荘子とは?寓話で語る道家思想から生まれた故事成語20語

荘子とは?寓話で語る道家思想から生まれた故事成語20語 特集
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『荘子』は、『論語』『孟子』と並ぶ諸子百家の書物でありながら、寓話やたとえ話の面白さで異彩を放つ一冊です。
胡蝶の夢、明鏡止水、大同小異といった言葉の多くが、この書物にたどり着きます。
まず『荘子』という書物の姿をたどり、そのうえで書物の記述から生まれた言葉20語を、テーマごとにまとめました。

『荘子』とはどんな書物か

荘子という人物

荘子そうし(荘周とも、紀元前370年ごろ―前300年ごろ)は、宋のぼう(現在の河南省)に生まれた戦国時代の思想家です。
老子の思想を受け継ぎ発展させた人物とされ、二人はまとめて「老荘」と並び称されます。
あらゆる価値判断や善悪・美醜の区別は人の立場によって変わる相対的なものにすぎないとする「万物斉同」を説き、作為を捨てて自然のままにあることを尊ぶ「無為自然」を理想としました。
儒家の説く仁義や礼を人為的なものとして批判し、政治への出仕を勧められても断り続けたと伝えられています。

華祖立が描いた荘子の肖像(1326年、上海博物館蔵)
元代の画家・華祖立かそりつが描いた「荘周」(1326年、上海博物館蔵)。
実際の姿を伝えるものではなく、後世の想像による伝統的な肖像画。

内篇・外篇・雑篇、全33篇の構成

『荘子』は、内篇7・外篇15・雑篇11の合計33篇からなります。
晋の郭象かくしょうが、当時伝わっていたさらに多くの篇から荘周本人の思想と異なるものを削り、現在の33篇に整理したとされています。
このうち、荘子自身の手によるとほぼ認められているのは内篇のみで、外篇・雑篇は弟子や後学の手が加わったものと考えられています。
二百を超える寓話・たとえ話を通じて思想を語る文体が特徴で、『論語』『孟子』のような対話や問答とは対照的です。

『荘子』に由来する故事成語20語

『荘子』に記された寓話や一節が、そのまま日本語の言い回しになったものを集めました。

視野・価値の相対性をめぐる9語

  • 井の中の蛙大海を知らず(いのなかのかわずたいかいをしらず):
    狭い世界に閉じこもり、外の広い世界を知らないこと。
    「秋水篇」で、古井戸のカエルが東海から来た亀に自分の住処を自慢し、海の広大さを知って言葉を失った寓話から。
  • 夏虫疑氷(かちゅうぎひょう):
    見聞の狭い者は、自分の経験の外にあることを信じられないというたとえ。
    「秋水篇」で、海の神が「井蛙は以て海を語るべからず」に続けて説いた言葉から。
  • 夏の虫氷を笑う(なつのむしこおりをわらう):
    見識の狭い者が、自分の理解を超えるものをかえって疑い笑うことのたとえ。
    「秋水篇」の「夏虫は以て氷を語るべからずとは、時に篤ければなり」から。
  • 管を以て天を窺う(かんをもっててんをうかがう):
    狭い見識で広大な物事を理解しようとする愚かさのたとえ。
    「秋水篇」で、公孫竜が荘子の説に困惑し、細い管越しに天を覗くようなものだと魏の公子に評された場面から。
  • 針の穴から天を覗く(はりのあなからてんをのぞく):
    狭く限られた見識で、物事の全体を判断しようとすることのたとえ。
    「秋水篇」の「管を以て天を窺う」が、日本でより身近な道具に置き換わった言い方。
  • 管見(かんけん):
    視野が狭く、物事の全体像や本質を理解できていないことを謙遜して言う語。
    「秋水篇」の「管を以て天を窺う」と同じ、細い管から空を覗く比喩から。
  • 蝸牛角上の争い(かぎゅうかくじょうのあらそい):
    広い視野で見れば、取るに足らないつまらない争いのたとえ。
    賢者の戴晋人たいしんじんが、隣国と争う魏の王に語った、カタツムリの左右の角にある国同士の争いの寓話から。
  • 沈魚落雁(ちんぎょらくがん):
    美しさの基準は絶対的なものではないというたとえ。
    転じて、非常に美しい女性の形容としても使われる。
    「斉物論篇」で、評判の美女毛嬙もうしょう麗姫りきを見ても、魚や鳥はかえって驚いて逃げてしまうと説かれた一節から。
  • 大同小異(だいどうしょうい):
    細部に違いはあっても、全体としてはほぼ同じであること。
    「天下篇」で、思想家恵施けいしが物事の同一性と差異について語った「大同にして小同と異なる、これを小同異という」から。

荘子の思想と物語をめぐる6語

  • 胡蝶の夢(こちょうのゆめ):
    自分と他者、夢と現実の境界に絶対的な区別はないという、荘子の思想を象徴する話。
    「斉物論篇」で、荘子が夢の中で胡蝶になりきり、目覚めてから自分が胡蝶になった夢を見たのか、胡蝶が自分になった夢を見ているのか分からなくなったという寓話から。
  • 鵬程万里(ほうていばんり):
    目的地や前途が果てしなく遠いこと、また将来性が非常に大きいことのたとえ。
    「逍遥遊篇」の冒頭で、北の海の巨大な魚「こん」が化けた「ほう」という鳥が、三千里の水面を蹴って九万里の上空へ舞い上がり、南の果ての海を目指して飛び立つ寓話から。
  • 魚を得て筌を忘る(うおをえてせんをわする):
    目的を達成すると、そのための手段や道具の恩を忘れてしまうことのたとえ。
    「外物篇」の、魚を捕るための竹製のカゴ「せん」は魚を得たら忘れられてしまうという一節から。
  • 明鏡止水(めいきょうしすい):
    邪念がなく、澄み切って落ち着いた心境のこと。
    「徳充符篇」の、流れる水には自分の姿を映せないが、静止した水(止水)には映せるという一節から。
  • 至れり尽くせり(いたれりつくせり):
    これ以上ないほど、行き届いていること。
    「斉物論篇」の、昔の人の知恵の到達点を語った「至れり、尽くせり、以て加うべからず」から。
  • 卵を見て時夜を求む(たまごをみてじやをもとむ):
    物事の順序を無視して、気の早い期待をかけることのたとえ。
    「斉物論篇」の「卵を見て時夜(夜明けを告げる鶏)を求め、弾(はじき弓)を見てふくろうの炙り焼きを求む」という一節から。

人生訓・処世をめぐる5語

  • 命長ければ恥多し(いのちながければはじおおし):
    長生きをすればするほど、恥をかく機会も増えるということ。
    「天地篇」で、聖王ぎょうが長寿・富・多子の祝いを断り、長生きすれば恥も多くなると答えた場面から。
  • 労多くして功少なし(ろうおおくしてこうすくなし):
    苦労ばかりが多く、それに見合った成果が得られないこと。
    「天運篇」の「労して功なし(労而無功)」という記述から。
  • 支離滅裂(しりめつれつ):
    物事にまとまりがなく、筋が通っていないこと。
    体が激しくねじ曲がった人物「支離疏しりそ」の「支離」と、秩序が乱れた状態を表す「滅裂」という、同書中の二つの言葉が合わさってできた語。
  • 荒唐無稽(こうとうむけい):
    言うことに根拠がなく、でたらめであること。
    「天下篇」で、荘子自身の説く思想が「荒唐之言」と評されたことに由来する。
  • 朝三暮四(ちょうさんぼし):
    目先の違いにとらわれ、結果が同じであることに気づかないこと。
    宋の狙公そこうが、餌のトチの実を「朝三つ、夕方四つ」から「朝四つ、夕方三つ」に変えただけで猿たちが喜んだという寓話から。
    『列子』にも同じ話が伝わる。

『荘子』に語源の一部がある言葉

次の言葉は、『荘子』の一節がそのまま言葉になったものではなく、同書にある思想や逸話が背景の一つとして伝わっているものです。

  • 親しき仲にも礼儀あり(したしきなかにもれいぎあり):
    親しい間柄であっても、相手への礼儀は欠かすべきではないという教え。
    「君子の交わりは淡きこと水の如し」という『荘子』の一節も、背景にある思想の一つとされる。
  • 櫛風沐雨(しっぷうもくう):
    風雨にさらされながらも、苦労を厭わず奔走すること。
    治水に奔走した禹の献身的な姿が『荘子』などの古典に記され、この語の背景になったとされる。
  • 恋の山には孔子の倒れ(こいのやまにはくじのたおれ):
    孔子のような聖人でさえ、恋の魅力には勝てず迷ってしまうということ。
    孔子が大盗賊「盗跖とうせき」を説得に行き、逆にやり込められて逃げ帰ったという逸話が、『荘子』などの書物に伝わることに由来する。

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