・楽観的な教訓
最後に、「先のことは誰にもわからないのだから、今を生きよう」と背中を押してくれる言葉を紹介します。
案ずるより産むが易し(あんずるよりうむがやすし)
始める前はあれこれ心配するが、実際にやってみると案外たやすくできるものだということ。
出産への不安になぞらえた言葉ですが、転職、引越し、新しい趣味など、あらゆる挑戦に当てはまります。
シミュレーションばかりして動けない時に思い出したい言葉です。
明日は明日の風が吹く(あしたはあしたのかぜがふく)
くよくよせず、成り行きに任せて生きようということ。
今日の失敗や悩みにとらわれず、「明日はまた新しい事態が開けるだろう」と楽観的に構える姿勢を説いています。自分ではどうにもならない運命を受け入れる潔さも含まれています。
来年の事を言えば鬼が笑う(らいねんのことをいえばおにがわらう)
未来のことは誰にも予測できないのだから、あれこれ言ったり悩んだりしても始まらないということ。
「鬼が笑う」という表現には、予測不可能な未来を人間ごときが決めつけようとすることへの嘲笑が含まれていますが、裏を返せば「先の心配なんてしても無駄だ」という開き直りのススメでもあります。
人事を尽くして天命を待つ(じんじをつくしててんめいをまつ)
自分にできる限りの努力をしたら、あとはどのような結果になろうと天の意志に任せるということ。
「どうしよう」と結果を恐れるのではなく、「やるだけやった」という事実に焦点を当てる考え方です。ここまでくれば、もはや取り越し苦労が入る隙間はありません。
果報は寝て待て(かほうはねてまて)
幸運(果報)は人の力ではどうにもできないから、焦らずに時期が来るのを待てということ。
心配してジタバタ動くよりも、どっしりと構えていたほうが良い結果を生むこともあるという教訓です。
英語表現
「取り越し苦労」や「心配」に関する英語表現を紹介します。
Don’t cross the bridge until you come to it.
- 直訳:橋のところに来るまで橋を渡るな。
- 意味:「実際にその事態になってから心配せよ」「取り越し苦労をするな」
- 解説:まだ目の前に来ていない問題(橋)を、想像の中で渡ろうとして悩むことを戒める、最も有名な英語のことわざです。
「杞憂」の英訳としても使われます。
Worry often gives a small thing a big shadow.
- 直訳:心配はしばしば、小さな物に大きな影を与える。
- 意味:「杯中の蛇影」や「疑心暗鬼」に近いニュアンス。
- 解説:不安というフィルターを通すと、些細な問題が巨大なトラブルに見えてしまう心理を見事に表しています。
スウェーデンのことわざが英訳されて定着したと言われています。
Take it easy.
- 意味:「気楽にいこう」「無理しないで」
- 解説:相手が考えすぎている時や、緊張している時にかける定番のフレーズです。
「くよくよするな」と励ます際にも使われます。
まとめ
不安や心配に関する言葉を見ていくと、昔の人々もまた、見えない影に怯え、枯れススキを幽霊と見間違えていたことがわかります。
人間の脳は、危険を回避するためにネガティブなシミュレーションをするようにできています。
つまり、取り越し苦労をしてしまうのは、あなたが慎重で想像力が豊かである証拠とも言えるでしょう。
しかし、「杞憂」や「疑心暗鬼」という言葉があるように、その心配の9割は実際には起こらないと言われています。
どうなるかわからない未来に怯える夜は、
「Don’t cross the bridge until you come to it(橋のたもとに行くまで渡ろうとするな)」とつぶやいて、まずは今日を無事に終えた自分を労ってあげてはいかがでしょうか。








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