詩経とは?中国最古の詩集から生まれた故事成語19語

石積みの背景に「詩経の故事成語」の文字と特集の印 特集
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『詩経』は、これまで見てきた思想書や歴史書とは違い、中国最古の詩集です。
他山の石、切磋琢磨、一日千秋といった言葉の多くが、この書物にたどり着きます。
まず『詩経』という書物の姿をたどり、そのうえで書物の記述から生まれた言葉19語と、語源の一部にある言葉4語をまとめました。

『詩経』とはどんな書物か

西周から春秋にかけて詠まれた305篇

『詩経』は、西周初期から春秋時代中期にかけて(紀元前11世紀ごろ―前6世紀ごろ)詠まれた詩305篇を集めた、中国最古の詩集です。
民間の恋歌や労働歌を集めた「ふう」(160篇)、宮廷の宴などで歌われた「」(105篇)、祖先を祀る儀式のための「しょう」(40篇)の三部からなり、あわせて300余りとされることから「詩三百」とも呼ばれます。
孔子が晩年に3000篇余りの詩から305篇を選び定めたという「删詩説」が漢代から伝えられていますが、現在ではこの説の信頼性を疑う見方が有力です。
孔子自身は「詩三百、一言以て之を蔽えば、思い邪無し」(詩経の305篇は、一言でいえば、思いに邪なところがない)と、この詩集を高く評価する言葉を『論語』に残しています。

五経の一つ、「六義」という分類

『詩経』は、儒教の基本経典「五経」(易経・書経・詩経・礼記・春秋)の一つに数えられています。
音楽の違いによる「風」「雅」「頌」の分類に、詩の表現技法である「賦」(ありのままに述べる)「比」(他のものにたとえる)「興」(情景を詠んでから本題に入る)を加えた6つを、まとめて「六義」と呼びます。
素朴な恋の歌から、王朝の由来を語る叙事詩、政治を戒める詩まで幅広い内容を含み、後世の中国文学・日本文学の双方に大きな影響を与えました。

『詩経』に由来する故事成語19語

『詩経』に収められた詩の一節が、そのまま日本語の言い回しになったものを集めました。

待ち焦がれる恋心2語

  • 一日千秋(いちじつせんしゅう):
    非常に待ち遠しく感じられること。
    「一日見ざれば、三秋の如し」(一日会えないだけで三年も過ぎたように感じる)という「王風・采葛」の恋歌から。「三秋」がより誇張された「千秋」に変化した。
  • 一日三秋(いちじつさんしゅう):
    非常に待ち遠しく感じられること。
    前項と同じ「王風・采葛」の一節「一日見ざれば、三秋の如し」がそのまま定着した言い方。

恐れ慎む心2語

  • 戦々恐々(せんせんきょうきょう):
    恐れてびくびくする様子。
    「戦戦兢兢、深淵に臨むが如く、薄氷を履むが如し」(深い淵のふちに立つように、薄い氷の上を歩くように恐れ慎む)という「小旻」篇の一節から。政治の乱れた時代の切迫した心境を詠んだもの。
  • 薄氷を踏む(はくひょうをふむ):
    非常に危険な状態に、恐る恐る臨むこと。
    前項と同じ「戦戦兢兢、深淵に臨むが如く、薄氷を履むが如し」の一節から。「薄氷を履む」が、そのまま今の言い方に定着した。

のどかな春と進まぬ歩み2語

  • 春日遅々(しゅんじつちち):
    春の日が、うららかでのどかなこと。
    「春日遲遲」(春の日はゆっくりと長く続く)という「豳風・七月」の一節から。日が長くなり、昼の時間を喜ぶ情景を詠んだもの。
  • 遅々として進まず(ちちとしてすすまず):
    物事がのろのろとして、はかどらないこと。
    前項と同じ「豳風・七月」にある「遅々(遲遲)」という表現に、日本で否定の言い回しが加わって定着した。

逃げ場のない苦境2語

  • 進退維谷(しんたいいこく):
    進むことも退くこともできず、追い詰められること。
    「人亦有言、進退維谷」(人もこう言っている、進むも退くも谷に落ち込むようなものだと)という「大雅」の一節から。「谷」は「窮まる」の意で用いられている。
  • 進退窮まる(しんたいきわまる):
    進むことも退くこともできず、追い詰められること。
    前項と同じ「進退維谷」の一節が日本で訓読される過程で、「窮まる」と結びついて定着した言い方。

長寿を寿ぐ言葉2語

  • 南山之寿(なんざんのじゅ):
    いつまでも変わらない長寿や繁栄を祝う言葉。
    「南山の寿の如く、騫けず崩れず」(終南山のように、崩れることなくいつまでも続く)という「小雅・天保」の一節から。臣下が主君の長寿を祝った詩。
  • 松柏の寿(しょうはくのじゅ):
    常緑樹のように、いつまでも変わらぬ長寿を祝う言葉。
    前項と同じ「小雅・天保」にある「松柏の茂るが如し」という一節から。冬でも葉の色を変えない松や柏の姿が、長寿の象徴とされた。

学問と自己修養3語

  • 切磋琢磨(せっさたくま):
    互いに励まし合い、努力を重ねて向上すること。
    骨や象牙、玉や石を丹念に加工して宝飾品を作る工程に、立派な人格を備えた君子をたとえた一節から。
  • 明哲保身(めいてつほしん):
    道理に明るく、聡明に行動して、自分の身を安全に保つこと。
    周の政治家・仲山甫の徳を称えた「既に明かつ哲、以てその身を保つ」という「大雅・烝民」の一節から。もとは立派な人物への最大の賛辞だった。
  • 日就月将(にっしゅうげっしょう):
    日ごと月ごとに、着実に進歩すること。
    若くして王位に就いた成王が学問に励む決意を歌った「日就月将、学に緝熙して光明に于く」という「周頌・敬之」の一節から。

君主に仕える徳2語

  • 多士済々(たしせいせい):
    優れた人材が数多くそろっていること。
    「済済たる多士、文王以て寧んず」(大勢のすぐれた家臣たちがいたおかげで、文王は国を安らかに治められた)という「大雅・文王」の一節から。
  • 小心翼々(しょうしんよくよく):
    細部まで気を配り、慎み深く振る舞うこと。
    周の文王が天帝に敬虔に仕える姿を称えた「小心翼翼」という「大雅・大明」の一節から。もとは君主の徳性を称賛する表現だった。

戒めとたとえ2語

  • 他山の石(たざんのいし):
    他人のつまらない言動でも、自分の徳を磨く助けになるということ。
    「他山の石、以て玉を攻むべし」(よその山の粗悪な石でも、それで玉を磨くことができる)という「小雅・鶴鳴」の一節から。
  • 殷鑑遠からず(いんかんとおからず):
    戒めとすべき失敗の例は、身近なところにあるということ。
    「殷鑑遠からず、夏后の世に在り」(殷が手本とすべき戒めは遠くにはない、すぐ前の夏王朝がまさにそれだ)という「大雅・蕩」の一節から。悪政の末に滅んだ夏を、殷の紂王への戒めとした。

譲らず変わらぬもの2語

  • 偕老同穴(かいろうどうけつ):
    夫婦の契りが固く、生涯変わらないこと。
    「子の手を執りて、子と偕に老いん」(邶風・撃鼓)と、「死しては則ち穴を同じくせん」(王風・大車)という、別々の詩にある二つの誓いの言葉を組み合わせた言い方。
  • 拮抗(きっこう):
    二つの勢力が互いに譲らず、力が釣り合っていること。
    もとは「頡頏」と書き、つばめが上がったり下がったりしながら飛び交う様子を詠んだ一節から、優劣のつけがたい者同士が張り合う意味になったといわれる。

『詩経』に語源の一部がある言葉

次の言葉は、『詩経』の一節がそのまま言葉になったものではなく、同書にある表現が語の半分の由来になっているものです。

  • 尸位素餐(しいそさん):
    地位にとどまりながら、職責を果たさず、働かずに報酬だけを得ること。
    「尸位」は『書経』の「太康尸位」に、「素餐」は『詩経』「伐檀」の「彼の君子は、素餐せず」に、それぞれ由来する二つの語の組み合わせ。
  • 前途洋々(ぜんとようよう):
    将来が、希望に満ちて開けていること。
    「洋々」は『詩経』や『論語』にも見られる古い言葉で、もとは川の水がたっぷり流れる様子を表した。これに「前途」が組み合わさって日本で定着した。
  • 厚顔無恥(こうがんむち):
    厚かましく、恥知らずなこと。
    「厚顔」「無恥」とも『詩経』など中国の古典に見られる表現で、由来の異なる二つの言葉が組み合わさったもの。
  • 有終の美を飾る(ゆうしゅうのびをかざる):
    物事を最後まで立派にやり遂げること。
    「始め有らざる靡し、克く終わり有る鮮し」(物事を始める者は多いが、最後までやり遂げる者は少ない)という一節にある「有終」に、「美を飾る」という表現が加わって定着した。

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