意味
「唯々諾々(いいだくだく)」とは、事の良し悪しを考えずに、何を言われても「はい」と人の言うとおりに従うという意味です。
多くの場合「唯々諾々と」「唯々諾々として」の形にして、あとに動詞を続けて使います。
- 唯唯(いい):「はい」と答える返事の「唯」を重ねた語。
- 諾諾(だくだく):「はい」と引き受ける返事の「諾」を重ねた語。
語源・由来
「唯々諾々」の「唯唯」と「諾諾」を並べた言い方は、中国の『韓非子』の八姦という章に出てきます。
君主が家臣に付け込まれる八つの手口を数えたところで、そばに仕える芸人や側近を次のように描いています。
人主いまだ命ぜずして唯唯、いまだ使わずして諾諾
(君主がまだ命じないうちから「はい」と答え、まだ言いつけないうちから「はい」と応じる)
君主の意向に先回りして、顔色をうかがう者たちとして挙げられています。

使い方・例文
「唯々諾々」は、人の言いなりになる態度を、よくないものとして言うときに使います。
- 上司の無理な求めに唯々諾々と従うのはもうやめる。
- 部長は社長の案に唯々諾々として賛成した。
- 回ってきた書類に唯々諾々と判を押すだけの部署だった。
小説に登場する場面
『二百十日』(夏目漱石)
阿蘇へ向かう道中の二人連れが言い合う場面で、自分の言い分が一つも通らないと碌さんがこぼす一節です。
うちを出てから、僕の云う事は一つも通らないんだからな。全く唯々諾々として命令に服しているんだ
類義語・関連語
「唯々諾々」と同じように、自分の考えを通さずに相手に合わせるようすを表す言葉には以下のようなものがあります。
- 付和雷同(ふわらいどう):
自分の考えを持たず、人の意見にすぐ同調すること。 - 阿諛追従(あゆついしょう):
気に入られようとして、相手にへつらうこと。 - 長いものには巻かれろ(ながいものにはまかれろ):
力のある相手には逆らわず従うほうが得だという教え。
「唯々諾々」と「付和雷同」の違い
どちらも自分の考えを通さない態度を表しますが、合わせる相手が違います。
| 語句 | 合わせる相手 | 形 |
|---|---|---|
| 唯々諾々 (いいだくだく) | 命じる側の人 | 言われたとおりに動く |
| 付和雷同 (ふわらいどう) | その場の多数 | 賛成の多いほうへ回る |
対義語
「唯々諾々」とは逆に、相手に遠慮せず自分の考えを口にすることを表す言葉があります。
- 侃々諤々(かんかんがくがく):
遠慮なく正しいと思うことを主張し、盛んに議論すること。
英語表現
yes-man
上司や雇い主の言うことに何でも賛成する人を指す言い方。
The board is full of yes-men who never question the chairman.
(役員会は、会長に一度も異を唱えない人ばかりです。)
at someone’s beck and call
相手の言いつけがあればすぐ動く状態を表す言い方。
He has been at his boss’s beck and call for ten years.
(彼は十年ものあいだ上司の言いなりになっています。)
「唯」は父や先生に呼ばれたときの返事
「唯々諾々」の「唯」と「諾」は、どちらも「はい」と答える返事の言葉です。
ただし古代中国の礼法では、同じ「はい」でも相手によって使い分けがありました。
『礼記』の曲礼篇には次の一節があります。
父召せば諾すること無かれ、先生召せば諾すること無かれ、唯して起て
(父や先生に呼ばれたら「諾」と答えてはならない。「唯」と答えて立ち上がれ)
同じ『礼記』の玉藻篇は、もっと具体的です。
父に呼ばれたら「唯」と答えて「諾」とは言わず、手に仕事を持っていれば放り出し、口に食べ物が入っていれば吐き出して、小走りではなく駆けて行けと記しています。
「唯」は、目上に呼ばれたとき、かしこまってすぐに応じる返事でした。
『韓非子』の側近たちは、その「唯」も「諾」も、君主が命じる前から口にしていたことになります。











コメント