夢を抱いて異国へ渡り、愛する人と肩を並べてウイスキー造りに挑んだ夫婦がいました。
本場スコットランドで培った技術と情熱を、言葉も文化も異なる日本の地で形にしようとした二人の歩みを描いたのが、NHK連続テレビ小説「マッサン」(まっさん)です。
2014年9月から2015年3月にかけて放送され、多くの視聴者の心を掴みました。
※2025年12月22日より、NHK総合にて再放送中です(毎週月〜金 午後0時30分〜)。
このドラマをひときわ印象深いものにしているのが、全25週のうち24週のサブタイトルに「ことわざ」が使われていたという点です。
選び抜かれた言葉の一つひとつが、その週に二人が向き合う試練や、前へ進む力となる希望を映し出すものとなっており、物語に深みと奥行きを与えていました。
第1週〜第8週:夢の始まりと大阪での苦闘
鬼の目にも涙
冷酷で無慈悲に見える人物でも、時には情に絆されて涙を流すこと。
第1週。
スコットランドから帰国した政春(マッサン)を待っていたのは、家業の酒蔵を継ぐことを望む厳格な母・早苗の猛反対でした。
災い転じて福となす
身に降りかかった災難を上手く活用して、逆に幸運な結果へ変えること。
第2週。
政春が勤めていた住吉酒造でウイスキー計画が中止となり絶望しますが、これが後の独立への一歩となります。
住めば都
どんなに馴染みのない土地でも、住み慣れれば居心地の良い場所になる。
第3週。
大阪の長屋で始まったエリーの新しい生活。文化の違いに戸惑いながらも、隣人たちと交流を深め、居場所を築き始めました。
破れ鍋に綴じ蓋
どんな人にも、相応の配偶者や相棒がいるということ。
第4週。
周囲に反対されながらも、お互いの弱さを補い合い、深い愛で結ばれた政春とエリーの夫婦像そのものを表しています。
内助の功
家族が影で支え、表舞台に立つ人を成功に導く功績。
第5週。
住吉酒造を退職した政春を助けるため、エリーが英語を教えたり歌ったりして必死に家計を支える献身的な姿が描かれました。
情けは人のためならず
人に親切にすれば、巡り巡って自分にも良い報いが返ってくるという意味。
第6週。
エリーが親切に接していた長屋の人々が、政春の窮地の際に力を貸してくれる温かいエピソードが中心です。
触らぬ神に祟りなし
自分に関係のない余計なことに手を出さなければ、災いを受けることもない。
第7週。
お節介な性格の政春が他人のトラブルに巻き込まれ、現実の厳しさを痛感する場面を描いています。
絵に描いた餅
立派な計画であっても、実行できなければ何の役にも立たないこと。
第8週。
ウイスキーへの情熱はあっても資金も設備もない状況で、鴨居欣次郎から「理想だけでは造れない」と突きつけられます。
第9週〜第16週:理想の追求と新天地への決断
虎穴に入らずんば虎子を得ず
危険な賭けや苦労を厭わなければ、大きな成果を得ることはできない。
第9週。
政春は鴨居商店に入社。安定を捨て、ライバルとも言える相手と手を組んででも理想を実現するための第一歩を踏み出しました。
灯台下暗し
身近なことほど、意外と気づきにくいものであるという例え。
第10週。
理想のウイスキーに不可欠な条件を備えた場所が、実は身近な「山崎」にあることに気づき、蒸溜所建設が動き出します。
子に過ぎたる宝なし
親にとって、子供以上に価値のある宝物はこの世に存在しない。
第11週。
夫婦のもとに養子としてエマが迎えられ、血の繋がりを超えた家族の愛と、親としての葛藤や喜びが描かれました。
冬来たりなば春遠からじ
今は厳しく辛い時期でも、耐え抜けば必ず幸せな時期がやってくるという希望。
第12週。
初期のウイスキーが売れず、品質へのこだわりと商売の厳しさの間で最も苦しい時期を迎えます。
急いては事をし損じる
焦って物事を進めようとすると、かえって失敗を招きやすいという戒め。
第13週。
ウイスキーが熟成するまでの数年間。早く売りたい周囲の圧力に対し、政春は「待つ」ことの信念を貫きます。
渡る世間に鬼はない
世の中は冷たい人ばかりではなく、困った時には必ず助けてくれる人がいる。
第14週。
北海道での独立を目指す際、エリーや政春の情熱に賛同した出資者たちが現れ、大きな力となりました。
会うは別れの始め
出会った人とはいつか必ず別れる運命にあるという無常観。
第15週。人生の転機において恩師や旧友たちと別れ、さらに政春の父の死という悲しみを乗り越えて進む姿が描かれます。
人間到る処青山有り
故郷だけが活躍の場ではなく、どこにでも死して骨を埋めるべき場所はある。
第16週。ついに新天地・北海道の余市へ。異国の地で生きるエリーとともに、二人の終焉の地となる場所で挑戦が始まります。
第17週〜第25週:戦禍の苦難と不屈の結末
負うた子に教えられる
若者や子供から、思わぬ教訓や真理を教わることがある。
第17週。成長した娘のエマの純粋な言葉や意志が、迷いの中にいた政春たちに初心を思い出させるきっかけとなりました。
遠くて近きは男女の仲
疎遠に見えても縁があれば結ばれ、惹かれ合えば距離など関係なくなる。
第18週。熟年となった夫婦の絆の深まりと、周囲の若者たちの新しい恋模様が描かれています。
万事休す
すべての手段を使い果たし、もはや打つ手がない絶体絶命の状態。
第19週。第二次世界大戦が勃発し、エリーがスパイ容疑をかけられるなど、一家を揺るがす最大の危機が訪れます。
夏は日向を行け 冬は日陰を行け
あえて困難な道を選び、自らを鍛錬せよ。
第20週。戦時下、海軍の指定工場となり物資は確保されますが、政春は信念に反する妥協を許さず、職人としての誇りを守り抜きます。
物言えば唇寒し秋の風
不用意な発言が災いを招いたり、寂しい思いをしたりすること。
第21週。戦時中の厳格な言論統制の中、沈黙を強いられながらも家族を守り、ウイスキー造りを守り続ける緊迫した日々を指しています。
親思う心にまさる親心
子が親を思う気持ちよりも、親の子を思う心の方がはるかに深く強いこと。
第22週。終戦後、娘エマの将来を案じる政春とエリー。親としての深い葛藤と無償の愛がテーマとなっています。
待てば海路の日和あり
今は状況が悪くても、焦らず待てばやがて絶好の機会が訪れる。
第23週。戦後の復興期を経て、ついに自分たちのウイスキーが世に認められ、報われる瞬間が近づいていることを示唆しています。
一念岩をも通す
強い意志を持って一心に取り組めば、どんな困難も成し遂げられる。
第24週。数十年の歳月を経て、ついに究極のウイスキーを完成。エリーとともに歩んだ夢の成就を描く大団円です。
人生は冒険旅行
(※この週のタイトルは、ことわざではないので説明はありません。)
第25週(最終週)。
エリーの死後、マッサンが彼女の遺した手紙を胸にウイスキー造りへの決意を新たにする姿と、その10年後が描かれます。「人生は冒険旅行」というエリーの言葉が、物語全体を貫く魂の言葉として響きます。
まとめ
週ごとのサブタイトルを飾ったこれらの言葉は、まさにマッサンとエリーの人生そのものでした。
困難に突き当たった時の戒めとして、そして明日を信じるための支えとして、ことわざは常に物語の芯となっていました。
全25週にわたる物語の中で、二人は異国の壁、家族との軋轢、戦争という時代の荒波など、幾度となく絶望の淵に立たされます。
それでも歩みを止めなかったのは、互いへの深い愛情と、夢への揺るぎない信念があったからでしょう。
そしてその信念の輪郭を際立たせていたのが、毎週のことわざという「言葉の力」でもありました。
ことわざは、誰かの体験や知恵が凝縮された生きた言葉です。
時代を超えて語り継がれてきたのは、人が繰り返し同じ喜びや苦しみを経験してきた証でもあります。
かつての先人たちが長い年月をかけて磨き上げた知恵の結晶は、ドラマの記憶とともに、今を生きる私たちの心にも確かな力を与えてくれます。







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