私たちの食卓に並ぶおいしい食べ物。実は、毎日のように口にするこれらの食材は、昔から人々の暮らしや知恵と深く結びつき、たくさんの言葉を生み出してきました。
この記事では、そんな食べ物にまつわることわざ、慣用句、故事成語、四字熟語を網羅的にご紹介します。
言葉の背景にある意味や由来を知ることで、日本語の奥深さや表現の豊かさを感じていただけるかと思います。
食べ物に関係する「ことわざ」
- 秋茄子は嫁に食わすな(あきなすはよめにくわすな):
秋なすは美味なので嫁には食べさせないという姑の意地悪からという説と、体を冷やすので大事な嫁の体を案じてという説があること。 - 青菜に塩(あおなにしお):
元気をなくし、しょんぼりと打ちしおれているさまのたとえ。 - 芋の煮えたも御存じない(いものにえたもごぞんじない):
世間知らずで、物事の道理をわきまえないことのたとえ。 - 瓜の蔓に茄子はならぬ(うりのつるになすびはならぬ):
平凡な親からは非凡な子は生まれない、血筋は争えないということのたとえ。 - 海老で鯛を釣る(えびでたいをつる):
わずかな元手や労力で大きな利益を得ることのたとえ。 - 絵に描いた餅(えにかいたもち):
計画や空想が具体的でなく、何の役にも立たないことのたとえ。 - 鴨が葱を背負って来る(かもがねぎをしょってくる):
好都合なことが重なって起こること。利用しやすい相手が、さらに好都合な条件を伴って現れること。 - 腐っても鯛(くさってもたい):
本来価値のあるものは、多少状態が悪くなってもその真価を失わないことのたとえ。 - ごまめの歯ぎしり(ごまめのはぎしり):
力の及ばない者が、無駄にいらだち、悔しがることのたとえ。(「ごまめ」はカタクチイワシの稚魚の干物で、田作りとしておせちにも使われます。) - 五斗米のために腰を折る(ごとべいのためにこしをおる):
わずかな給料のために、信念を曲げて人に仕えることのたとえ。 - 山椒は小粒でもぴりりと辛い(さんしょうはこつぶでもぴりりとからい):
体は小さくても、気性や才能が鋭く優れていて侮れないことのたとえ。 - シシ食った報い(ししくったむくい):
(主に猪や鹿の肉を食べたことに対する罰として)悪いことをしたために受ける報いのこと。 - 煎り豆に花が咲く(いりまめにはながさく):
ありえないことが起こること、または、衰えたものが再び盛んになることのたとえ。 - 蓼食う虫も好き好き(たでくうむしもすきずき):
人の好みはさまざまで、一概には言えないということのたとえ。(蓼は辛味のある植物です。) - 棚からぼた餅(たなからぼたもち):
思いがけない幸運が舞い込むことのたとえ。 - 豆腐にかすがい(とうふにかすがい):
手応えがなく、少しも効き目がないことのたとえ。 - 毒を食らわば皿まで(どくをくらわばさらまで):
一度悪事に手を出したら、最後まで徹底的にやってしまえということ。 - 隣の飯は白い(となりのめしはしろい):
他人のものは何でもよく見えることのたとえ。「隣の芝生は青い」と似た意味。 - 残り物には福がある(のこりものにはふくがある):
人が取り残したものの中に、かえって良いものが残っていることがあるということ。 - 喉元過ぎれば熱さを忘れる(のどもとすぎればあつさをわすれる):
苦しい経験も、過ぎ去ってしまえばその苦しさを忘れてしまうことのたとえ。(熱い食べ物を飲み込んだ時の感覚から。) - 花より団子(はなよりだんご):
風流なものより、実利のあるものを選ぶことのたとえ。外観よりも実質を重んじること。 - 腹が減っては戦ができぬ(はらがへってはいくさができぬ):
空腹では良い働きはできない、何かをするにはまず腹ごしらえが必要ということ。 - 味噌の味噌臭きは上味噌にあらず(みそのみそくさきはじょうみそにあらず):
いかにも専門家ぶったり、知識をひけらかしたりするのは、かえって未熟であるということ。 - 餅は餅屋(もちはもちや):
何事も専門家に任せるのが一番であることのたとえ。
食べ物に関係する「慣用句」
(慣用句を五十音順に並べ替え、由来の補足や追加項目を加えました。)
- 朝飯前(あさめしまえ):
ごく簡単であること。たやすいこと。(朝食をとる前のわずかな時間でもできるほど簡単、という意味。) - 味を占める(あじをしめる):
一度うまくいった経験から、その味が忘れられず、次も同じように期待すること。 - 油を売る(あぶらをうる):
仕事の途中で無駄話などをして時間を潰すこと。(江戸時代の髪油売りが、客との世間話に時間をかけたことからとも言われます。) - 一杯食わされる(いっぱいくわされる):
うまく騙されたり、出し抜かれたりすること。(一杯のお茶やお酒をすすめられて油断した隙に、という意味合いも。) - 鰻登り(うなぎのぼり):
物価や評価、人気などが急速に上がること。(鰻が川をまっすぐ登る様子から。) - 同じ釜の飯を食う(おなじかまのめしをくう):
一つ屋根の下で生活を共にすること。苦楽を分かち合うこと。 - 画餅に帰す(がべいにきす):
計画などが実現せず、無駄骨に終わること。(「絵に描いた餅」と同じく、食べられない餅の意から。) - ごぼう抜き(ごぼうぬき):
競走などで、多くの相手を一気に追い抜くこと。また、多くの中から一つだけ引き抜くこと。(地面に深く根を張ったごぼうを引き抜く様子から。) - 胡麻をする(ごまをする):
人に気に入られようとして、機嫌をとったり、へつらったりすること。(すり鉢で胡麻をすると、あちこちに胡麻がくっつく様子から。) - 砂糖にたかる蟻(さとうにたかるあり):
利益のあるところに人が集まってくるさまのたとえ。 - 塩を送る(しおおおくる):
敵の弱みにつけこまず、逆にその苦境を助けること。(戦国時代、上杉謙信が敵対する武田信玄に塩を送ったという故事に由来するとされます。) - 食指が動く(しょくしがうごく):
食欲がわくこと。転じて、ある物事に対して興味や欲望を持つこと。(古代中国で、ご馳走が出ると人差し指(食指)が動いたという人の故事から。) - 食わず嫌い(くわずぎらい):
実際に試してもみないのに、嫌だと決めつけて受け付けないこと。また、その人。 - 舌鼓を打つ(したつづみをうつ):
非常においしいものを食べたときに、満足して舌を鳴らすこと。 - すし詰め(すしづめ):
人や物が、隙間なくぎっしりと詰め込まれている状態。(寿司桶に寿司を詰める様子から。) - 茶を濁す(ちゃをにごす):
いい加減なことを言ったりしたりして、その場をごまかすこと。(茶道の作法を知らない人が、適当にお茶を濁らせて取り繕ったことから。) - 手塩にかける(てしおにかける):
自ら世話をして大切に育てること。(昔、食卓で各自が使うために用意された少量の塩「手塩」を、大切なものに振りかけるように世話をする意から。) - 大根役者(だいこんやくしゃ):
演技の下手な役者をののしっていう言葉。(大根は食べても食あたりしないことから、「当たらない」役者という意味や、白い肌が素人っぽいという意味合い。) - 糠喜び(ぬかよろこび):
当てが外れて、一時的な喜びに終わること。(精米する前の米=糠のように、実りのない喜びの意。) - 煮え湯を飲まされる(にえゆをのまされる):
信頼していた人に裏切られ、ひどい目にあわされること。 - 飯の種(めしのたね):
生活していくための手段となる職業や仕事、収入源のこと。 - 味噌をつける(みそをつける):
失敗して面目を失うこと。(大切な味噌を焦がして価値を下げてしまうことから。) - 道草を食う(みちくさをくう):
目的地へ行く途中で、他のことに関わって時間を費やすこと。寄り道すること。(馬が道端の草を食べる様子から。) - まな板の鯉(まないたのこい):
相手のなすがままになるしかなく、どうすることもできない運命にあることのたとえ。
食べ物に関係する「四字熟語」
- 悪衣悪食(あくいあくしょく):
粗末な衣服と粗末な食事。物質的な欲望に淡々として、清貧な生活を送ること。 - 医食同源(いしょくどうげん):
病気を治す薬と毎日の食事は、本来根源が同じであるという考え方。健康維持にはバランスの取れた食事が重要であること。 - 一汁一菜(いちじゅういっさい):
飯、汁物一品、おかず一品だけの質素な食事のこと。 - 一飯千金(いっぱんせんきん):
わずかな食事の施しに、後に千金をもって報いたという韓信の故事から、受けた恩に厚く報いることのたとえ。 - 快食快眠(かいしょくかいみん):
気持ちよく食べ、ぐっすり眠ること。心身ともに健康な状態。 - 画餅充飢(がべいじゅうき):
絵に描いた餅で飢えを満たす意から、空想によって心を慰めることのたとえ。「絵に描いた餅」の元になった言葉。 - 五穀豊穣(ごこくほうじょう):
米・麦・粟・豆・黍(きび)などの主要な穀物が豊かに実ること。 - 自給自足(じきゅうじそく):
生活に必要な物資、特に食料などを、自分たちの労働で生産し、満たすこと。 - 酒池肉林(しゅちにくりん):
酒や肉をふんだんに用意した、贅沢の限りを尽くした盛大な宴会のこと。また、そのような贅沢な生活のこと。
(故事成語としても知られます。) - 酒食徴逐(しゅしょくちょうちく):
酒を飲み食事を共にすることだけを目的として、人々が集まり追い求めること。享楽にふけること。 - 弱肉強食(じゃくにくきょうしょく):
弱い者が強い者のえじきになること。強い者が弱い者を犠牲にして栄えること。(自然界の食物連鎖のありさまから。) - 食前方丈(しょくぜんほうじょう):
食卓の前に、一丈(約3メートル)四方にも広がるほど多くのご馳走が並べられること。非常に贅沢な食事。 - 粗衣粗食(そいそしょく):
粗末な衣服と粗末な食事。質素な暮らしのこと。「悪衣悪食」とほぼ同義。 - 粒粒辛苦(りゅうりゅうしんく):
米の一粒一粒に込められた農民の苦労。転じて、こつこつと苦労・努力を重ねること。 - 美食飽食(びしょくほうしょく):
おいしいものを飽きるほどたくさん食べること。贅沢な食生活。 - 羊頭狗肉(ようとうくにく):
羊の頭を看板に掲げて犬の肉を売る意から、見かけは立派だが実質が伴わないことのたとえ。偽物を本物と偽って売ること。
食べ物に関係する「故事成語」
(故事成語を五十音順に並べ替え、追加項目と補足を加えました。「酒池肉林」の由来を詳しく記述しました。)
- 羹に懲りて膾を吹く(あつものにこりてなますをふく):
熱い吸い物(羹)で舌をやけどしたのに懲りて、冷たいなます(膾:生の魚や肉を細かく切った料理)まで吹いて冷まそうとすること。
一度の失敗に懲りて、必要以上に用心深くなることのたとえ。 - 糟糠の妻(そうこうのつま):
貧しいときから連れ添い、苦労を共にしてきた妻のこと。
(後漢の光武帝の家臣、宋弘が、貧しい時代を支えた妻と別れることを拒んだ故事に由来。「糟糠」は酒粕と米ぬかのことで、粗末な食事を意味します。) - 米塩の資(べいえんのし):
米や塩を買う費用。すなわち、生計を立てるための費用、生活費のこと。
まとめ – 食卓から生まれた言葉の知恵
この記事では、「食べ物」にまつわることわざ、慣用句、故事成語、四字熟語を幅広くご紹介しました。
身近な食材が、先人たちの知恵や観察眼を通して、人生の教訓や物事の本質を表す、豊かで「うま味」のある表現へと昇華されていることが分かります。
日常で使われる言葉の中に隠れた食との繋がりを見つけるのも、きっと楽しいでしょう。
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