意味
「夷を以て夷を制す(いをもっていをせいす)」とは、他国の力を利用して、別の他国の力を抑えるという意味です。
自分の国は戦わずに利益を収め、安全を図るやり方を言います。
広く、他人の力を借りて自分の利益を得ることにも使われます。
四字熟語の形で「以夷制夷(いいせいい)」とも言い、「夷を以て夷を攻む」という言い方もあります。
- 夷(い):昔の中国で、天子の教えが及ばない周りの民族を見下して呼んだ言葉。
- 以て(もって):〜を使って。
- 制す(せいす):おさえつける。
語源・由来
この言葉は、中国の歴史書『後漢書』の鄧禹伝にある話がもとになっています。
鄧禹の六男の鄧訓は、西の国境で羌という民族を監督する役に就いていました。
あるとき羌の大軍が国境まで来ましたが、鄧訓を攻めることはせず、まず国境の内側に住む月氏の胡(= 北方・西方の異民族)をおどそうとしました。
鄧訓は胡を守り、戦わせませんでした。
そのときの朝廷の議論を伝えるのが、次の一節です。
議者,咸以羌胡相攻,縣官之利,以夷伐夷,不宜禁護。
(議論する者はみな、羌と胡が攻め合うのは朝廷の利益で、夷を使って夷を討つことになるのだから、胡をかばうべきではないと考えた)
原文では「以夷伐夷」という形で出てきます。
使い方・例文
- ライバルの二社をぶつけ合わせるとは、夷を以て夷を制すやり方だ。
- その小国は大国どうしを対立させる、夷を以て夷を制す外交で生き延びた。
- 戦国大名は夷を以て夷を制す策をとり、隣の国どうしを争わせた。
使うときの注意
夷という字には、民族や生まれで人をひとまとめにし、劣った者と決めつける見方が含まれています。
そのため、今の国や民族を指して夷と呼ぶと、相手を見下すことになります。
歴史上の外交を説明するときや、古い書物を読むときに使う分には問題ありません。
今の国どうしの関係を言うときは、「他国の力を借りて別の国を抑える」のように言い換えると角が立ちません。
「夷を以て夷を制す」の原典で鄧訓が取った策
朝廷の議論に対して、鄧訓はそうではないと退けました。
胡がなかなか従わないのは、漢がこれまで恩と信義を十分に示してこなかったからで、追いつめられている今こそ徳で手なずければ役に立つ、という考えです。
鄧訓は城門を開いて胡の妻子を中に入れ、兵で守りました。
羌は奪うものが無く、胡にも手を出せないまま引き上げます。
胡の人々は、漢はいつも自分たちを戦わせようとしてきたのに、鄧訓は恩と信義で迎えてくれたと喜びました。
そして、鄧訓の命令に従うと誓いました。


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