ことわざ辞典をめくっていると、「昔の人は何を考えてこんな言葉を作ったんだ?」と首をかしげたくなるような、奇妙でシュールな表現に出会うことがあります。
そこには、江戸っ子の強烈なブラックユーモアや、現代のホラー映画顔負けの怖い教訓、あるいは思わず吹き出してしまうような滑稽な描写が詰まっています。
この記事では、明日誰かに話したくなる「笑えることわざ」、意味を知るとゾッとする「怖いことわざ」、そして身体表現がシュールすぎる「変なことわざ」を厳選し、大ボリュームでご紹介します。
- 1. 思わず笑ってしまう「馬鹿げたことわざ」
- 豆腐の角に頭をぶつけて◯◯
- へそで茶を沸かす(へそでちゃをわかす)
- 連木で腹を切る(れんぎではらをきる)
- 屁をひって尻窄める(へをひってしりすぼめる)
- 月夜に釜を抜かれる(つきよにかまをぬかれる)
- 爪の垢を煎じて飲む(つめのあかをせんじてのむ)
- 2. 意味を知るとゾッとする「怖いことわざ」
- 人を呪わば穴二つ(ひとをのろわばあなふたつ)
- 七つまでは神のうち(ななつまではかみのうち)
- 生き馬の目を抜く(いきうまのめをぬく)
- 死人に口なし
- ミイラ取りがミイラになる
- 飼い犬に手を噛まれる
- 3. 表現がシュールな「人体のことわざ」
- 4. どっちが正解?「矛盾することわざ」
- 「善は急げ」 vs 「急がば回れ」
- 「二度あることは三度ある」 vs 「三度目の正直」
- 「君子危うきに近寄らず」 vs 「虎穴に入らずんば虎子を得ず」
- 「三人寄れば文殊の知恵」vs「船頭多くして船山に上る」
- 5. 役立たず・無駄を表す「虚しいことわざ」
- 糠に釘(ぬかにくぎ)
- 網の目に風溜まる(あみのめにかぜたまる)
- 月夜に提灯(つきよにちょうちん)
- まとめ – 言葉遊びを楽しもう
1. 思わず笑ってしまう「馬鹿げたことわざ」
あり得ない状況や、大袈裟すぎる表現で笑いを誘う言葉たちです。
豆腐の角に頭をぶつけて◯◯
- 意味:「そんな馬鹿なことをする奴は、生きていても仕方がない」という罵倒語。または「そんなことできるわけがない」という冗談。
- 解説:
古典落語などに登場する江戸っ子の決まり文句です。柔らかい豆腐の角で◯◯ことなど物理的に不可能です。
「◯んでしまえ!」と直球で言うと角が立ちますが、こう言うことで「それくらい間抜けだぞ」と笑いに変えるユーモアです。 - 類似:うどんで首吊って◯ね(うどんはすぐに切れるので◯ねない=無理なことのたとえ)
- 注意:現代では言葉の暴力性やコンプライアンスの観点からも使用してはいけません。
へそで茶を沸かす(へそでちゃをわかす)
- 意味:あまりにもおかしくて、どうしようもないこと。嘲笑する時に使う。
- 解説:
お腹を抱えて笑うと、お腹(へそ)がよじれて熱くなる気がします。その熱でお湯を沸かしてお茶が飲めるほどだ、という大袈裟すぎる表現です。
連木で腹を切る(れんぎではらをきる)
- 意味:不可能なことのたとえ。
- 解説:
「連木(れんぎ)」とは、すりこぎのことです。先が丸い木の棒で切腹しようとしても、痛いだけで絶対に切れません。「豆腐の角」と同じく、できないことを面白おかしく表現した言葉です。
屁をひって尻窄める(へをひってしりすぼめる)
- 意味:失敗した後で、慌てて取り繕ったり、隠そうとしたりすること。
- 解説:
おなら(屁)をしてしまった後に、慌ててお尻の穴を締めても手遅れです。
「後の祭り」と同じ意味ですが、あまりにも人間臭くて情けない描写が笑いを誘います。
月夜に釜を抜かれる(つきよにかまをぬかれる)
- 意味:ひどく油断していることのたとえ。
- 解説:
月が明るい夜は泥棒も見つかりやすいはずなのに、そんな晩に、大きくて重い「釜(かま)」を盗まれてしまうとは、どれだけぼんやりしているんだ、という呆れを含んだ言葉です。
爪の垢を煎じて飲む(つめのあかをせんじてのむ)
- 意味:優れた人の一部を体に取り込んで、少しでもあやかりたいと願うこと。
- 解説:
尊敬の表現として使われますが、冷静に考えると「他人の爪のゴミを煮出して飲む」という、とんでもなく不衛生で狂気じみた行為です。それほど尊敬しているという強調表現です。
2. 意味を知るとゾッとする「怖いことわざ」
人間の本性や、因果応報の恐ろしさを説いた言葉です。
人を呪わば穴二つ(ひとをのろわばあなふたつ)
- 意味:他人を呪い殺そうとすれば、報いを受けて自分も死ぬことになる。だから墓穴は二つ(相手用と自分用)掘っておけ。
- 解説:
陰陽師(おんみょうじ)の世界観に由来します。「呪い返し」の恐怖を説いた言葉ですが、現代でも「他人の不幸を願うと、結局自分も不幸になる」というメンタルヘルスの戒めとして通じます。
七つまでは神のうち(ななつまではかみのうち)
- 意味:子供は7歳になるまでは神様から預かっているもの(だから、いつ死んでも不思議ではないし、神様にお返しするだけだ)。
- 解説:
現代では「子供は神様のように尊い」という意味で使われることもありますが、本来は「医療が未発達だった時代の、高い乳幼児死亡率」を背景にした言葉です。
7歳を迎えて初めて「人」として戸籍に入れられる。それまでは「いつ神様の元へ帰る(死ぬ)かわからない」という、親の悲しみと諦めが込められた、切なくも怖い言葉です。
生き馬の目を抜く(いきうまのめをぬく)
- 意味:他人を出し抜いて利益を得るのが非常に素早いこと。油断も隙もない都会や競争社会のたとえ。
- 解説:
生きている馬の目を、走っている最中に抜き取ってしまうほど手際が良いスリや詐欺師の様子から。想像するとグロテスクですが、それほど現代社会は油断ならない場所だということです。
死人に口なし
- 意味:死んだ者は証言できないので、生者に都合の良いように何とでも言える。
- 解説:
ミステリードラマでお馴染みの言葉ですが、現実社会でも責任を死者やいない人に押し付けることはよくあります。人間の身勝手さと、反論できない無念さを表した冷徹な言葉です。
ミイラ取りがミイラになる
- 意味:人を探しに行った者が、そのまま帰ってこなくなること。また、説得しに行ったはずが、逆に相手に説得されてしまうこと。
- 解説:
かつてミイラは薬として高値で取引されていました。その薬を採りに行った人が、行き倒れて自分がミイラになってしまうという、笑えない皮肉から来ています。
飼い犬に手を噛まれる
- 意味:日頃から可愛がって面倒を見ていた者から、裏切られたり害を受けたりすること。
- 解説:
ただの裏切りではなく、「自分が世話をしていた相手」というのがポイントです。信頼が深いほど、その傷(恐怖)は深くなります。
3. 表現がシュールな「人体のことわざ」
身体の一部を使った、想像すると奇妙な光景になる言葉です。
喉から手が出る(のどからてがでる)
- 意味:欲しくて欲しくてたまらない様子。
- 解説:
飢えている時に、食べ物を掴もうとして喉の奥から手が飛び出してくるイメージ。エイリアンのような猟奇的なビジュアルですが、物欲を表現するのにこれ以上の言葉はありません。
目から鼻へ抜ける(めからはなへぬける)
- 意味:非常に賢く、判断が素早いこと。
- 解説:
「目と鼻の間」は非常に短い距離です。その間を空気がスッと通り抜けるように、物事の理解が早い様子を表します。褒め言葉ですが、字面だけ見るとかなりシュールです。
顔から火が出る(かおからひがでる)
- 意味:恥ずかしくて顔が真っ赤になること。
- 解説:
恥ずかしさで顔が熱くなる様子を「火が出る」と表現しました。比喩表現の傑作です。
足元を見る(あしもとをみる)
- 意味:相手の弱みにつけこむこと。
- 由来:
昔の駕籠(かご)かきや馬子は、客の足元(履物)を見て、旅疲れしているかどうかを判断し、疲れていれば法外な値段をふっかけたことから。
4. どっちが正解?「矛盾することわざ」
ことわざの世界には、正反対の教訓が共存しています。これは「状況によって正解は変わる」というリアリズムの表れです。
「善は急げ」 vs 「急がば回れ」
- 善は急げ:良いことはためらわずにすぐ実行せよ。
- 急がば回れ:急ぐ時ほど、危険な近道より安全な遠回りを選べ。
- 結論:
チャンス(決断)はスピード重視で、実行プロセスは慎重に。
「二度あることは三度ある」 vs 「三度目の正直」
- 二度あることは…:失敗や災難は繰り返される傾向がある(警告)。
- 三度目の正直:一度や二度失敗しても、三度目には成功する(励まし)。
- 結論:
失敗の原因を放置すれば「二度ある…」になり、改善して挑めば「三度目の正直」になります。
「君子危うきに近寄らず」 vs 「虎穴に入らずんば虎子を得ず」
- 君子危うき…:賢い人は危険な場所には近づかない(リスク回避)。
- 虎穴に入らずんば…:大きな成果を得るには、あえて危険を冒さねばならない(リスクテイク)。
- 結論:
守るべき地位や資産があるなら「君子」になり、失うものがなく挑戦するなら「虎穴」へ飛び込め、ということです。
「三人寄れば文殊の知恵」vs「船頭多くして船山に上る」
- 三人寄れば…:凡人でも三人集まって相談すれば、素晴らしい知恵が出る(協力の肯定)。
- 船頭多くして…:指図するリーダーが多すぎると、船が山に登るような見当違いな方向に進んでしまう(混乱の警告)。
- 結論:
「相談」は三人で、「決定」は一人で。役割分担ができていない集団は、かえって烏合の衆になるという戒めです。
5. 役立たず・無駄を表す「虚しいことわざ」
努力が報われない様子を、独特なアイテムで表現します。
糠に釘(ぬかにくぎ)
網の目に風溜まる(あみのめにかぜたまる)
- 意味:絶対に不可能なことのたとえ。
- 解説:
スカスカの網で風を受け止めることはできません。
どんなに期待しても無駄であるという、少し寂しい表現です。 - 類似:籠で水を汲む
月夜に提灯(つきよにちょうちん)
- 意味:月が明るい晩には提灯がいらないことから、あっても不要なもの、無駄なもののたとえ。
- 解説:
「夏炉冬扇(かろとうせん/夏の火鉢と冬の扇子)」と同じ意味です。
タイミングが合わなければ、便利な道具もガラクタになります。
まとめ – 言葉遊びを楽しもう
「豆腐の角に頭をぶつけて死ね」なんて、現代のコンプライアンス的にはアウトかもしれませんが、そこには「直接的な暴言を避けて笑いに変える」という、江戸庶民の知恵と配慮が隠されています。
また、「人を呪わば穴二つ」のような怖い言葉は、現代人のSNSトラブルなどにも通じる普遍的な真理を突いています。
ことわざは、高尚な教訓ばかりではありません。
時には毒があり、矛盾し、笑える。
そんな人間臭い言葉の世界を、ネタとして楽しんでみてはいかがでしょうか。


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