他人と自分を比べて落ち込んだり、自分の弱点を必死に隠そうとしたりする心理。
「コンプレックス」は、現代語として定着していますが、その感情自体は人間が古くから抱えてきた普遍的な悩みです。
ことわざや四字熟語の世界にも、嫉妬、劣等感、見栄、そして自分を受け入れるための知恵を表した言葉が数多く存在します。ここでは、悩める心に寄り添う言葉をシチュエーション別に整理して紹介します。
- 他人と比べて落ち込む(比較・格差)
- 月とスッポン(つきとすっぽん)
- 雲泥の差(うんでいのさ)
- 隣の芝生は青い(となりのしばふはあおい)
- 井の中の蛙大海を知らず(いのなかのかわずたいかいをしらず)
- 肩身が狭い(かたみがせまい)
- 烏の行水(からすのぎょうずい)
- 自分を大きく見せようとする(見栄・虚勢)
- 虎の威を借る狐(とらのいをかるきつね)
- 虚勢を張る(きょせいをはる)
- 張り子の虎(はりこのとら)
- 羊頭狗肉(ようとうくにく)
- 鯖を読む(さばをよむ)
- 武士は食わねど高楊枝(ぶしはくわねどたかようじ)
- 憧れと無理な真似(羨望・嫉妬)
- 弱点・苦手に直面する(無力感・場違い)
- コンプレックスを隠す・開き直る(防衛・肯定)
他人と比べて落ち込む(比較・格差)
自分と他人を比較して「自分はダメだ」「かなわない」と感じる、劣等感の核心に触れる言葉です。
月とスッポン(つきとすっぽん)
二つのものの性質が大きく異なり、比較にならないこと。
どちらも形は丸いが、月は天空で美しく輝き、スッポンは泥の中にいることから。
圧倒的な格差を見せつけられ、比較することさえおこがましいと感じるような、深い劣等感を抱く状況で使われます。「提灯に釣鐘」も類義語です。
雲泥の差(うんでいのさ)
天にある雲と地にある泥ほどに、大きな隔たりがあること。
能力、身分、待遇などに極端な違いがある様子。「月とスッポン」と同様に、相手との距離に絶望するような状況を指します。
隣の芝生は青い(となりのしばふはあおい)
自分のものよりも、他人のもののほうが良く見えてしまうことのたとえ。
実際にはそれほど差がなくても、コンプレックスというフィルターを通すと、他人の生活や才能が輝いて見えてしまう心理を突いています。「隣の花は赤い」とも言います。
井の中の蛙大海を知らず(いのなかのかわずたいかいをしらず)
狭い世界に閉じこもって、広い世間を知らないこと。
自分の知識や能力が一番だと思っていたが、外の世界には上がいることを知り、自信を打ち砕かれる(あるいは、まだそれを知らない)状態を表します。劣等感を抱くきっかけとなる状況です。
肩身が狭い(かたみがせまい)
世間に対して面目が立たず、窮屈な思いをすること。
周囲に比べて自分が劣っていると感じたり、失敗をして居心地が悪くなったりした時の、縮こまるような心理状態を表す慣用句です。
烏の行水(からすのぎょうずい)
入浴時間が極端に短いことのたとえ。
本来は入浴の様子を表す言葉ですが、転じて、自分の行動が人並みにできない、落ち着きがないといった性格的なコンプレックス(短所)として語られることもあります。
自分を大きく見せようとする(見栄・虚勢)
コンプレックス(自信のなさ)の裏返しとして、自分を実力以上に見せようとする振る舞いに関する言葉です。
虎の威を借る狐(とらのいをかるきつね)
実力のない者が、権威ある他人の力を利用して威張ること。
自分自身に自信がない人ほど、肩書き、親の七光り、強い後ろ盾などをアピールして自分を守ろうとする心理を表します。
虚勢を張る(きょせいをはる)
中身がないのに、外見だけ威勢よく見せること。
弱さを悟られないよう、あえて強気な態度をとってしまうこと。心の内にある不安や自信のなさの現れです。
張り子の虎(はりこのとら)
首を振る虎の玩具のように、威勢よく振る舞うが中身がない人。
また、陰でうなずくだけで主体性のない人のこと。見かけ倒しであることを揶揄する言葉であり、言われた側にとっては痛いところを突かれる表現です。
羊頭狗肉(ようとうくにく)
見かけだけ立派で、中身が伴っていないこと。
「羊の頭」を看板に出しておきながら、実際には「犬の肉」を売っていたことから。外見や経歴を偽って良く見せようとする、コンプレックス隠しの見栄を指します。
鯖を読む(さばをよむ)
自分の都合の良いように数をごまかすこと。
年齢や体重、身長など、数字に関するコンプレックスをごまかす際によく使われる言葉です。市場で鯖の数を早口で数え、いい加減にごまかしたことに由来すると言われています。
武士は食わねど高楊枝(ぶしはくわねどたかようじ)
貧しくて食事ができなくても、楊枝を使って満腹を装うこと。
やせ我慢をして、気位の高さや体面を保とうとする姿。「清貧」というポジティブな意味もありますが、文脈によっては苦しい内情を隠す見栄っ張りの様子を指します。
憧れと無理な真似(羨望・嫉妬)
「あの人のようになりたい」という憧れが強すぎて、無理をしてしまう心理を表す言葉です。
鵜の真似をする烏(うのまねをするからす)
自分の能力を顧みずに、優れた人の真似をして失敗すること。
水に潜って魚を捕る鵜(う)の真似をした烏(からす)が、水で溺れてしまうという話から。身の丈に合わない憧れや、無理をして他者になろうとする劣等感の暴走を戒める言葉です。
高嶺の花(たかねのはな)
遠くから見るだけで、手に入れることのできないもの。
憧れの対象があまりにも魅力的で、自分には釣り合わないと最初から諦めてしまう心理。羨望と劣等感が入り混じった状態です。
無い物ねだり(ないものねだり)
自分にないものを無理に欲しがること。
現状の自分を否定し、持っていない才能や環境ばかりを羨むこと。コンプレックスの根源的な心理の一つです。
弱点・苦手に直面する(無力感・場違い)
自分の能力が通用しない、あるいは欠点が露呈してしまう場面を表す言葉です。
陸に上がった河童(おかにあがったかっぱ)
実力がある人でも、環境が変わると全く力が発揮できなくなること。
得意分野では輝けるのに、苦手な場所では無力になってしまうことへの情けなさや、居心地の悪さを表します。
金槌(かなづち)
泳げない人のこと。
水に入ると金槌のように沈んでしまうことから。特定の能力(水泳)が欠如していることに対する、シンプルながら根強いコンプレックス表現です。
独活の大木(うどのたいぼく)
体ばかり大きくて、役に立たないことのたとえ。
ウドは茎が太く育つが、柔らかすぎて材木にはならないことから。大柄な体格や見かけ倒しであることを気にしている場合に、自嘲や他者からの批判として使われます。
下手の横好き(へたのよこずき)
上手ではないが、その物事が大好きで熱心であること。
「好きだけど才能がない」というコンプレックスを、自虐的に、あるいは愛嬌を込めて表現する言葉です。
借りてきた猫(かりてきたねこ)
普段とは違い、おとなしくかしこまっている様子。
不慣れな環境に置かれ、緊張や萎縮(コンプレックス)から本来の自分が出せない状態を指します。
コンプレックスを隠す・開き直る(防衛・肯定)
悩みに対する向き合い方や、視点を変えて自分を受け入れるための言葉です。
臭いものに蓋(くさいものにふた)
都合の悪いことや失敗を、根本的に解決せず、一時的に隠してしまうこと。
自分の欠点や知られたくない弱点に対し、向き合うのではなく「隠す」ことでやり過ごそうとする防衛本能と言えます。
頭隠して尻隠さず(あたまかくしてしりかくさず)
欠点や悪事を隠そうとするが、その一部が見えてしまっていること。
キジが草むらに隠れる際、頭だけ隠して尾が出ている様子から。コンプレックスを隠そうとして、かえって滑稽な姿を晒してしまう様子です。
蓼食う虫も好き好き(たでくうむしもすきずき)
人の好みはさまざまであるということ。
辛い蓼(たで)の葉を好んで食べる虫がいるように、自分が欠点だと思っている部分を「良い」と言ってくれる人も必ずいます。コンプレックスを感じる必要はないと教えてくれます。
十人十色(じゅうにんといろ)
考え方や好み、性質は人それぞれ違うということ。
他人と同じである必要はなく、比較すること自体に意味がないという真理を表します。
痘痕もえくぼ(あばたもえくぼ)
愛する人のことなら、あばた(皮膚に残った天然痘のあと)でもえくぼのように可愛く見えること。
客観的には欠点に見える要素も、好意を持っている相手からすれば魅力の一つになるという事実です。
掃き溜めに鶴(はきだめにつる)
つまらない場所に、似つかわしくない優れたものがあること。
環境の悪さや周囲のレベルに対する不満(優越コンプレックスに近い感情)や、あるいは自分の境遇に対する卑下の中で、一筋の才能を見出したときに使われます。
大器晩成(たいきばんせい)
大きな器が完成するまでには時間がかかるように、大人物は遅れて頭角を現すということ。
「今はまだ芽が出ていないだけだ」と、現在の劣等感を未来への希望に変えるための言葉です。









コメント