意味
「卵を以て石に投ず(たまごをもっていしにとうず)」は、弱い者が強い者に立ち向かっても、自分が損害を受けるだけで何の効果もないことのたとえです。
結果が見えている身の程知らずな試みを戒める言葉でもあります。
- 卵:脆く壊れやすい弱者の象徴。
- 石:硬く強固な強者の象徴。
柔らかい卵を硬い石に投げつければ、石に傷一つ付かず、卵だけが粉々に砕ける。
この情景は、単に「勝てない」という事実だけでなく、挑んだ側が一方的に破滅する悲劇を鋭く突きつけています。
語源・由来
「卵を以て石に投ず」の由来は、中国の戦国時代の思想書『荀子』に記された言葉にあります。
「議兵(ぎへい)篇」で荀子は、仁者の軍隊には策略やだまし討ちが通じないと説いています。
暴君の桀のような者が聖王の堯のような者をだまそうとするのは、卵を石に投げるようなものだとして、次のように述べています。
以桀詐堯,譬之:若以卵投石,以指撓沸;若赴水火,入焉焦沒耳。
(桀のような者が堯のような者をだまそうとするのは、たとえれば卵を石に投げつけ、指で煮えたぎる湯をかき回すようなものだ。水や火に飛び込めば、焼けるか溺れるかするだけである。)
この一節から、実力に隔たりのある相手への挑戦は自滅を招くだけである、という教訓が定着しました。
使い方・例文
「卵を以て石に投ず」は、客観的に見て成功の余地がなく、むしろ挑戦者が致命的なダメージを受けることが予想される場面で使用されます。
「やめておけ」という警告や、失敗した後の自嘲として用いられることが多い表現です。
例文
- 大企業に資金力で挑むのは、卵を以て石に投ずるも同然だ。
- 初心者がプロに挑むのは、卵を以て石に投ずるに等しい。
- 証拠もなく直談判しても、卵を以て石に投ずるだけだ。
誤用・注意点
意味が似ている焼け石に水との混同に注意が必要です。
「焼け石に水」は、努力や援助の量が少なすぎて効果が上がらないことを指しますが、挑む側が破壊されるニュアンスはありません。
一方で「卵を以て石に投ず」は、効果がないだけでなく、挑んだ側が「粉々に砕ける(自滅する)」という点が決定的な違いです。
また、相手を「石」に例えることは、相手を「微動だにしない絶対的な強者」として認めることにも繋がります。
そのため、不当な権力者への抵抗を表現する際には、その無謀さを強調する文脈で選ばれます。
類義語・関連語
「卵を以て石に投ず」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 蟷螂の斧(とうろうのおの):
カマキリが前足を上げて大車の進行を止めようとする様子から、弱者が実力を顧みず強敵に立ち向かうことのたとえ。 - 以卵投石(いらんとうせき):
「卵を以て石に投ず」を四字熟語にしたもの。意味は全く同じ。中国語では「以卵撃石」の形でもよく使われる。 - 石に針(いしにはり):
石に針を刺そうとしても通らないことから、手応えがなく無駄であること。
対義語
「卵を以て石に投ず」とは対照的な意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 柔よく剛を制す(じゅうよくごうをせいす):
しなやかな者が、その特性を生かしてかえって強い者に勝つこと。 - 雨垂れ石を穿つ(あまだれいしをうがつ):
小さな力であっても、根気よく続ければ大きなことを成し遂げられること。
英語表現
「卵を以て石に投ず」を英語で表現する場合、不可能な挑戦や自滅を意味する以下のフレーズが適しています。
run one’s head against a brick wall
意味:レンガの壁に頭をぶつける。
びくともしない壁に対して無謀な努力を続け、自分だけが傷つく状況を指します。
Trying to convince the stubborn boss is like running your head against a brick wall.
(頑固な上司を説得しようとするのは、まさに卵を以て石に投ずだ。)
kick against the pricks
意味:突き棒を蹴る。
牛が、自分を追う者が持つ鋭い棒(突き棒)を蹴り返しても、自分の足が傷つくだけであることから、強い力への無駄な抵抗を意味します。
墨子の「卵を以て石に投ず」では、石は墨子自身の説
卵と石の対比は、『荀子』のほかにも複数の古典に出てきます。
『墨子』貴義篇では、墨子が自分の説を非難する者について、次のように述べています。
以其言非吾言者,是猶以卵投石也,盡天下之卵,其石猶是也,不可毀也。
(自分の言葉で私の言葉を非難する者は、卵を石に投げつけるようなものだ。天下じゅうの卵を投げ尽くしても、石はもとのままで、壊すことはできない。)
墨子は自分の主張を石に、反対する者の言葉を卵にたとえています。
弱者の無謀さではなく、自分の側の堅さを言うために使われていました。










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