意味
「肉を切らせて骨を切る」は、自分が先に痛手を引き受け、その代わりに相手へ致命的な一撃を返す捨て身の駆け引きを指す言葉で、勝負事だけでなく交渉やビジネスの競争でも使われます。
対等なやり取りというより、追い詰められた側が最後の勝機を求めて選ぶ、切迫した状況を伴う響きがあります。
語源・由来
「肉を切らせて骨を切る」は、剣術において圧倒的に強い相手と渡り合うための心構えとして使われてきた言葉です。
真剣の勝負で相手の攻撃を完全に避けきるのは難しいため、致命傷になりにくい部分にあえて刃を受けさせ、その隙に相手の急所へ打ち込むという考え方が土台になっています。
皮膚に近い「肉」よりも「骨」のほうが体の芯に近いため、自分が引き受ける傷より深い一撃を相手に返すという力の差が、この言葉の中に表れています。
この発想は「皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を断つ」という形にも展開され、浅い傷から深い傷へと段階を追って踏み込む度胸を説く言い回しとしても使われています。
「肉を切らせて骨を切る」は「肉を切らせて骨を断つ」とも言い換えられ、古い言い回しでは「肉を斬らして骨を斬る」のように「斬る」の字が使われることもあります。
使い方・例文
「肉を切らせて骨を切る」は、勝負事だけでなく、交渉やビジネスの競争など、一定の損害を覚悟してでも大きな成果を狙う場面で使われます。
- 値下げで一時赤字になっても、肉を切らせて骨を切る覚悟で挑む。
- 反則覚悟の猛タックルは、まさに肉を切らせて骨を切る戦法だった。
- 主力商品を値下げしてでも、肉を切らせて骨を切るシェア争いに出る。
「苦肉の策」との混同に注意
「肉を切らせて骨を切る」は、三国志の故事に由来する「苦肉の策」と混同されることがあります。
「苦肉の策」は自分が苦しむ姿を見せて相手を欺くための計略であるのに対し、「肉を切らせて骨を切る」は相手を欺く要素を含まず、実際に損害を受け入れて戦う点で仕組みが異なります。
類義語・関連語
「肉を切らせて骨を切る」のように、小さな犠牲を払ってでもより大きなものを守ったり得たりする考え方を表す言葉には、次のようなものがあります。
- 小の虫を殺して大の虫を助ける(しょうのむしをころしてだいのむしをたすける):
優先順位の低いものを犠牲にして、より大切なものを守ること。
「肉を切らせて骨を切る」と「小の虫を殺して大の虫を助ける」の違い
どちらも一部を犠牲にして全体の利益を守る点は共通していますが、状況の性質が異なります。
「肉を切らせて骨を切る」は相手と直接ぶつかり合う勝負や交渉の場面に限られるのに対し、「小の虫を殺して大の虫を助ける」は対立する相手を前提とせず、優先順位をつけて取捨選択する場面全般に使えます。
| 語句 | 場面 | 対立する相手 |
|---|---|---|
| 肉を切らせて骨を切る (にくをきらせてほねをきる) | 勝負・交渉での駆け引き | 必要 |
| 小の虫を殺して大の虫を助ける (しょうのむしをころしてだいのむしをたすける) | 優先順位の判断全般 | 不要 |
英語表現
lose the battle to win the war
直訳は「戦争に勝つために戦闘に負ける」。目先の小さな勝負を譲ってでも、最終的な大きな勝利を優先する考え方を表す表現。
We’re willing to lose the battle to win the war on this deal.
(この取引では、目先の勝負を捨ててでも最終的な勝利を取りにいくつもりだ。)
相打ちに見えて、実は相打ちではない
剣術には、互いの太刀が同時に決まる「相打ち」という状態があります。
しかし「肉を切らせて骨を切る」が指す状況は、この相打ちとは区別されます。
相打ちが五分の条件で刃を交わした末の結果であるのに対し、こちらは自分の傷をあらかじめ軽い部分に限定し、相手には急所への一撃を与える、意図された不釣り合いな交換です。
見た目には両者が傷を負う同時進行の攻防に映っても、内実は勝つ側があらかじめ選び取った駆け引きだという違いがあります。









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