ことわざ 故事成語

卵を以て石に投ず

(たまごをもっていしにとうず)

弱者が強者に挑んで、自分だけが損害を受けること。

異形:卵で石を打つ/以卵投石

13文字の言葉 / 「た・だ」から始まる言葉
卵を以て石に投ず ことば
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意味

「卵を以て石に投ず(たまごをもっていしにとうず)」は、弱い者が強い者に立ち向かっても、自分が損害を受けるだけで何の効果もないことのたとえです。
結果が見えている身の程知らずな試みを戒める言葉でもあります。

  • 卵:脆く壊れやすい弱者の象徴。
  • 石:硬く強固な強者の象徴。

柔らかい卵を硬い石に投げつければ、石に傷一つ付かず、卵だけが粉々に砕ける。
この情景は、単に「勝てない」という事実だけでなく、挑んだ側が一方的に破滅する悲劇を鋭く突きつけています。

語源・由来

「卵を以て石に投ず」の由来は、中国の戦国時代の思想書『荀子じゅんし』に記された言葉にあります。

「議兵(ぎへい)篇」で荀子は、仁者の軍隊には策略やだまし討ちが通じないと説いています。
暴君の桀けつのような者が聖王の堯ぎょうのような者をだまそうとするのは、卵を石に投げるようなものだとして、次のように述べています。

以桀詐堯,譬之:若以卵投石,以指撓沸;若赴水火,入焉焦沒耳。
(桀のような者が堯のような者をだまそうとするのは、たとえれば卵を石に投げつけ、指で煮えたぎる湯をかき回すようなものだ。水や火に飛び込めば、焼けるか溺れるかするだけである。)

この一節から、実力に隔たりのある相手への挑戦は自滅を招くだけである、という教訓が定着しました。

使い方・例文

「卵を以て石に投ず」は、客観的に見て成功の余地がなく、むしろ挑戦者が致命的なダメージを受けることが予想される場面で使用されます。
「やめておけ」という警告や、失敗した後の自嘲として用いられることが多い表現です。

例文

  • 大企業に資金力で挑むのは、卵を以て石に投ずるも同然だ。
  • 初心者がプロに挑むのは、卵を以て石に投ずるに等しい。
  • 証拠もなく直談判しても、卵を以て石に投ずるだけだ。

誤用・注意点

意味が似ている焼け石に水との混同に注意が必要です。

「焼け石に水」は、努力や援助の量が少なすぎて効果が上がらないことを指しますが、挑む側が破壊されるニュアンスはありません。
一方で「卵を以て石に投ず」は、効果がないだけでなく、挑んだ側が「粉々に砕ける(自滅する)」という点が決定的な違いです。

また、相手を「石」に例えることは、相手を「微動だにしない絶対的な強者」として認めることにも繋がります。
そのため、不当な権力者への抵抗を表現する際には、その無謀さを強調する文脈で選ばれます。

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類義語・関連語

「卵を以て石に投ず」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。

  • 蟷螂の斧(とうろうのおの):
    カマキリが前足を上げて大車の進行を止めようとする様子から、弱者が実力を顧みず強敵に立ち向かうことのたとえ。
  • 以卵投石(いらんとうせき):
    「卵を以て石に投ず」を四字熟語にしたもの。意味は全く同じ。中国語では「以卵撃石」の形でもよく使われる。
  • 石に針(いしにはり):
    石に針を刺そうとしても通らないことから、手応えがなく無駄であること。

対義語

「卵を以て石に投ず」とは対照的な意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。

  • 柔よく剛を制す(じゅうよくごうをせいす):
    しなやかな者が、その特性を生かしてかえって強い者に勝つこと。
  • 雨垂れ石を穿つ(あまだれいしをうがつ):
    小さな力であっても、根気よく続ければ大きなことを成し遂げられること。

英語表現

「卵を以て石に投ず」を英語で表現する場合、不可能な挑戦や自滅を意味する以下のフレーズが適しています。

run one’s head against a brick wall

意味:レンガの壁に頭をぶつける。
びくともしない壁に対して無謀な努力を続け、自分だけが傷つく状況を指します。

Trying to convince the stubborn boss is like running your head against a brick wall.
(頑固な上司を説得しようとするのは、まさに卵を以て石に投ずだ。)

kick against the pricks

意味:突き棒を蹴る。
牛が、自分を追う者が持つ鋭い棒(突き棒)を蹴り返しても、自分の足が傷つくだけであることから、強い力への無駄な抵抗を意味します。

墨子の「卵を以て石に投ず」では、石は墨子自身の説

卵と石の対比は、『荀子』のほかにも複数の古典に出てきます。
『墨子』貴義篇では、墨子が自分の説を非難する者について、次のように述べています。

以其言非吾言者,是猶以卵投石也,盡天下之卵,其石猶是也,不可毀也。
(自分の言葉で私の言葉を非難する者は、卵を石に投げつけるようなものだ。天下じゅうの卵を投げ尽くしても、石はもとのままで、壊すことはできない。)

墨子は自分の主張を石に、反対する者の言葉を卵にたとえています。
弱者の無謀さではなく、自分の側の堅さを言うために使われていました。

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