意味
「河豚は食いたし命は惜しし」は、前半と後半で正反対の気持ちを並べた言い方です。
美味なフグは食いたいが、その毒にあたって死ぬのはいやだ、というところから、ある行為に危険が伴っているのを恐れ、たやすく踏みきれないことのたとえとして使われます。
- 河豚(ふぐ):内臓に強い毒を持ち、肉は美味とされる海の魚。
- 惜しし(おしし):手放したくない。惜しい。
語源・由来
「河豚は食いたし命は惜しし」は、食べたいという欲と、命を失いたくないという恐れを、「〜たし」「〜惜しし」と並べて対にした言い方です。
フグは多くの種が内臓に毒を持つ一方で、肉は淡白で美味とされてきました。
おいしさと危うさが同じ魚に同居しているため、欲と恐れが並ぶ言い回しの材料になりました。
使い方・例文
「河豚は食いたし命は惜しし」は、うまい話に心が動きながら、危なさを思って手が出ないときに使われます。
- 高い利回りだが元本は保証なし。河豚は食いたし命は惜ししだ。
- 独立したいが収入が読めない。河豚は食いたし命は惜ししである。
- 誘いには乗りたいが休みが減る。河豚は食いたし命は惜ししだ。
類義語・関連語
「河豚は食いたし命は惜しし」と同じように、危険を前にして身を引く姿勢を表す言葉があります。
- 命あっての物種(いのちあってのものだね):
何事も生きていてこそ成し遂げられるという考え方。 - 君子危うきに近寄らず(くんしあやうきにちかよらず):
賢い人は初めから危ない場所へ近づかないという教え。 - 触らぬ神に祟りなし(さわらぬかみにたたりなし):
関わらなければ災いを招かずに済むという心得。
「河豚は食いたし命は惜しし」と「君子危うきに近寄らず」の違い
どちらも危険を前にして踏みとどまる話のため、重なって見えます。
「河豚は食いたし命は惜しし」は欲と恐れの板挟みを描き、「君子危うきに近寄らず」は近づかないことを勧める教えです。
| 語句 | 表しているもの | 欲しい気持ち |
|---|---|---|
| 河豚は食いたし命は惜しし (ふぐはくいたしいのちはおしし) | 踏み切れない心の状態 | ある |
| 君子危うきに近寄らず (くんしあやうきにちかよらず) | 賢い人の心得 | 示されない |
対義語
「河豚は食いたし命は惜しし」とは反対に、危険を承知で踏み込む姿勢を表す言葉があります。
- 虎穴に入らずんば虎子を得ず(こけつにいらずんばこじをえず):
大きな成果を得るには相応の危険を冒す必要があるという教え。 - 危ない橋を渡る(あぶないはしをわたる):
目的のために、あえて危険な手段をとること。
英語表現
get cold feet
直前になって怖じ気づき、二の足を踏むことを表す言い方。
He got cold feet just before signing the contract.
(彼は契約書に署名する直前で怖じ気づきました。)
食い意地と用心のせめぎ合いを詠んだ言葉
このことわざは、うまいフグを食べたい気持ちと、毒にあたって命を落とす危険への恐れがせめぎ合う心情を、江戸時代から言い表してきた言葉です。
フグの毒は卵巣や肝臓に多く含まれるテトロドトキシンによるもので、その危うさは古くから知られていました。
危険とわかっていながらも惹かれてしまう人の心を突いた言葉として使われ続け、陶芸家で美食家としても知られた北大路魯山人も、随筆「河豚食わぬ非常識」の中でこの古いことわざに触れています。









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