ことわざ 慣用句

鬼の霍乱

(おにのかくらん)

普段は極めて健康な人が、珍しく病気になること。


7文字の言葉 / 「お」から始まる言葉
鬼の霍乱 ことば
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意味

「鬼の霍乱(おにのかくらん)」とは、普段は非常に丈夫で病気をしたことがない人が、珍しく病気になることを言います。

「鬼」は強さのたとえ、「霍乱」は夏に多い急な病気のことです。
鬼のように丈夫な人でさえ寝込むことがある、というたとえです。

語源・由来

「霍乱」は漢方の言葉です。

暑気あたり(日射病)や、激しい嘔吐・下痢を伴う急性胃腸炎(コレラなど)を指しました。
「霍」は雨かんむりに隹ふるとりを組み合わせた字で、鳥が雨の中を急に飛び立つ音を表したものとされ、そこから「にわかに」という意味を持つようになりました。

夏目漱石の『行人』(1912〜13年)には、頭痛で客の前に出られない娘について、父親が「お重が心持が悪いなんて、まるで鬼の霍乱だな」と言う場面があります。

使い方・例文

「鬼の霍乱」は、本人の健康ぶりをよく知る間柄で、驚きや親愛の情を込めて使われることが多い言葉です。

例文

  • 鉄人と呼ばれる彼が風邪で休むとは、まさに鬼の霍乱だ。
  • 無病息災が自慢の祖父が寝込むなんて、鬼の霍乱で驚いた。
  • 十年ぶりに熱を出して、家族に鬼の霍乱だと笑われた。

誤用・注意点

「鬼の霍乱」は、相手を「鬼(それほどまでに強く、健康である)」と称えるニュアンスが含まれています。
しかし、以下の点には注意が必要です。

  • 目上の人に直接使うのは避ける:
    相手を「鬼」にたとえることになるため、褒めるつもりでも目上の人に面と向かって言うと失礼に受け取られるおそれがある。
  • 深刻な病状には避ける:
    この言葉には「珍しいこともあるものだ」という、どこかユーモラスな響きがある。
    命に関わる重病や、長期の入院に対して使うと不謹慎に受け取られるおそれがある。
  • 病気以外の珍しい出来事には使わない:
    ふだん無口な人がよくしゃべった、のように、病気と関係なく単に珍しいことが起きた意味で使うのは誤り。
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類義語・関連語

「鬼の霍乱」は病気について使う言葉です。
「強い人や優れた人でも、思いがけず不覚をとることがある」という点で通じる言葉には、以下のようなものがあります。

  • 猿も木から落ちる(さるもきからおちる):
    その道の達人であっても、時には失敗することがあるという例え。
  • 弘法も筆の誤り(こうぼうもふでのあやまり):
    どんなに優れた能力を持つ人でも、間違いを犯すことがあるという意味。
  • 河童の川流れ(かっぱのかわながれ):
    泳ぎが得意な河童でも流されることがあるように、自信があることでかえって失敗すること。

対義語

「鬼の霍乱」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。

  • 無病息災(むびょうそくさい):
    病気をせず、健康で平穏な日々を過ごすこと。
  • 金剛不壊(こんごうふえ):
    極めて硬く、決して壊れないこと。

鬼の霍乱、川柳でも落語でも笑いの種

布団で寝込み、額に手ぬぐいをのせて薬の包みを手にする赤鬼の挿絵

江戸後期の川柳集『誹風柳多留はいふうやなぎだる』には、「鬼のかくらん せうきさんで直り」という句があります。
「せうきさん」は、当時の薬の正気散しょうきさんのことです。
恐ろしい鬼が寝込んでも、人間と同じ薬で治ってしまう、というおかしみの句です。

明治の落語家・三遊亭円朝さんゆうていえんちょうの敵討ちの噺にも、この言葉が出てきます。
敵討ちの手助けを約束した力士の琴の浦が、その年に瘧おこり(= 高い熱と寒気をくり返す病気)にかかり、約束を果たせなくなる場面です。
円朝はこれを「鬼の霍乱といふやつで」と、軽い調子で語っています。

円朝が「鬼の霍乱」と呼んだのは、霍乱ではなく瘧でした。
この言葉が病名を問わず、丈夫な者が寝込むこと自体を言うようになっていたことが分かります。

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