マイスター(職人)の国であり、カントやゲーテを生んだ哲学・芸術の国ドイツ。
そのことわざには、勤勉さと秩序を愛する国民性、そして合理的で少しシニカルな人生観が色濃く反映されています。
「Übung macht den Meister(練習がマイスターを作る)」という言葉が示すように、ドイツの知恵は「努力」「継続」「実直さ」を何よりも重んじます。
また、ビール大国らしく「ビール」を使ったユニークな言い回しがあるのも特徴です。
今回は、ドイツ語学習者はもちろん、ドイツ文化に興味がある方に向けて、日常会話でも使える有名なドイツのことわざ30選を、意味・由来・カタカナ読み付きで解説します。
【仕事・勤勉】マイスター精神と効率性
ドイツ人の代名詞とも言える「勤勉さ(Fleiß)」と「秩序(Ordnung)」を表す言葉です。
練習が名人(マイスター)を作る
Übung macht den Meister.
(ユーブンク・マハト・デン・マイスター)
「習うより慣れろ」、「継続は力なり」。
どんなに才能があっても、繰り返しの練習なしに熟練者(マイスター)にはなれない。
ドイツの職人制度(マイスター制度)の精神を象徴する、最も有名なことわざの一つです。
勤勉なくして、賞(対価)なし
Ohne Fleiß kein Preis.
(オーネ・フライス・カイン・プライス)
「蒔かぬ種は生えぬ」
努力しなければ、それに見合う報酬や成功は得られない。
韻を踏んだリズミカルな表現で、努力と成果の因果関係を説く、非常にドイツ的な教えです。
朝の時間は、口に金を含んでいる
Morgenstund hat Gold im Mund.
(モルゲンシュトゥント・ハット・ゴルト・イム・ムント)
「早起きは三文の徳」
朝の時間は黄金のように貴重であり、早起きして活動すれば大きな利益が得られる。
朝型のライフスタイルを推奨する、古くからの言い伝えです。
まず仕事、それから楽しみ
Erst die Arbeit, dann das Vergnügen.
(エルスト・ディ・アルバイト・ダン・ダス・フェアグニューゲン)
やるべき義務(仕事)をきちんと果たしてからでなければ、遊んではいけない。
仕事とプライベートの境界線をはっきりさせ、規律を重んじるドイツ人の気質がよく表れています。
今日できることを明日に延ばすな
Was du heute kannst besorgen, das verschiebe nicht auf morgen.
(ヴァス・ドゥ・ホイテ・カンスト・ベゾルゲン・ダス・フェアシーベ・ニヒト・アウフ・モルゲン)
「思い立ったが吉日」の実践版。
効率を愛するドイツ人にとって、先延ばしは非効率の極みです。タスクはすぐに処理すべきだという、時間管理の鉄則です。
休息する者は錆びる
Wer rastet, der rostet.
(ヴェア・ラステット・デア・ロステット)
「流水腐らず」。
鉄が使われないと錆びるように、人間も活動や努力を止めると、能力や健康が衰えてしまう。
生涯現役、生涯学習を奨励する言葉です。
自分でやるのが一番(自ら行うこそが男/女だ)
Selbst ist der Mann / die Frau.
(ゼルプスト・イスト・デア・マン / ディ・フラウ)
人に頼らず、自分の力でやってこそ一人前だ。
DIY(日曜大工)が大好きなドイツ人らしい、自立心と実践力を尊ぶ言葉です。「自分のことは自分でやる」という強い意志を感じさせます。
【秩序・ルール】オルドヌング(秩序)への愛
「Ordnung(秩序・整頓)」はドイツ生活のキーワード。規律正しい生活の知恵です。
秩序(整理整頓)は人生の半分である
Ordnung ist das halbe Leben.
(オルドヌング・イスト・ダス・ハルベ・レーベン)
身の回りを整理整頓し、規律正しく生活することは、人生の成功の半分を占めるほど重要だ。
残りの半分は? というツッコミもありますが、まずは環境を整えることが全ての基盤であるという教えです。
Aと言ったなら、Bとも言わねばならない
Wer A sagt, muss auch B sagen.
(ヴェア・アー・ザークト・ムス・アウフ・ベー・ザーゲン)
「乗りかかった船」
一度何かを始めたら(Aと言ったら)、途中で投げ出さずに最後まで責任を持ってやり遂げるべきだ(Bとも言う)。
一貫性と責任感を強く求める言葉です。
【人生・経験】失敗と成長の哲学
哲学的で深い洞察に満ちた、人生の真理を突く言葉たちです。
全ての始まりは難しい
Aller Anfang ist schwer.
(アラー・アンファング・イスト・シュヴェーア)
何事も最初が一番大変なものだ。
新しい挑戦をして苦労している人に対し、「最初はみんなそうだよ、だから諦めないで」と励ます際に使われる温かい言葉です。
損害(失敗)から人は賢くなる
Aus Schaden wird man klug.
(アウス・シャーデン・ヴィルト・マン・クルーク)
「失敗は成功のもと」、「怪我の功名」
痛い目を見たり損をしたりして初めて、人は本当の知恵を身につけることができる。失敗をネガティブに捉えず、学びの機会とする実用的な考え方です。
リンゴは幹から遠くへは落ちない
Der Apfel fällt nicht weit vom Stamm.
(デア・アプフェル・フェルト・ニヒト・ヴァイト・フォム・シュタム)
「蛙の子は蛙」
子供の性格や才能は、結局のところ親に似るものだ。
良い意味(才能の継承)でも、悪い意味(欠点の継承)でも使われます。
正直は最も長く続く
Ehrlich währt am längsten.
(エーア リッヒ・ヴェート・アム・レングステン)
「正直は最善の策」。
嘘やごまかしで得た成功は短命であり、正直に生きることこそが、長い目で見れば最も確実で長続きする成功への道だという倫理的な教えです。
手の中のスズメは、屋根の上のハトに勝る
Ein Spatz in der Hand ist besser als eine Taube auf dem Dach.
(アイン・シュパッツ・イン・デア・ハント・イスト・ベッサー・アルス・アイネ・タウベ・アウフ・デム・ダッハ)
「明日の百より今日の五十」
不確実な大きな利益(屋根のハト)を夢見るより、確実な小さな利益(手の中のスズメ)を大切にせよ。ドイツ人の堅実な国民性がよく表れています。
終わりよければ、すべてよし
Ende gut, alles gut.
(エンデ・グート・アレス・グート)
途中経過がどんなに大変でも、最終的な結果が良ければそれで問題ない。
プロセスを重視する一方で、結果にもこだわるドイツ人の合理的な一面を示しています。
忍耐はバラをもたらす
Geduld bringt Rosen.
(ゲドゥルト・ブリングト・ローゼン)
「石の上にも三年」、「待てば海路の日和あり」
辛抱強く待ち、努力を続ければ、やがて美しいバラ(成果)が咲く。
時間をかけて熟成させることを好む文化らしい、美しい比喩です。
傲慢は転落の前に来る
Hochmut kommt vor dem Fall.
(ホッホムート・コムト・フォア・デム・ファル)
「驕れる者は久しからず」
聖書由来の言葉。調子に乗って傲慢になっていると、必ず手痛いしっぺ返し(転落)が待っているという戒めです。
服装が人を作る
Kleider machen Leute.
(クライダー・マッヘン・ロイテ)
「馬子にも衣装」
人は外見や服装で判断されることが多い。身なりを整えることは、社会的な信用を得るために重要だという現実的なアドバイスです。
嘘は短い脚を持っている
Lügen haben kurze Beine.
(リューゲン・ハーベン・クルツェ・バイネ)
嘘は脚が短いので、すぐに追いつかれて(バレて)しまう。
嘘をついても逃げ切ることはできないという、子供への教育にもよく使われる分かりやすい表現です。
話すことは銀、黙ることは金
Reden ist Silber, Schweigen ist Gold.
(レーデン・イスト・ズィルバー・シュヴァイゲン・イスト・ゴルト)
「言わぬが花」、「沈黙は金、雄弁は銀」
雄弁であることも素晴らしい(銀)が、時として沈黙を守ることの方がより価値がある(金)。
思慮深さと、余計なことを言わない賢明さを説いています。
時はすべての傷を癒す
Zeit heilt alle Wunden.
(ツァイト・ハイルト・アレ・ヴンデン)
「時薬(ときぐすり)」。
今はどんなに辛くても、時間が経てば悲しみや心の傷は必ず癒える。時間に解決を委ねるという慰めの言葉です。
【食・ビール】ドイツ流の楽しみ方
ソーセージやビールが登場する、ドイツならではのユニークな表現です。
空腹は最高の料理人
Hunger ist der beste Koch.
(フンガー・イスト・デア・ベステ・コッホ)
「空腹にまずいものなし」
お腹が空いていることこそが、どんな調味料よりも食事を美味しくする。
シンプルな食事が美味しく感じられた時などに使います。
困った時は、悪魔もハエを食う
In der Not frisst der Teufel Fliegen.
(イン・デア・ノート・フリスト・デア・トイフェル・フリーゲン)
「背に腹はかえられぬ」
非常事態においては、えり好みはしていられない。あのプライドの高い悪魔でさえ、飢えればハエでも食べるのだから、という強烈な比喩です。
それは私のビールではない
Das ist nicht mein Bier.
(ダス・イスト・ニヒト・マイン・ビア)
「それは私の知ったことではない」「私の管轄外だ」。
自分には関係のない問題やトラブルに対して、距離を置く時に使う口語表現。
「自分のビール(守備範囲)」と「他人のビール」を明確に分ける、ドイツらしい言い回しです。
ホップと麦芽、神よ護りたまえ
Hopfen und Malz, Gott erhalt’s.
(ホプフェン・ウント・マルツ・ゴット・エアハルツ)
元々は美味しいビールができるように祈る言葉ですが、転じて「万事休す」「もう手遅れだ(神頼みしかない)」という諦めの意味で使われることもあります(Hopfen und Malz ist verloren)。
ビール純粋令の国ならではの表現です。
全てには終わりが一つあるが、ソーセージには二つある
Alles hat ein Ende, nur die Wurst hat zwei.
(アレス・ハット・アイン・エンデ・ヌア・ディ・ヴルスト・ハット・ツヴァイ)
どんな物事にも必ず終わりは来る(そしてそれは一つだけだ)。でもソーセージだけは両端(終わり)があるよね、というジョークめいた言葉。
辛いことにも必ず終わりが来ると励ます時や、単に場の空気を和ませる時に使われます。
【人間関係・真実】慎重さと幼少期の教育
夕方になる前に、日を褒めるな
Man soll den Tag nicht vor dem Abend loben.
(マン・ゾル・デン・ターク・ニヒト・フォア・デム・アーベント・ローベン)
「勝って兜の緒を締めよ」
一日が無事に終わるまでは、その日が「良い日だった」と判断してはいけない。
何事も最後まで何が起こるかわからないので、早合点して油断するなという戒めです。
ヘンシェン(幼児)が学ばぬことは、ハンス(大人)になっても学べない
Was Hänschen nicht lernt, lernt Hans nimmermehr.
(ヴァス・ヘンシェン・ニヒト・レルント・レルント・ハンス・ニマーメア)
「三つ子の魂百まで」、「鉄は熱いうちに打て」
子供のうちに身につけなかったことは、大人になってから習得するのは難しい。
早期教育やしつけの重要性を説く言葉です。





コメント