多民族、多言語、多宗教が混ざり合う、摩訶不思議な国インド。
そのことわざには、ヒンドゥー教の教えに基づく「カルマ(業)」の思想、マハトマ・ガンディーの「非暴力(アヒンサー)」の精神、そして日常生活の中から生まれた現実的な知恵が凝縮されています。
「マンゴーも食べられて、種も売れる(一石二鳥)」のような商売上手な一面や、「半分の水が入った壺はうるさい(空き樽は音が高い)」といった鋭い人間観察。
今回は、インド好きの方やヨガ・哲学に興味がある方に向けて、日常会話でも使える有名なインドのことわざ30選を、意味・由来・カタカナ読み付きで解説します。
【人生・カルマ】行為と結果の法則
「自分の行いは必ず自分に返ってくる」という、インド哲学の根幹をなす教えです。
蒔いた種のように刈り取る
Jaisa booge vaisa kaaṭoge.
(ジェイサ・ボーゲー・ヴェイサ・カートーゲー)
「因果応報」、「自業自得」
良い種を蒔けば良い結果が、悪い種を蒔けば悪い結果が待っている。
カルマ(業)の法則を最もシンプルに説いた、インド全土で通じる普遍的な真理です。
行為に権利あり、結果にはなし
Karmanye vadhikaraste Ma Phaleshu Kadachana.
(カルマニェー・ヴァーディカラス・テ・マー・パレーシュ・カダチャナ)
ヒンドゥー教の聖典『バガヴァッド・ギーター』の一節。
「あなたは行為(努力)をする権利はあるが、その結果(報酬や成功)をコントロールする権利はない」。
結果に執着せず、今やるべきことに集中しなさいという、カルマ・ヨガの極意です。
鳥が畑をついばんだ後で、悔やんでも仕方がない
Ab pachtāe hot kyā jab ciṛiyā cug gaī khet.
(アブ・パチターエ・ホト・キャ・ジャブ・チリヤ・チュグ・ガイ・ケート)
「後悔先に立たず」、「覆水盆に返らず」
大切な作物を鳥に食べられてしまってから嘆いても遅い。
手遅れになる前に対策を講じるべきだという、農村の生活に根ざした教訓です。
真理のみが勝利する
Satyameva Jayate.
(サティヤメーヴァ・ジェヤテ)
古代の聖典『ウパニシャッド』に由来する言葉で、インドの国章にも刻まれています。
嘘や不正は一時的に勝つかもしれないが、最終的に勝利するのは必ず「真実(サティヤ)」である。
正義を信じるインドの人々の心の拠り所となっている言葉です。
非暴力は最大の義務(ダルマ)
Ahimsa Paramo Dharma.
(アヒンサー・パラモ・ダルマ)
「アヒンサー(非暴力)」は、マハトマ・ガンディーが独立運動の柱とした思想です。
生きとし生けるものを傷つけないことこそが、人間として守るべき最高の義務(ダルマ)であるという、平和への強い祈りが込められています。
忍耐の果実は甘い
Sabr kā phal mīṭhā hotā hai.
(サブル・カ・パル・ミーター・ホタ・ハイ)
「待てば海路の日和あり」
辛抱強く待った後に得られる結果(果実)は、格別に甘くて美味しい。
イスラム文化の影響を受けたウルドゥー語由来の言葉で、忍耐の重要性を説いています。
一滴一滴で、海は満ちる
Būnd būnd se sāgar bhartā hai.
(ブンド・ブンド・セ・サーガル・バルタ・ハイ)
「塵も積もれば山となる」
広大な海でさえ、最初の一滴から始まっている。
どんなに小さな努力や貯金も、積み重ねれば偉大な結果を生むという励ましの言葉です。
【知恵・人間性】賢者と愚者の違い
知識をひけらかすことの愚かさや、物事の本質を見抜く知恵についての言葉です。
半分の水の水瓶(みずがめ)は、はねて音を立てる
Adhjal gagrī chalkat jāe.
(アドジャル・ガグリ・チャルカット・ジャエ)
「空き樽は音が高い」
水が半分しか入っていない壺ほど、運ぶときにチャプチャプと大きな音を立てる。
中途半端な知識しかない人ほど、自分を大きく見せようとしてよく喋り、知識をひけらかすという皮肉です。
遠くの太鼓は心地よく響く
Dūr ke ḍhol suhāvne lagte haiṅ.
(ドゥール・ケ・ドール・スハヴネ・ラグテ・ハイン)
「隣の芝生は青い」
遠くで鳴っている太鼓の音は風情があって良く聞こえるが、近くで聞くと騒々しいだけかもしれない。
離れているものや手に入らないものは、実際以上に良く見えてしまうという心理を表しています。
盲人の中では、片目の者が王様
Andhoṅ meṅ kānā rājā.
(アンドン・メン・カーナー・ラージャ)
「鳥なき里の蝙蝠(こうもり)」
全く見えない人たちの集団の中では、片目だけでも見える人が王様のように振る舞える。
レベルの低い環境では、少し才能があるだけで偉そうにできるという、相対的な評価への皮肉です。
猿にショウガの味がわかるか
Bandar kyā jāne adrak kā svād.
(バンダル・キャ・ジャネ・アドラク・カ・スヴァド)
「猫に小判」、「豚に真珠」
猿に高級なショウガを与えても、その味や価値は理解できない。
ものの価値がわからない人に、立派なものを与えても無駄だという意味です。
踊れないのに、床が歪んでいると言う
Nāc na jāne āṅgan ṭeṛhā.
(ナチ・ナ・ジャネ・アンガン・テーラー)
「弘法筆を選ばず」の逆の意味。
自分の踊りが下手なのを棚に上げて、「床が曲がっているから踊れないんだ」と言い訳をする。
自分の実力不足を認めず、環境や道具のせいにする人を揶揄する言葉です。
象の歯には、見せる用と食べる用がある
Hāthī ke dānt khāne ke aur dikhāne ke aur.
(ハーティー・ケ・ダント・カーネ・ケ・アウル・ディカーネ・ケ・アウル)
「本音と建前」
象には立派な牙(見せる用)があるが、実際に食事をするのは奥にある臼歯(食べる用)である。
外見や言葉(建前)と、実際の中身や行動(本音)が違う二面性のある人を指して使われます。
【社会・処世術】たくましく生きる知恵
カオスとも言われるインド社会を生き抜くための、現実的でたくましい教訓です。
水に住んで、ワニと敵対するな
Jal meṅ rahkar magar se bair.
(ジャル・メン・ラハカル・マガル・セ・バイル)
「寄らば大樹の陰」に近い処世術。
川の中に住んでいるのに、そこの支配者であるワニと喧嘩をするのは愚かだ。
自分の置かれた環境で力を持っている人(上司や有力者)とは、無駄に争わずうまく付き合うべきだという教えです。
家の中の裏切り者は、ランカー(島)を滅ぼす
Ghar kā bhedī laṅkā ḍhāe.
(ガル・カ・ベーディ・ランカ・ダーエ)
「獅子身中の虫」
難攻不落のランカー島も、内部の裏切り者によって滅ぼされた(叙事詩『ラーマーヤナ』の逸話)。
外部の敵よりも、内部の裏切り者や不和の方が恐ろしいという警告です。
蹴られるべき悪魔は、言葉では従わない
Lātoṅ ke bhūt bātoṅ se nahīṅ mānte.
(ラートン・ケ・ブト・バートン・セ・ナヒン・マンテ)
言葉で言ってもわからない相手(悪魔のような頑固者)には、蹴り飛ばす(実力行使)しかない。
どんなに説得しても通じない相手には、時には厳しい態度や罰が必要だという、少々過激ですが現実的な解決策です。
金細工師の百叩きより、鍛冶屋の一撃
Sau sunār kī ek lohār kī.
(ソウ・スナール・キ・エ ク・ロハール・キ)
金細工師が小さなハンマーで100回叩くよりも、鍛冶屋が大きなハンマーでガツンと一発叩く方が効果がある。
ちまちまとした対策を繰り返すより、強力な一手で問題を解決する方が効率的だという意味です。
ザクロ一つに、病人百人
Ek anār sau bīmār.
(エ ク・アナール・ソウ・ビーマール)
たった一つの薬(ザクロ)を求めて、100人の病人が殺到している状態。
求人倍率が高い時や、少ないチャンスに大勢が群がっている「需要過多」の状況を嘆く時に使われます。
マンゴーも食べられて、種の値段もつく
Ām ke ām guṭhliyoṅ ke dām.
(アーム・ケ・アーム・グトリヨン・ケ・ダーム)
「一石二鳥」
美味しいマンゴーの果肉を食べた後、残った種まで売ってお金にする。
一つのことから二重の利益を得る、ちゃっかりとした商売上手な様子を表します。
壁にも耳がある
Dīvāroṅ ke bhī kān hote haiṅ.
(ディヴァロン・ケ・ビ・カン・ホテ・ハイン)
「壁に耳あり障子に目あり」
密談はどこで誰が聞いているかわからない。
情報漏洩への警戒を促す言葉で、日本と全く同じ意味で使われています。
自分のシーツに合わせて、足を伸ばせ
Jitnī cādar ho utne hī pair phailāne cāhie.
(ジトニー・チャダル・ホ・ウトネ・ヒ・ペル・ペラネ・チャヒエ)
「身の丈に合った生活をせよ」
シーツ(布団)のサイズを超えて足を伸ばせば、足が出て寒くなってしまう。
自分の収入や能力の範囲内で生活し、無理な贅沢や高望みをするなという戒めです。
【もてなし・理念】インドの心
インド文化の根底にある、寛容さと多様性を尊重する精神です。
客人は神なり
Atithi Devo Bhava.
(アティティ・デーヴォ・バヴァ)
突然訪ねてきた客人も、神様と同じように大切にもてなしなさい。
インドの伝統的なホスピタリティ精神を表す言葉で、観光キャンペーンのキャッチフレーズにもなっています。
多様性の中の統一
Unity in diversity.
(ユニティ・イン・ダイバーシティ)
インドの国家理念を表す英語のフレーズ。
言語も宗教も文化もバラバラな人々が、一つの国として共存しているインドのあり方そのものを指します。違いを認め合い、調和することの尊さを説いています。
1オンスの実践は、1トンの説教に勝る
An ounce of practice is worth more than tons of preaching.
(アン・オンス・オブ・プラクティス・イズ・ワース・モア・ザン・トンズ・オブ・プリーチング)
マハトマ・ガンディーの言葉。
偉そうなことを口で言う(説教する)よりも、たとえ小さなこと(1オンス)でも実際に行動することの方が、はるかに価値がある。
「不言実行」の精神です。
清潔さは神聖さに次ぐ
Cleanliness is next to Godliness.
(クレンリネス・イズ・ネクスト・トゥ・ゴッドリネス)
身の回りを清潔に保つことは、神への信仰(神聖さ)と同じくらい重要である。
沐浴をして心身を清めるインドの習慣や、ガンディーが説いた衛生観念に通じる教えです。








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