「飛んで火に入る夏の虫」「夏炉冬扇」のように、夏の虫や季節外れの衣服・道具を借りたことわざがある一方、「五月雨」「九夏三伏」のように、梅雨や夏の暑さそのものを言い表す言葉もあります。
夏のことわざ・慣用句と夏の四字熟語36語を、夏の暑さ、梅雨と夏の天気、初夏の景色、夏の虫、季節外れのたとえ、夏と冬を対にした教えなどに分けて、読み・意味とともに紹介します。
夏の暑さ
- 心頭滅却すれば火もまた涼し(しんとうめっきゃくすればひもまたすずし):
心の中から雑念を取り去れば、火の熱さも涼しく感じられるように、どんな苦痛も苦痛と感じなくなるということ。
季節を表す言葉ではなく、焼けるような熱さを題材にした心の持ち方の教え。 - 暑さ寒さも彼岸まで(あつささむさもひがんまで):
夏の残暑も秋の彼岸のころには衰え、冬の寒さも春の彼岸のころには和らぐということ。
春と秋の両方の彼岸についていう言葉で、夏だけの言葉ではない。 - 油照り(あぶらでり):
風がなく、薄日がじりじりと照りつけて、じっとしていても汗のにじみ出るような夏の天気。
からりと晴れて日が照りつける炎天とは違う、蒸し暑さをいう。 - 九夏三伏(きゅうかさんぶく):
夏のうちで最も暑い、土用のころ。
「九夏」は夏の九十日間、「三伏」は夏至のあとの庚の日をもとに定めた初伏・中伏・末伏の三つの日を指す。 - 甑に坐するが如し(こしきにざするがごとし):
甑(= 米などを蒸す器)に座って、下から蒸されているように暑いこと。
夏の暑さがはなはだしいさまのたとえで、唐の韓愈の詩から。 - 流金鑠石(りゅうきんしゃくせき):
金属を溶かして流し、石をも溶かすほどの厳しい暑さのたとえ。
「鑠」は溶かすという意味で、中国の「楚辞」にある、十の太陽が代わる代わる昇って金や石を溶かしたという伝説から。
梅雨・夕立・夏の天気
- 五月雨(さみだれ):
陰暦五月ごろに降り続く長雨で、梅雨のこと。
陰暦の五月は今の暦のほぼ六月にあたり、新暦の五月に降る雨を指す言葉ではない。
夏の季語。 - 五月晴れ(さつきばれ):
もとは五月雨の晴れ間、つまり梅雨の晴れ間をいう言葉。
今は、新暦五月のさわやかに晴れ渡った空を指すことが多い。 - 五月雨式(さみだれしき):
一度で終わらず、途切れながらも何度か続けて物事を行うこと。
五月雨が少しずつ繰り返し降ることから生まれた言い回しで、季節とは関係なく使う。 - 夕立は馬の背を分ける(ゆうだちはうまのせをわける):
夕立は、馬の背の片側は濡らしても、もう片側は乾いていることがあるほど、降る範囲が狭いということ。 - 半夏生(はんげしょう):
夏至から十一日目にあたる雑節で、今の七月二日ごろ。
半夏(= カラスビシャク)が生えるころという意味で、田植えを終える目安とされてきた。 - 雷三日(かみなりみっか):
夏に雷が鳴り始めると、三日ほど続くということ。
上空の寒気の動きが遅く、雷雲の生まれやすい状態が続くことによる。 - 雷が鳴ると梅雨が明ける(かみなりがなるとつゆがあける):
梅雨の終わりごろに雷が鳴るようになれば、梅雨明けが近いという言い伝え。 - 白南風(しらはえ):
梅雨が明けるころから吹く南風。
「しろはえ」とも読み、夏の季語。 - 夕立三日(ゆうだちみっか):
夕立は一度降り出すと、三日ほど続けて降るという言い伝え。 - 夏雲奇峰(かうんきほう):
夏の入道雲が大空につくる、珍しい形の峰。
陶潜の詩に見える言葉。
初夏の景色と夏の風物
- 青葉は目の薬(あおばはめのくすり):
初夏の青葉の緑を眺めると、目の疲れがいやされ、気分も晴れるということ。 - 蝉時雨(せみしぐれ):
多くの蝉が一斉に鳴きたてる声を、時雨の降る音に見立てた言葉。
夏の季語。 - あの声で蜥蜴食らうか時鳥(あのこえでとかげくらうかほととぎす):
ホトトギスは声の美しさで知られるが、蜥蜴や毛虫も食べる。
物事は見かけによらないというたとえで、宝井其角の句から。 - 麦秋(ばくしゅう):
麦が実り、取り入れをする初夏のころ。
「秋」は穀物が実る時期の意味で、秋の言葉ではなく、夏の季語。
陰暦四月の別名でもある。 - 青嵐(あおあらし):
初夏の青葉を揺らして吹き渡る、やや強い風。
「せいらん」とも読み、夏の季語。 - 浮瓜沈李(ふかちんり):
瓜を清らかな泉に浮かべ、李を冷たい水に沈めて冷やすこと。
夏に涼をとる楽しみをいい、魏の曹丕の手紙「朝歌令呉質に与うる書」の一節から。
夏の虫のことわざ
- 飛んで火に入る夏の虫(とんでひにいるなつのむし):
明かりにつられて飛んで来た夏の虫が火で焼け死ぬことから、自分から進んで災いの中に飛び込むことのたとえ。
この「夏の虫」は、夏に出る虫のうち、特に灯火に寄ってくる蛾の類を指す。
「入る」は「はいる」とは読まない。 - 夏の虫氷を笑う(なつのむしこおりをわらう):
見識の狭い者が、自分の知らないものを頭から馬鹿にすること。
夏しか知らない虫が、見たことのない氷を笑うことから。 - 夏虫疑氷(かちゅうぎひょう):
見聞の狭い者が、自分の知らないことを認めようとしないこと。
「荘子」秋水篇の「夏虫は以て氷を語るべからず」から。
季節外れ・あべこべのたとえ
- 夏炉冬扇(かろとうせん):
夏の炉(= いろり)と冬の扇のことで、時期外れで役に立たない物事のたとえ。
中国の「論衡」に見えるたとえから。
松尾芭蕉は、世間の役に立たない自分の俳諧を「夏炉冬扇の如し」と述べている。 - 寒に帷子土用に布子(かんにかたびらどようにぬのこ):
寒中に帷子(= 夏に着る単衣)を着て、夏の土用に布子(= 綿入れ)を着ることで、時節外れで物事があべこべなことのたとえ。
季節に合った衣服が着られないことから、ひどく貧しいさまにもいう。 - 夏の小袖(なつのこそで):
小袖は冬に着る物であることから、時節外れで不用な物のたとえ。 - 頂く物は夏も小袖(いただくものはなつもこそで):
もらえる物なら、夏の小袖のような役に立たない物でももらうということ。
欲が深いことのたとえで、「夏も小袖」ともいう。 - 冬編笠に夏頭巾(ふゆあみがさになつずきん):
冬に編笠をかぶり、夏に頭巾をかぶるように、物事があべこべであること。
冬は頭巾、夏は編笠をかぶるのが普通であることからいう。
夏と冬を対にした教え・たとえ
- 夏歌う者は冬泣く(なつうたうものはふゆなく):
働ける夏に歌って遊び暮らす者は、冬になって寒さと飢えに泣くということ。
働けるときに働かない者は、あとで生活に困るというたとえ。 - 夏は日向を行け冬は日陰を行け(なつはひなたをゆけふゆはひかげをゆけ):
夏は暑い日向を、冬は寒い日陰を歩くように、あえてつらい道を選んで体を鍛えよという教え。
人に道をゆずり、出過ぎないようにせよという意味もある。 - 冬夏青青(とうかせいせい):
冬も夏も緑を保つ木のように、どんなときも志を変えない人のたとえ。 - 冬温夏凊(とうおんかせい):
冬は暖かく、夏は涼しく過ごせるように、子が父母に気を配って仕える親孝行のこと。
「凊」は涼しいという意味。 - 夏日可畏(かじつかい):
夏の太陽のように厳しく、人に恐れを抱かせる人柄のたとえ。
中国の春秋時代、晋の趙盾の威厳のある人柄を夏の日にたとえた言葉で、父の趙衰の温和な人柄を冬の日にたとえた「冬日可愛」と対になる。 - 夏下冬上(かかとうじょう):
炭火をおこすとき、火種を夏は炭の下に、冬は炭の上に置くと火がつきやすいということ。
季節の様子ではなく、火のおこし方のこつをいう。
夏と冬の物を取り違えた言葉と、夏と冬で逆に行う教え
夏と冬では、着る物も使う道具もはっきり分かれます。
そのため、冬着の小袖や綿入れの布子を夏に、夏の帷子を冬に持ち出すことが、時節外れで無用なことのたとえになりました。
夏の炉と冬の扇、冬の編笠と夏の頭巾も、季節を入れ替えた取り合わせです。
その一方で、炭火の火種の置き方や歩く道の選び方のように、夏と冬で反対のことをするのが正しいと説く言葉もあります。
| 分類 | 代表例 |
|---|---|
| 着る物 | 「寒に帷子土用に布子」/「夏の小袖」/「頂く物は夏も小袖」 |
| かぶり物 | 「冬編笠に夏頭巾」 |
| 道具 | 夏炉冬扇 |
| 火種 | 「夏下冬上」 |
| 歩く道 | 「夏は日向を行け冬は日陰を行け」 |




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