裏切りによる怒り、許しがたい恨み、あるいは愛情が反転して生まれた激しい拒絶。
そのような、心に深く突き刺さる負の感情を「憎しみ」(にくしみ)と言います。
人間関係がある限り、避けては通れないこの感情について、古来より多くの言葉が残されてきました。
今回は、「憎しみ」や「恨み」をテーマに、状況やニュアンス別に分類したことわざ・慣用句・四字熟語・故事成語を紹介します。
- 愛情の裏返し・身内の争い
- 可愛いさ余って憎さ百倍(かわいさあまってにくさひゃくばい)
- 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い(ぼうずにくけりゃけさまでにくい)
- 骨肉相食む(こつにくあいはむ)
- 犬猿の仲(けんえんのなか)
- 愛憎半ば(あいぞうなかば)
- 激しい憎悪・許せない心
- 復讐・執念・根深い恨み
- 臥薪嘗胆(がしんしょうたん)
- 恨み骨髄に徹する(うらみこつずいにてっする)
- 目には目を歯には歯を(めにはめをはにははを)
- 食肉寝皮(しょくにくしんぴ)
- 睚眦の恨み(がいさいのうらみ)
- 根に持つ(ねにもつ)
- 怒り・嫌悪・苦しみ
- 怒髪天を衝く(どはつてんをつく)
- 煮え湯を飲まされる(にえゆをのまされる)
- 憎まれっ子世にはばかる(にくまれっこよにはばかる)
- 切歯扼腕(せっしやくわん)
- 怨憎会苦(おんぞうえく)
- 「憎しみ」に関連する英語表現
- まとめ
- 感情に関する記事
愛情の裏返し・身内の争い
最も深い憎しみは、かつて愛した相手や、身近な血縁者との間で生まれることがあります。
可愛いさ余って憎さ百倍(かわいさあまってにくさひゃくばい)
愛情が深ければ深いほど、ひとたび憎しみに変わると、その反動で普通以上に憎くなるということ。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い(ぼうずにくけりゃけさまでにくい)
その人を憎むあまり、その人が着ている袈裟(衣服)や持ち物、関係者など、その人に関連するものすべてが憎らしくなることのたとえ。
骨肉相食む(こつにくあいはむ)
親子や兄弟など、血の繋がった肉親同士が、互いに憎しみ合い激しく争うこと。「骨肉の争い」とも言います。
犬猿の仲(けんえんのなか)
犬と猿のように、顔を合わせれば喧嘩になるほど仲が悪く、互いに憎み合っている関係。
愛憎半ば(あいぞうなかば)
愛する気持ちと憎む気持ちが半分ずつ入り混じっている状態。愛しているからこそ憎い、という複雑な心理を表します。
激しい憎悪・許せない心
「同じ空の下にはいられない」と思うほど、相手を強く拒絶する言葉です。
不倶戴天(ふぐたいてん)
「倶(とも)に天を戴(いただ)かず」と読みます。相手を生かしてはおけない、同じ世界には絶対に一緒にいられないと思うほど、深く憎むこと。(中国の『礼記』より)
蛇蝎の如く嫌う(だかつのごとくきらう)
「蛇蝎」はヘビとサソリ。それらのように毒々しく恐ろしいものとして忌み嫌い、激しく憎悪すること。
目の敵にする(めのかたきにする)
特定の相手を、憎むべき敵とみなして執拗に見ること。「目の敵」とは、目の前にいる憎い敵のこと。
親の敵(おやのかたき)
(「親の敵のように」の形で)どうしても許せない相手として、激しい憎悪を向ける様子。「親の敵に会ったよう」と言えば、憎い相手に巡り合い、いきり立つさまを指します。
爪弾きにする(つまはじきにする)
嫌って憎むべきものとして、仲間外れにして排斥すること。
復讐・執念・根深い恨み
一時的な怒りではなく、心に長く留まり続ける「恨み」や、復讐心を表す言葉です。
臥薪嘗胆(がしんしょうたん)
固い薪(たきぎ)の上で寝て、苦い肝(きも)をなめること。敵への憎しみを忘れず、復讐を果たすために長い間苦労を重ねること。(中国の『十八史略』などより)
恨み骨髄に徹する(うらみこつずいにてっする)
憎しみや恨みが、骨の芯(骨髄)まで染み込むほど深いこと。決して忘れない深い怨恨。「怨恨骨髄(えんこんこつずい)」とも言います。
目には目を歯には歯を(めにはめをはにははを)
受けた害と同じだけの害を、相手にも報復すること。憎しみによる復讐の連鎖を象徴する言葉としても使われます。(古代バビロニアのハンムラビ法典より)
食肉寝皮(しょくにくしんぴ)
「肉を食らい皮に寝(い)ぬ」と読みます。憎い相手の肉を食べ、その皮を敷物にして寝たいと思うほど、憎しみが深いこと。(中国の『春秋左氏伝』より)
睚眦の恨み(がいさいのうらみ)
「睚眦」は目を怒らせて睨むこと。ちょっと睨まれた程度のささいな恨みでも忘れず、必ず報復すること。(中国の『史記』より)
根に持つ(ねにもつ)
過去に受けた恨みや憎しみを、いつまでも忘れずに心の中に留めておくこと。「根」は植物の根のように、見えないところで長く残ることを意味します。
怒り・嫌悪・苦しみ
憎しみに伴う激しい感情や、それによって生じる苦しみを表す言葉です。
怒髪天を衝く(どはつてんをつく)
激しい怒りや憎しみで、髪の毛が逆立って帽子を突き上げるほどであるさま。(中国の『史記』より)
煮え湯を飲まされる(にえゆをのまされる)
信頼していた相手から裏切られ、ひどい目に遭わされること。その結果、強い恨みや憎しみを抱く状況で使われます。
憎まれっ子世にはばかる(にくまれっこよにはばかる)
他人から憎まれるような嫌われ者のほうが、かえって世渡りがうまく、幅を利かせるものだということ。
切歯扼腕(せっしやくわん)
歯を食いしばり、自分の腕を握りしめて悔しがること。激しい怒りや憎しみを抑えきれない様子。
怨憎会苦(おんぞうえく)
仏教における「四苦八苦」の一つ。憎んでいる人や嫌いな人に、会わなければならない苦しみのこと。
「憎しみ」に関連する英語表現
英語でも「憎しみ」のニュアンスによって単語が使い分けられます。
- Hate(ヘイト)
- 意味:「憎む」「ひどく嫌う」
- 解説:最も一般的で広い意味での「憎しみ」を表す言葉。
- 例文:I hate violence.(私は暴力を憎む。)
- Loathe(ローズ)
- 意味:「忌み嫌う」「うんざりする」
- 解説:Hateよりも強く、吐き気を催すほどの嫌悪感や憎しみを表します。「蛇蝎の如く嫌う」に近いニュアンスです。
- 例文:He loathes dishonesty.(彼は不正をひどく憎んでいる。)
- Grudge(グラッジ)
- 意味:「恨み」「遺恨」
- 解説:過去の出来事に対する、根に持っている恨みや悪意。
- 例文:She still holds a grudge against him.(彼女はまだ彼を恨んでいる/根に持っている。)
- Resentment(リゼントメント)
- 意味:「憤り」「怨恨」
- 解説:不公平な扱いを受けたことに対する、怒りの混じった恨み。
- 例文:His heart was filled with resentment.(彼の心は憤りと恨みで満たされていた。)
まとめ
言葉には、制御できない感情を「形」にする力があります。
「不倶戴天」のような激しい拒絶から、「愛憎半ば」のような割り切れない思いまで。先人たちが残したこれらの言葉は、きれいごとだけでは済まない人間関係の現実を映し出しています。
自身の心に湧き上がる暗い感情も、適切な言葉を与えることで、少しだけ客観的に見つめ直すきっかけになるかもしれません。





















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