ふとした瞬間に気配を感じたり、不可解な出来事に遭遇したりした時、古くから日本人はそれを人知を超えた存在の仕業として捉えてきました。
ここでは、鬼や天狗といった「伝説の妖怪」と、古くから人を化かすと信じられてきた狐や狸などの「霊力を持つ動物(霊獣)」に分けて、言葉の世界を紹介します。
人間の本質を鋭く突く、異界の住人たちの言葉を覗いてみましょう。
- 鬼(オニ)
- 天狗(テング)・河童(カッパ)
- 人を化かす動物・霊獣(狐・狸・狢)
- 狐につままれる
- 眉唾物(まゆつばもの)
- 狸寝入り(たぬきねいり)
- 同じ穴の狢(おなじあなのむじな)
- 捕らぬ狸の皮算用(とらぬたぬきのかわざんよう)
- 怪異・正体不明
- 勿怪の幸い(もっけのさいわい)
- 鵺のよう(ぬえのよう)
- 魑魅魍魎(ちみもうりょう)
- 百鬼夜行(ひゃっきやこう)
- 英語表現
- まとめ
鬼(オニ)
強大な力や恐怖の象徴でありながら、どこか人間臭い一面も併せ持つ「鬼」に関する言葉は、日本語の中で圧倒的な数を誇ります。
鬼に金棒
ただでさえ強い鬼に、さらに武器である金棒を持たせること。
元から強い者が何かを得て、さらに強さを増すことのたとえです。
「虎に翼」「弁慶に薙刀」とも言います。
渡る世間に鬼はなし
世の中は非情な人ばかりではなく、困った時には親切に助けてくれる情け深い人も必ずいるということ。
「捨てる神あれば拾う神あり」と似た、希望を持たせる言葉です。
鬼の目にも涙
無慈悲で冷酷な人であっても、時には情にほだされて涙を流すことがあるというたとえ。
厳しい上司や先生が、ふとした瞬間に見せる優しさを表現する際によく用いられます。
鬼の首を取ったよう
手柄を立てて、得意満面で大喜びするさま。
まるで退治した恐ろしい鬼の首を持ち帰ったかのように、誇らしげに振る舞う様子を指します。
大げさに喜んでいる人を少し揶揄(やゆ)するニュアンスで使われることもあります。
来年の事を言えば鬼が笑う
未来のことは誰にも予測できないのだから、あれこれ言っても始まらないということ。
鬼は死後の世界(地獄)や運命を知る存在であるため、人間が先のことを知ったかぶりすると「何を馬鹿なことを」と笑う、という説があります。
鬼の居ぬ間に洗濯
怖い人や気兼ねする人がいない間に、のびのびとくつろぐこと。
「洗濯」は家事のことではなく、「命の洗濯(リフレッシュ)」を指します。
鬼の霍乱(おにのかくらん)
普段は非常に丈夫で病気などしたことがない人が、珍しく病気にかかること。
「霍乱」とは、日射病や食あたりなどの急性の病気のこと。
あの鬼でさえ体を壊すのか、という驚きや、少しばかりのユーモアを含んで使われます。
疑心暗鬼(ぎしんあんき)
「疑心、暗鬼を生ず」の略。
疑いの心があると、何でもないことまで恐ろしく感じたり、疑わしく思えたりすること。
暗闇の中に鬼がいるような妄想に囚われる心理状態を指します。
天狗(テング)・河童(カッパ)
山や川に住む彼らは、畏怖の対象であると同時に、人間の「慢心」を戒めたり「失敗」を慰めたりする親しみ深い存在としても描かれます。
天狗になる
得意になって自慢したり、うぬぼれたりすること。
天狗は鼻が長いことから、自慢気な様子を「鼻が高い」と言いますが、それが極まって妖怪の天狗のようになってしまっている状態を指します。
天狗の鼻あしらい
相手を見下して、いい加減な扱いをすること。高慢な態度で相手を冷淡にあしらう様子です。
河童の川流れ
その道の名人や達人であっても、時には失敗することがあるというたとえ。
泳ぎが得意な河童でさえ、水に押し流されることがあるという意味です。
「猿も木から落ちる」と同じ意味で使われます。
河童の屁/屁の河童
物事が非常に簡単で、取るに足りないこと。
河童は水中で屁をするため勢いがない、あるいは木の実などを好むため臭くない、など諸説ありますが、転じて「大したことではない」「平気だ」という意味になりました。
現在では「屁の河童」という順序で使われることが多いです。
陸へ上がった河童
自分に適した環境から離れ、力が発揮できずに無力になることのたとえ。
水中で神通力を発揮する河童も、陸上では干からびてどうすることもできない様子から来ています。
人を化かす動物・霊獣(狐・狸・狢)
これらは実在する動物ですが、古来日本では「不可思議な力を持って人を化かす存在(化け物)」として扱われてきました。
狐につままれる
意外な成り行きに呆気(あっけ)にとられ、何が何だかわからない様子。
狐に化かされて、幻を見ているかのような呆然とした状態を指します。
眉唾物(まゆつばもの)
真偽が疑わしいもの。信用できないもの。
狐や狸に化かされないよう、眉に唾を塗って防いだという俗信に由来します。
「あの話は眉唾だ(信用できない)」のように使います。
狸寝入り(たぬきねいり)
都合が悪くなった時などに、眠ったふりをすること。
狸は驚くと仮死状態(気絶)になる習性があり、それが死んだふりをしているように見えることから来ています。
同じ穴の狢(おなじあなのむじな)
一見すると関係がないように見えても、実は同類・仲間であること。
多くの場合、悪事を働く仲間について使われます。
「狢(むじな)」とはアナグマの別名ですが、古くは狸と混同され、どちらも人を化かす妖怪視されていました。
捕らぬ狸の皮算用(とらぬたぬきのかわざんよう)
手に入るかどうかわからない不確実なものを当てにして、計画を立てること。
まだ捕まえてもいない狸の皮を売る計算をする、という意味です。
怪異・正体不明
特定の姿を持たない、あるいは正体がわからない「怪異」そのものを指す言葉です。
勿怪の幸い(もっけのさいわい)
思いがけず手に入った幸運のこと。
「もっけ」は漢字で「勿怪(物の怪)」と書き、本来は妖怪や怪異、不吉な出来事を指す言葉でした。
それが「思いがけないこと」という意味に転じ、さらに「思いがけない幸運」に限定して使われるようになった言葉です。
鵺のよう(ぬえのよう)
正体がはっきりせず、とらえどころのない人物や物事のたとえ。
「鵺(ぬえ)」は『平家物語』などに登場する、頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎という伝説上の混合獣(キメラ)です。
魑魅魍魎(ちみもうりょう)
山や川などの自然界に潜む、あらゆる種類の化け物や妖怪のこと。
転じて、私利私欲のために悪巧みをするような、得体の知れない悪人たちがはびこる様子のたとえとして使われます。
百鬼夜行(ひゃっきやこう)
深夜に多くの妖怪や鬼が行列をなして歩き回ること。
転じて、多くの人が怪しげな振る舞いをしたり、悪人たちが勝手気ままに横行したりすることのたとえです。
英語表現
西洋にも「妖怪」に似た概念として、怪物(Monster)や精霊(Spirit)、悪魔(Devil)を使った表現があります。
Speak of the devil.
- 直訳:悪魔の話をすると(悪魔が現れる)。
- 意味:「噂をすれば影」
- 解説:日本の「噂をすれば影が差す」と同じく、人の噂をしていると、ちょうどその本人が現れるという意味で使われます。
A wolf in sheep’s clothing.
- 意味:「羊の皮を被った狼」
- 解説:外見は大人しそうに見えても、内面は凶悪であることのたとえ。
「化けの皮」や、正体を隠す妖怪のイメージに近い表現です。
まとめ
日本の「妖怪・霊獣」にまつわる言葉は、私たちの心の隙間や、社会の縮図を映し出す鏡のようなものです。
- 鬼:強さ、厳しさ、そして時には隠れた優しさ。
- 天狗・河童:慢心への戒めや、失敗への慰め。
- 狐・狸:疑う心や、人を欺く心理。
これらの言葉を知っておくと、人間の複雑な心理や状況を、ウィットに富んだ表現で伝えることができるでしょう。科学が発達した現代でも、私たちの心の中に住む「彼ら」は、言葉を通じて生き続けていると言えるかもしれません。








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