都から遠く離れた辺境の地へ、体よく追いやられる。
そんな人事の裏にある悔しさを言い表すのが、「左遷」(させん)です。
「左遷」の意味
「左遷」とは、それまでより低い地位や、不遇な職場へ異動させられることを表します。
- 左(さ):低い方角・地位とされた「左」。
- 遷(せん):うつる、うつすこと。
会社の人事異動や役職の変化など、現代でも幅広く使われる言葉です。
本人の能力不足だけでなく、権力争いや人間関係のもつれが理由になることも多く、悔しさや理不尽さを伴うニュアンスで語られがちです。
「左遷」の語源・由来
「左遷」は、中国の歴史書『史記』の「項羽本紀」に記された、秦滅亡後の論功行賞の場面に由来するという説があります。
古代中国には「右を尊び、左を低いものとする」という習慣がありました。
秦を倒した後、天下の実権を握った項羽は、各地の武将に領地を割り振りました。
その際、最大の功労者でありながら警戒すべき相手でもあった劉邦に対し、都から遠く離れた辺境の地・巴(は)、蜀(しょく)、漢中(かんちゅう)を与えます。
これは、当時尊ばれていた「右(東側の中心地)」ではなく、軽んじられていた「左(西の奥地)」へ体よく追いやる措置だったと伝えられています。
この一件から、地位を低い方へ動かすことを「左遷」と呼ぶようになり、その用法が日本にも伝わったとされています。
「左遷」の使い方・例文
「左遷」は、地位や役職が下がる異動全般に使われます。
- 本社の花形部署から、地方の支店へ左遷された。
- 上司の不興を買い、閑職への左遷を命じられる。
- プロジェクトの失敗を境に、彼の左遷が社内で噂されるようになった。
「左遷」の類義語
「左遷」と同様に、不遇な立場に置かれる様子を表す言葉には、以下のようなものがあります。
- 冷や飯を食う(ひやめしをくう):
組織の中で不遇な扱いを受け続けること。「左遷」が「地位が下がる異動そのもの」を指すのに対し、こちらは「冷遇された状態が続く境遇」に焦点があります。
「左遷」の英語表現
英語にも、地位が下がる異動を表す言い回しがあります。
get demoted
- 意味:「降格させられる」
- 解説:「左遷」に最も近い、ストレートな表現です。
- 例文:
He got demoted to a branch office after the incident.
(彼はその一件のあと、支店へと左遷された。)
kicked upstairs
- 意味:「肩書きだけの地位に追いやられる」
- 解説:表向きは昇進に見えても、実権を失った名ばかりの役職へ回されることを表す皮肉な言い回しです。
- 例文:
She was kicked upstairs to a title with no real authority.
(彼女は実権のない肩書きへと、体よく左遷された。)
日本史に残る「左遷」の代表例
「左遷」という言葉が使われる場面として、日本史でとりわけ有名なのが、平安時代の学者・政治家である菅原道真(すがわらのみちざね)の例です。
右大臣にまで昇りつめた道真でしたが、政敵であった藤原時平(ふじわらのときひら)の讒言(ざんげん、事実無根の悪口)により、京から遠く離れた大宰府(だざいふ、現在の福岡県)の職へと追いやられました。
権力の中枢から一気に地方の職へ移されたこの出来事は、後世「左遷」の代名詞として語られるようになります。
道真の死後、都で天変地異が相次いだことから、彼の怨念を鎮めるために「天満宮」が建てられ、現在は学問の神様として親しまれています。
まとめ
「左遷」は、劉邦が辺境の地へ追いやられた楚漢戦争の一幕に由来するとされる言葉です。
ただし、この地に留まった劉邦がやがて天下を統一したように、不遇な境遇が必ずしも終わりを意味しないことも、歴史は同時に伝えています。









コメント