長く厳しい冬と、白夜と極夜が入れ替わる自然。
デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フィンランド・アイスランドの北欧5カ国には、厳しい気候を生き抜く知恵と、中世サガの時代から受け継がれる達観が、色濃く表れています。
「北欧のことわざ」は、フィンランド語の「シス(不屈の精神)」や、アイスランドの古エッダ詩に至るまで、多様な言語と歴史を映し出しています。
「悪い天気などない、あるのはただ悪い服装だけだ」という開き直りの知恵から、「多くの小さな小川が、一つの大きな川をつくる」という地道な教えまで。
今回は、北欧5カ国それぞれの言語から集めた有名なことわざ17選を、意味・由来・カタカナ読み付きで解説します。
【自然・厳しい気候との共生】備えあれば、恐れなし
長い冬と厳しい自然に向き合ってきた北欧の人々は、天候のせいにせず、備えることの大切さを説いてきました。
悪い天気などない、あるのはただ悪い服装だけだ
Det finnes ikke dårlig vær, bare dårlige klær.(ノルウェー語)
(デ・フィンネス・イッケ・ドーリ・ヴェール、バーレ・ドーリゲ・クレール)
天候のせいにせず、備えを万全にして自然の中へ出ていく姿勢を説く言葉。
ノルウェーの野外活動文化「フリルフツリブ」を象徴する表現です。
「前へ」と、雪の中でおばあさんは言った
Eteenpäin, sanoi mummo lumessa.(フィンランド語)
(エテーンパイン、サノイ・ムンモ・ルメッサ)
雪の中で立ち往生しても弱音を吐かず、前へ進み続ける姿勢を表す言葉。
フィンランド人の不屈の精神「シス」を体現する表現として親しまれています。
雪の中に隠されたものは、雪解けの時に現れる
Det som göms i snö kommer fram vid tö.(スウェーデン語)
(デ・ソム・イェムス・イ・スヌー、コンメル・フラム・ヴィード・トゥー)
「悪事千里を走る」
どんなに隠しても、真実はいずれ明るみに出る。
長い冬と雪解けという北欧の季節感を土台にした言葉です。
【人生観・運命】転んでも、意味がある
中世のサガや古エッダ詩の時代から受け継がれてきた、運命を達観する言葉が残っています。
転倒は、旅の幸先の良さである
Fall er fararheill.(アイスランド語)
(ファトル・エール・ファラルヘイトル)
出発の際につまずくことは、実は幸運の兆しだという考え方。
スノッリ・ストゥルルソン著『ヘイムスクリングラ』で、王が落馬した際に発した言葉として記されています。
十字の木でさえ、他の木同様に裂けることがある
Svo bregðast krosstré sem önnur tré.(アイスランド語)
(スヴォ・ブレクザスト・クロストリェー・セム・ウンヌル・チェー)
どんなに信頼していたものでも、裏切られたり壊れたりすることがあるという教訓。
17世紀後半にはすでに使われていた記録が残っています。
朝は、夕べよりも賢い
Aamu on iltaa viisaampi.(フィンランド語)
(アーム・オン・イルター・ヴィーサーンピ)
大事な決断は、一晩寝かせてから下すべきだという教え。
日本語の「一晩寝て考える」に近い発想です。
【人間関係・信頼・評判】支え、見極める
支え合う仲間の大切さと、うわべではなく中身を見極めることを説く言葉が残っています。
兄弟を持たない限り、誰の背中も裸である
Ber er hver að baki nema sér bróður eigi.(アイスランド語)
(ペール・エール・クヴェール・アーズ・バキ・ネマ・シェール・プロウズル・エイイ)
支えてくれる身内や仲間がいなければ、人は無防備だという意味。
中世の『グレティルのサガ』や『ニャールのサガ』にも登場する、著名な一節です。
犬をその毛並みで判断してはならない
Man skal ikke skue hunden på hårene.(デンマーク語)
(マン・スカル・イッケ・スクーエ・フネン・ポー・ホーエネ)
「人は見かけによらぬもの」
外見だけで人や物を判断してはならないという教え。
デンマーク語・ノルウェー語の双方で広く使われています。
子牛が、過度の世話に報いることは滅多にない
Sjaldan launar kálfurinn ofeldið.(アイスランド語)
(シャルダン・ロイナル・カウルフリン・オフェルディズ)
甘やかしすぎた相手から、感謝や恩返しを期待できないという戒め。
元は子牛の飼育に由来する、畜産の知恵から来た表現です。
良い鐘は遠くまで聞こえるが、悪い鐘はさらに遠くまで聞こえる
Hyvä kello kauas kuuluu, paha vielä kauemmas.(フィンランド語)
(ヒュヴァ・ケッロ・カウアス・クールー、パハ・ヴィエラ・カウエンマス)
良い評判も広まるが、悪い評判はもっと速く遠くまで広まるという教訓です。
【勤勉・忍耐・粘り強さ】積み重ねが、力になる
途中で投げ出さず、地道な積み重ねを重んじる姿勢が、北欧各国の言葉に共通して見られます。
諦める者に、恥あれ
Skam den som ger sig.(スウェーデン語)
(スカム・デン・ソム・イェール・セイ)
途中で投げ出すことこそが恥だという、忍耐と根性を称える言葉。
スポーツの応援や叱咤激励の場面で、今も日常的に使われています。
多くの小さな小川が、一つの大きな川をつくる
Mange bekker små gjør en stor å.(ノルウェー語)
(マンゲ・ベッケル・スモー・イョール・エン・ストゥール・オー)
「塵も積もれば山となる」
小さな貢献の積み重ねが、大きな成果につながるという教えです。
勤勉は、過酷な不運にも勝る
Ahkeruus kovan onnen voittaa.(フィンランド語)
(アハケルース・コヴァン・オンネン・ヴォイッター)
努力を続ければ、厳しい不運さえも乗り越えられるという教えです。
【慎重さ・強欲への戒め】結果が出るまで、当てにしない
成果が出る前に浮かれず、欲張りすぎないことを説く言葉が、狩猟や自然の営みになぞらえて語り継がれています。
熊がまだ撃たれていないうちに、その毛皮を売ってはならない
Man skal ikke sælge skindet, før bjørnen er skudt.(デンマーク語)
(マン・スカル・イッケ・セルゲ・スキーネット、フー・ビョーネン・エア・スクット)
「捕らぬ狸の皮算用」
結果が出る前に成功を当てにするなという戒め。狩猟文化に由来する表現です。
多くを欲しがって大口を開ける者は、しばしば全部を失う
Den som gapar efter mycket mister ofta hela stycket.(スウェーデン語)
(デン・ソム・ガーパル・エフテル・ミュケット、ミステル・オフタ・ヘーラ・ステュケット)
「虻蜂取らず」
欲張りすぎると、元々持っていたものまで失うという戒め。
イソップ寓話「肉をくわえた犬」に由来するとされます。
多くの者は、金によって猿にされる
Margur verður af aurum api.(アイスランド語)
(マルグル・ヴェルズル・アーヴ・オイルム・アーピ)
富や金銭に目がくらむと、人は愚かになるという戒め。
古エッダ詩『ハヴァマール』に由来する、非常に古い一節です。
トウヒに手を伸ばす者は、ネズの木に落ちる
Joka kuuseen kurkottaa, se katajaan kapsahtaa.(フィンランド語)
(ヨカ・クーセーン・クルコッター、セ・カタヤーン・カプサハター)
身の丈に合わない高望みをすると、かえって失敗して惨めな結果になるという戒め。
森林作業の危険性に由来するとされ、1702年のことわざ集にすでに記録が残っています。









コメント