意味
「不退転(ふたいてん)」とは、固い信念を持ち、どんな困難にも決して屈しないという意味です。
「不退転の決意」という形で使われることがほとんどで、単独ではあまり用いられません。
強い覚悟を示す言葉である一方、決意の表明ばかりが立派で中身が伴わない場面を皮肉る使い方もされます。
- 不(ふ):〜しないと打ち消す語。
- 退転(たいてん):もとの低い段階へ後戻りすること。
語源・由来
「不退転」は、もともと仏教の修行の段階を表す言葉です。
仏道の修行では、いったん進んだ段階から後戻りしてしまうことを「退転」といいます。
その反対に、二度と後戻りしない位に達することが「不退転」です。
『無量寿経』などの経典に説かれ、単に「不退」とも呼ばれます。
日本では、平安時代末の『今昔物語集』に「一生の間不退転の位を期して、阿閦仏の像を図絵し奉る事」という一節が出てきます。
生涯をかけて不退転の位を目指し、仏の像を描いて供養するという話です。
修行の到達点を指していた言葉が、のちに世俗の決意の固さを表す言い方へ移りました。
使い方・例文
「不退転」は、方針や決意を曲げないという構えを示す場面で使われます。
- 社長は不退転の決意で、工場の全面刷新に踏み切った。
- 今回の交渉には不退転の覚悟で臨むと、代表は繰り返した。
- 前言を翻すようでは、不退転という言葉が泣くだろう。
使うときの注意点
「不退転」は、ほぼ「不退転の決意」「不退転の覚悟」という形でしか使われません。
「不退転だ」「不退転する」といった言い方は定着していないため、名詞を続ける形で用いるのが無難です。
また、決意の重さを示す言葉であるだけに、日常の小さな目標に添えると大げさに響きます。
方針の転換が許されない場面で使うと収まりがよくなります。
類義語・関連語
「不退転」と同じく、志を曲げずに貫く姿勢を表す言葉には以下のようなものがあります。
- 不撓不屈(ふとうふくつ):
どんな困難にあっても、志を曲げないこと。 - 初志貫徹(しょしかんてつ):
はじめに決めた志を最後までやり通すこと。 - 背水の陣(はいすいのじん):
退路を断ち、後がない覚悟で事にあたること。
「不退転」と「背水の陣」の違い
どちらも引き返さない覚悟を表しますが、退けない理由が違います。
「不退転」は本人の信念が退かせないのに対し、「背水の陣」は退路そのものを断って退けなくしています。
| 語句 | 退かない理由 | 置かれた状況 |
|---|---|---|
| 不退転 (ふたいてん) | 本人の信念 | 退くこともできる |
| 背水の陣 (はいすいのじん) | 退路がない | 物理的に退けない |
対義語
「不退転」とは反対に、決意が続かないことや迷いを表す言葉があります。
英語表現
unwavering
揺らぐことがない、という意味で、決意や支持の固さを言い表す語。
She showed an unwavering determination.
(彼女は不退転の決意を示しました。)
never back down
決して引き下がらない、と行動の面から言い切る言い回し。
He promised to never back down on this issue.
(彼はこの問題で不退転の姿勢を約束しました。)
「不退転」、修行の位から決意の言葉へ
修行の位を指す「不退転」には、お勤めを欠かさず続けるという意味の用例もあります。
室町時代末から江戸時代初めの狂言『布施無経』には、「毎月今日は、誰殿の方へ不退転の御祈祷に参」という台詞があります。
毎月決まった日に、ある家へ祈祷に通い続けている、という意味です。
信念を曲げないという今の意味の早い用例としては、俳人河東碧梧桐の明治40年(1907年)の句「春雨や何彫る君の不退転」が知られています。
仏教の位を表した言葉が、明治にはこうして人の固い心を言う「不退転」として使われていました。










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