意味
「鷸蚌の争い(いつぼうのあらそい)」とは、争う両者がどちらも意地を張って一歩も譲らないうちに、第三者にまとめて利益をさらわれてしまうことのたとえです。
争っている当事者どうしの視点に立った言い方で、決着のつかない消耗戦の愚かさを戒めています。
- 鷸(いつ):シギ。水辺に住む鳥。
- 蚌(ぼう):ドブガイなどの二枚貝。
語源・由来
「鷸蚌の争い」は、中国の戦国時代を記した書物『戦国策』の「燕策」にある寓話に由来します。
シギという鳥がハマグリの身を食べようとくちばしで突いたところ、ハマグリは殻を固く閉じてシギのくちばしを挟み込み、どちらも一歩も譲りませんでした。
「明日も雨が降らなければお前は干からびて死ぬぞ」とシギが言えば、「明日もそのくちばしを放さなければお前こそ飢え死にするぞ」とハマグリも言い返し、両者は動けなくなるまで意地を張り合います。
そこへ通りかかった漁師が、戦うことなく二匹まとめて捕らえてしまいました。
この話は、燕を攻めようとした趙の恵文王に対し、燕の使者である蘇代が「両国が争えば、隣の強国である秦に利益を横取りされますよ」と諫めるために引用したものです。


(写真:Alpsdake、Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0)
使い方・例文
「鷸蚌の争い」は、当事者どうしが意地を張り合って消耗し合う様子を指摘する場面で使われます。
- 二社の値下げ競争はまさに鷸蚌の争いで、体力を失うだけに終わった。
- 兄弟げんかが鷸蚌の争いにならないよう、親が早めに仲裁に入った。
類義語・関連語
「鷸蚌の争い」と関わりの深い言葉には、次のようなものがあります。
- 漁夫の利(ぎょふのり):
争いに乗じて第三者が労せず利益を得ること。この故事を第三者側から見た言い方。 - 犬兎の争い(けんとのあらそい):
足の速い犬が兎を追いかけ、両者とも走り疲れて死んだところを農夫が拾ったという故事。
「鷸蚌の争い」と「漁夫の利」の違い
同じ故事から生まれた言葉ですが、どちらの立場から見るかで使い分けが決まります。
「鷸蚌の争い」は争っている当事者どうしに焦点を当て、「漁夫の利」は利益を得る第三者に焦点を当てた言葉です。
| 語句 | 視点 | 使われる場面 |
|---|---|---|
| 鷸蚌の争い | 争う当事者どうしの視点 | 消耗戦の愚かさを戒める場面 |
| 漁夫の利 | 利益を得る第三者の視点 | 誰が得をしたかを指摘する場面 |
対義語
「鷸蚌の争い」とは対照的な意味を持つ言葉は、厳密なイディオムとしては存在しませんが、状況を表す言葉として以下が挙げられます。
- 相打ち(あいうち):
双方がダメージを受け、どちらも利益を得られないこと。 - 共倒れ(ともだおれ):
争った結果、双方が破滅すること。
第三者が利益を得る隙さえ残らない、より悲惨な状況を指す。
英語表現
a battle of wills
どちらも譲らず意地を張り合う対立を表す表現。
Their price war turned into a battle of wills, and neither company backed down.
(二社の値下げ競争は意地の張り合いとなり、どちらも譲らなかった。)
dig one’s heels in
頑固に主張を曲げず、一歩も引かない態度を表すくだけた表現。
Both sides dug their heels in, refusing to make the first move.
(両者とも一歩も引かず、意地を張り合った。)
「鷸蚌の争い」の原文で漁師にたとえられたのは秦
『戦国策』の原文には、「鷸蚌相争」や「漁夫の利」にあたる決まった句は出てきません。
蘇代は寓話を語り終えると、「燕と趙が長く張り合って民を疲れさせれば、強い秦が漁師になってしまうのではと心配です」と結んでいます。
寓話の漁師は、この場面では秦のたとえだったことになります。
中国語では「鷸蚌相争、漁人得利」とつなげた言い回しもありますが、「鷸蚌相争」も「漁人之利」もそれぞれ単独で使われます。
日本語の「鷸蚌の争い」と「漁夫の利」も、同じように二つの言葉として使い分けられています。









コメント