ドン・キホーテを生んだ情熱の国スペイン。
そのことわざ(Refranes)には、陽気で楽天的な気質と、長い歴史の中で培われた現実的で少しシニカルな人生観が同居しています。
「パンとワインがあれば、道は歩いていける」という言葉のように、人生の困難をシンプルに受け入れ、楽しもうとするスペインの人々の姿勢。
今回は、スペイン語学習者はもちろん、ラテン文化に興味がある方に向けて、日常会話でも使える有名なスペインのことわざ30選を、意味・由来・カタカナ読み付きで解説します。
【人生・運命】経験と現実を受け入れる
人生の苦難や失敗を、ある種の達観とユーモアで乗り越えるための知恵です。
悪魔が物知りなのは、年寄りだからだ
Más sabe el diablo por viejo que por diablo.
(マス・サベ・エル・ディアブロ・ポル・ビエホ・ケ・ポル・ディアブロ)
「亀の甲より年の功」
悪魔があれほど狡猾で物知りなのは、彼が悪魔だからではなく、単に長く生きている(年寄りだ)からだ。
知識や知恵は、肩書きよりも「経験」によって培われるものであるという、年長者への敬意が込められた言葉です。
100年続く不幸はない
No hay mal que dure cien años.
(ノ・アイ・マル・ケ・ドゥレ・シエン・アニョス)
「明けない夜はない」。
どんなに辛いことや不幸も、永遠に続くわけではない(100年もすれば終わるか、自分が死んでしまうから)。
苦境にある人を励ます時や、自分自身を鼓舞する時によく使われる、ポジティブで力強い言葉です。
過ぎた水は、水車を動かさない
Agua pasada no mueve molino.
(アグア・パサダ・ノ・ムエベ・モリーノ)
「覆水盆に返らず」
一度流れてしまった水で水車を回すことはできないように、過去のことを悔やんでも今は変えられない。
「終わったことは忘れて前へ進もう」という、未来志向のメッセージです。
経験は学問の母
La experiencia es la madre de la ciencia.
(ラ・エクスペリエンシア・エス・ラ・マドレ・デ・ラ・シエンシア)
「百聞は一見に如かず」
机上の空論ではなく、実際の経験こそが真の知識(科学)を生み出す母体である。
セルバンテスの『ドン・キホーテ』にも登場する、実践を重んじる教えです。
準備した一人は、二人分の価値がある
Hombre prevenido vale por dos.
(オンブレ・プレベニド・バレ・ポル・ドス)
「備えあれば憂いなし」
事前にしっかりと準備をしている人は、いざという時に二人分の働きができるほど頼りになる。
ラテン気質で準備不足になりがちな時こそ、思い出したい言葉です。
過ちを直すのは、賢者の証
Rectificar es de sabios.
(レクティフィカール・エス・デ・サビオス)
「過ちては改むるに憚ること勿れ」
間違いを犯すのは人間だが、それを素直に認めて修正できるのは賢者だけである。
謝罪や訂正をする際のプライドを捨てさせ、勇気を与えてくれる言葉です。
好みについて書かれたものはない
Sobre gustos no hay nada escrito.
(ソブレ・グストス・ノ・アイ・ナダ・エスクリト)
「蓼食う虫も好き好き」
人の好みは千差万別で、どれが正しいという決まり(書かれたもの)はない。
「まあ、人それぞれだからね」と、議論を終わらせる際や、他人の趣味を尊重する際に使われます。
パンとワインがあれば、道は進める
Con pan y vino se anda el camino.
(コン・パン・イ・ビノ・セ・アンダ・エル・カミーノ)
人生という長い道のりも、最低限の食べ物(パン)と楽しみ(ワイン)さえあれば、なんとかなるものだ。
物質的な豊かさよりも、心の持ちようと最低限の糧があれば生きていけるという、シンプルで楽天的な人生観です。
腹が満ちれば、心も満足
Barriga llena, corazón contento.
(バリーガ・ジェナ・コラソン・コンテント)
美味しいものを食べてお腹がいっぱいになれば、悩み事なんて忘れて幸せな気分になる。
「衣食足りて礼節を知る」よりももっと直感的で、食を愛するスペイン人らしい言葉です。
【行動・機会】情熱とタイミング
チャンスを逃さず、行動することの重要性を説く言葉です。
今日できることを明日に延ばすな
No dejes para mañana lo que puedas hacer hoy.
(ノ・デヘス・パラ・マニャーナ・ロ・ケ・プエダス・アセール・オイ)
「明日やろうは馬鹿野郎」
陽気なラテン気質で「マニャーナ(明日でいいや)」となりがちな自分たちを戒めるための、世界中で共通の教訓です。
眠ったエビは流れにさらわれる
Camarón que se duerme, se lo lleva la corriente.
(カマロン・ケ・セ・ドゥエルメ・セ・ロ・ジェバ・ラ・コリエンテ)
「油断大敵」
ぼんやりしていると、チャンスを逃したり、時代の流れに取り残されたりしてしまう。
うっかりミスをした人や、のんびりしすぎている人への忠告として使われます。
言うことと行うことの間には、長い距離がある
Del dicho al hecho hay mucho trecho.
(デル・ディチョ・アル・エチョ・アイ・ムーチョ・トレチョ)
「言うは易く行うは難し」
口で立派なことを言うのは簡単だが、それを実行して結果を出すまでには、果てしない道のり(トレチョ)がある。
有言実行の難しさを説く言葉です。
泣かない子は、おっぱいをもらえない
El que no llora, no mama.
(エル・ケ・ノ・ジョラ・ノ・ママ)
黙って待っていても誰も気づいてくれない。欲しいものがあるなら、声を上げて主張しなければ手に入らない。
自己主張が強いスペイン社会において、遠慮は美徳ではなく損であることを教えてくれます。
早く起きても、夜明けは早くならない
No por mucho madrugar amanece más temprano.
(ノ・ポル・ムチョ・マドゥルガル・アマネセ・マス・テンプラノ)
「果報は寝て待て」
いくら焦って努力しても、物事には自然なタイミングがあり、結果を無理に早めることはできない。
焦燥感に駆られている人を落ち着かせるための言葉です。
【人間関係・社会】付き合い方の極意
情熱的で人間関係が濃密なスペインならではの、人付き合いの知恵です。
誰と歩いているか言えば、あなたが誰だか言おう
Dime con quién andas y te diré quién eres.
(ディメ・コン・キエン・アンダス・イ・テ・ディレ・キエン・エレス)
「類は友を呼ぶ」、「朱に交われば赤くなる」
付き合っている友人を見れば、その人がどんな人間かはすぐに分かる。
悪い友人と付き合っている人への警告や、人物評価の基準として使われます。
見ぬが花、知らぬが仏(目は見ず、心は感じず)
Ojos que no ven, corazón que no siente.
(オホス・ケ・ノ・ベン・コラソン・ケ・ノ・シエンテ)
目に見えなければ、心も痛まない。
遠く離れた人のことは忘れがち(去る者は日々に疎し)という意味と、知らないことは気に病む必要がない(知らぬが仏)という意味の両方で使われます。
閉じた口にハエは入らない
En boca cerrada no entran moscas.
(エン・ボカ・セラダ・ノ・エントラン・モスカス)
「口は災いの元」
余計なことを言わなければ、トラブル(ハエ)を招き入れることはない。
沈黙の重要性や、不用意な発言を慎むべきだという教えです。
その土地の風習に従え
Donde fueres, haz lo que vieres.
(ドンデ・フエレス・アス・ロ・ケ・ビエレス)
「郷に入っては郷に従え」
直訳すると「行った先では、見ること(現地の人がやっていること)をせよ」。
異なる文化や習慣を持つ場所では、自分のやり方を主張せず、現地の流儀に合わせるのが賢明だという処世術です。
壁に耳あり
Las paredes oyen.
(ラス・パレデス・オイエン)
壁に耳あり障子に目あり。
密談や悪口は、どこで誰が聞いているかわからない。
「ここだけの話」をする時に、周囲への注意を促すために使われます。
安いものは高くつく
Lo barato sale caro.
(ロ・バラト・サレ・カロ)
「安物買いの銭失い」
値段の安さだけで飛びつくと、すぐに壊れたりして結局は高くついてしまう。
品質を見極めることの大切さを説く、買い物の際の鉄則です。
万人の好みに合う雨は降らない
Nunca llueve a gusto de todos.
(ヌンカ・ジュエベ・ア・グスト・デ・トドス)
雨が降って喜ぶ農家もいれば、困る旅行者もいる。
すべての人を満足させることは不可能であり、誰かが得をすれば誰かが損をするのが世の常だという、割り切った考え方です。
カラスを育てれば、目をえぐられる
Cría cuervos y te sacarán los ojos.
(クリア・クエルボス・イ・テ・サカラン・ロス・オホス)
「飼い犬に手を噛まれる」、「恩を仇で返す」
情けをかけて育てたカラスに、最後には目を突かれる。
恩知らずな人や、裏切りに対する深い失望と怒りを表す強烈な表現です。
この棒にして、この木片あり
De tal palo, tal astilla.
(デ・タル・パロ・タル・アスティージャ)
「蛙の子は蛙」
木から切り出された木片(子供)は、元の木(親)と同じ性質を持っている。
親子が似ていることを指して、良い意味でも悪い意味でも使われます。
強欲は袋を破る
La avaricia rompe el saco.
(ラ・アバリシア・ロンペ・エル・サコ)
「二兎を追う者は一兎をも得ず」
欲張って袋に詰め込みすぎると、袋が破れて中身をすべて失ってしまう。
適度なところで満足すべきだという、欲張りへの戒めです。
多くを抱え込む者は、少ししか握れない
Quien mucho abarca, poco aprieta.
(キエン・ムーチョ・アバルカ・ポコ・アプリエタ)
「あぶはち取らず」
両腕いっぱいに抱え込もうとする人は、結局しっかりと握りしめることができず、ボロボロと落としてしまう。
手広くやりすぎて失敗する人や、一点集中できない人への忠告です。
吠える犬はあまり噛まない
Perro ladrador, poco mordedor.
(ペロ・ラドラドール・ポコ・モルデドール)
よく吠える犬ほど、実際には臆病で噛みついてこない。
口先だけで威張っている人や、大声で怒鳴る人は、実は大したことないから恐れる必要はないという意味です。
修道服は修道士を作らない
El hábito no hace al monje.
(エル・アビト・ノ・アセ・アル・モンヘ)
「馬子にも衣装」の逆説的表現。
立派な服を着ているからといって、その人が立派な人間(修道士)であるとは限らない。
外見や肩書きだけで人を判断してはいけないという教えです。
もらった馬の歯を見るな
A caballo regalado no le mires el dentado.
(ア・カバージョ・レガラド・ノ・レ・ミレス・エル・デンタド)
馬の年齢は歯を見ればわかりますが、タダでもらった馬の値踏みをするのは失礼だ。
贈り物に対してケチをつけたり、不満を言ったりしてはいけないというマナーです。
靴屋よ、靴のことだけ(考えろ)
Zapatero, a tus zapatos.
(サパテロ・ア・トゥス・サパトス)
「餅は餅屋」
専門外のことに口出しせず、自分の領分に専念せよ。
余計なお世話や、知ったかぶりをする人に対する決定的な一言です。






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