あまりの美しさに、泳いでいた魚は身を隠すように深く沈み、空を渡る雁は見とれて列を乱して落ちてしまう。
そんな並外れた美貌を表すのが、「沈魚落雁」(ちんぎょらくがん)です。
意味
「沈魚落雁」とは、魚も雁も見とれてしまうほどの、並外れて美しい女性という意味です。
自然の生き物さえも我を忘れさせてしまうという誇張によって、人間離れした美貌を表現しています。
- 沈魚(ちんぎょ):魚が驚いて水中深くに沈むこと。
- 落雁(らくがん):雁が見とれて空から落ちること。
語源・由来
中国戦国時代の思想家・荘子(そうじ)の著書『荘子』斉物論篇(せいぶつろんへん)に由来します。
原文には、当時評判の美女であった毛嬙(もうしょう)と麗姫(りき)を魚や鳥に見せても、彼女たちは怖がって逃げてしまうという内容が記されています。
毛嬙麗姫、人之所美也、魚見之深入、鳥見之高飛。
(もうしょうりきは、ひとのびとするところなり、うおこれをみてふかくいり、とりこれをみてたかくとぶ)
『荘子』斉物論篇
荘子はこの逸話を、人間にとっての美醜の基準は絶対的なものではないと説くために用いましたが、後世には原文の趣旨とは異なり、「魚も鳥も見とれてしまうほどの美女」という肯定的な意味に転じて広まりました。
使い方・例文
「沈魚落雁」は、並外れた美貌を大げさに讃える場面で使われます。
- 彼女の美しさは、沈魚落雁という言葉がふさわしいと評判だった。
- 中国の古典文学には、沈魚落雁とうたわれた美女がたびたび登場する。
- 写真からも伝わる、沈魚落雁の美貌に思わず息をのんだ。
類義語・関連語
本来の意味とは逆転して広まった言葉
「沈魚落雁」の面白さは、もとの『荘子』の文脈と、現代で使われる意味がまったく逆転している点にあります。
荘子が伝えたかったのは「人間が美しいと思うものを、魚や鳥は恐れて逃げる」という、美の基準が生き物によって異なるという相対主義的な教えでした。
しかし長い年月を経るうちに、「魚も鳥も見とれるほど」という部分だけが独り歩きし、単純に美貌を讃える四字熟語として定着していきました。
言葉が生まれた本来の文脈が忘れられ、字面のインパクトだけが一人歩きして意味を変えていく現象は、故事成語にはしばしば見られる興味深い特徴です。









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