空を自由に飛び交う「鳥」は、古くから人間の想像力を刺激し、様々な物語や言い伝えに登場してきました。
その鋭い観察眼、力強い飛翔、美しい鳴き声、あるいは特徴的な習性は、人生の教訓や人間の性質を映し出す鏡として、私たちの言葉に深く根付いています。
日本語には、そうした鳥の姿を借りて生まれた、ことわざ、慣用句、故事成語、四字熟語が数多く存在します。
ここでは、「鳥」に関係する有名な言葉を集め、その意味や背景とともに種類別に分類して紹介します。

「鳥」に関することわざ
主に教訓や風刺、昔からの言い伝えを含む短い句。
- 立つ鳥跡を濁さず(たつとりあとをにごさず):
その場を去る者は、見苦しくないよう後始末をきちんとすべきであるという教え。 - 能ある鷹は爪を隠す(のうあるたかはつめをかくす):
本当に実力のある者は、軽々しくその能力を見せびらかしたりはしないことのたとえ。 - 鶴は千年、亀は万年(つるはせんねん、かめはまんねん):
鶴は千年、亀は万年生きるという言い伝えから、長寿でおめでたいことの象徴として使われる言葉。 - 鳶が鷹を生む(とびがたかをうむ):
平凡な親から、思いがけず優れた才能を持つ子供が生まれることのたとえ。 - 掃き溜めに鶴(はきだめにつる):
ゴミ捨て場のような汚い場所に、不似合いなほど美しく気高いものや、優れた人物が現れることのたとえ。 - 鳶に油揚げをさらわれる(とびにあぶらあげをさらわれる):
油断していると、大切なものを不意に横から奪われてしまうことのたとえ。 - 鴨が葱を背負って来る(かもがねぎをしょってくる):
都合の良いことが重なって、ますます好都合になることのたとえ。利用しやすい相手が、さらに利用しやすい材料を持って現れること。 - 烏の白糞(からすのしろくそ):
黒い烏から白い糞が出ること(意外なこと)から、平凡な親から優れた子供が生まれることのたとえ。「鳶が鷹を生む」と類義。 - 鵜のまねをする烏(うのまねをするからす):
自分の能力を考えず、むやみに人の真似をして失敗することのたとえ。 - 雉も鳴かずば撃たれまい(きじもなかずばうたれまい):
鳴かなければ居場所を知られず撃たれることもないことから、余計なことを言わなければ災いを招かずに済むことのたとえ。 - 焼け野の雉子、夜の鶴(やけののきぎす、よるのつる):
巣のある野が焼けても我が子を案じるキジ、寒い夜に子を羽で覆うツルの姿から、親が子を思う情愛が非常に深いことのたとえ。 - 雀百まで踊り忘れず(すずめひゃくまでおどりわすれず):
幼い頃に身につけた習慣や道楽は、年をとってもなかなか抜けないことのたとえ。 - 窮鳥懐に入れば猟師も殺さず(きゅうちょうふところにいればりょうしもころさず):
追いつめられて助けを求めてきた者は、たとえ敵であっても情けをかけて助けるべきであるということ。 - 大鳥の尾より小鳥の頭(おおとりのおよりことりのあたま):
大きな集団の中で末端にいるよりも、小さな集団でも長(おさ)となる方が良いということ。
「鶏口となるも牛後となるなかれ」と類義。 - 欲の熊鷹股を裂く(よくのくまたかまたをさく):
熊鷹が二羽の獲物を同時に捕まえようとして股が裂けるという想像から、欲が深すぎるとかえって失敗し、身を滅ぼすことになるというたとえ。 - 鳥なき里の蝙蝠(とりなきさとのこうもり):
優れた人物がいないところでは、つまらない人物が威勢を振るうことのたとえ。 - 鷹は飢えても穂を摘まず(たかはうえてもほをつまず):
鷹はどんなに飢えても穀物を食べないように、高潔な人はどんなに困窮しても不正な金品は受け取らないことのたとえ。
「鳥」に関する慣用句
二語以上の語が結びつき、特定の意味を持つ定型的な言い回し。
- 鶴の一声(つるのひとこえ):
大勢での議論や対立が、権力者や有力者の一言によって決着すること。 - 雀の涙(すずめのなみだ):
ほんのわずかしかないことのたとえ。量が非常に少ないさま。 - 閑古鳥が鳴く(かんこどりがなく):
訪れる人もなく、寂れて静まり返っている様子。特に商売が繁盛しないさま。 - 鵜の目鷹の目(うのめたかのめ):
鵜や鷹が獲物を探すときのような鋭い目つきで、熱心に何かを探し出そうとする様子。 - 鳩が豆鉄砲を食ったよう(はとがまめでっぽうをくったよう):
突然の出来事に驚き、あっけにとられてきょとんとしている様子のたとえ。 - 目白押し(めじろおし):
多くの人や物が、込み合ってぎっしりと並んでいる様子。(メジロが枝に押し合うように並ぶ習性から) - 飛ぶ鳥を落とす勢い(とぶとりをおとすいきおい):
飛んでいる鳥さえ落ちてくるほど、権力や勢力が非常に盛んな様子。 - 羽を伸ばす(はねをのばす):
束縛や制約から解放されて、のびのびと自由に、気ままに行動すること。 - 烏の行水(からすのぎょうずい):
入浴時間が非常に短いことのたとえ。カラスが水浴びを短時間で済ませることから。 - 烏の濡れ羽色(からすのぬればいろ):
烏の濡れた羽のように、青みがかった美しい黒髪のこと。主に女性の髪を褒める言葉。 - 鴛鴦の契り(えんおうのちぎり):
オシドリ夫婦のように、仲睦まじい夫婦の契りのこと。
※ただし、実際のオシドリは繁殖期ごとに相手を変えることが知られており、これは古来の理想的夫婦像の象徴的表現です。 - 籠の中の鳥(かごのなかのとり):
自由を束縛され、思うように行動できない状態にあることのたとえ。 - 百舌勘定(もずかんじょう):
自分が多く支払ったように見せかけて、実際には相手に多く負担させるような、ずる賢い勘定の方法。(モズの習性に由来するとも言われる) - 鵜呑みにする(うのみにする):
鵜が魚を丸呑みするように、物事の意味をよく理解したり吟味したりせずに、そのまま受け入れること。 - 鳥肌が立つ(とりはだがたつ):
寒さ、恐怖、あるいは強い感動によって、皮膚が鳥の羽をむしった後の肌のようにぶつぶつになること。 - 千鳥足(ちどりあし):
鳥のチドリが左右にジグザグに歩く姿から、お酒に酔って足元がおぼつかず、よろよろと歩く様子のたとえ。
「鳥」に関する故事成語
中国の古典や歴史的な出来事に由来する言葉。
- 烏合の衆(うごうのしゅう):
規律も統制もなく、ただ寄り集まっただけの群衆や軍勢のこと。(故事由来) - 鶏群の一鶴(けいぐんのいっかく):
多くの平凡な人々(鶏の群れ)の中に、一人だけ際立って優れた人物(一羽の鶴)がいることのたとえ。(故事由来) - 鴉鷺の争い(あろのあらそい):
カラスとサギが争っているうちに、第三者(漁夫)に利益を横取りされてしまうことのたとえ。「漁夫の利」や、元となった「鷸蚌の争い(いつぼうのあらそい)」とも言います。(『戦国策』より) - 烏の頭が白くなる(からすのかしらがしろくなる):
黒い烏の頭が白くなることはあり得ない、という意味から、「決してあり得ないこと」のたとえ。(『史記』刺客伝賛注の故事より) - 鶏を割くに焉んぞ牛刀を用いん(にわとりをさくにいずくんぞぎゅうとうをもちいん):
鶏を料理するのに牛を切る大きな刀は不要であることから、小さな事を処理するのに大げさな手段を用いる必要はないことのたとえ。(『論語』陽貨より)→牛刀をもって鶏を割く - 鶏口となるも牛後となるなかれ(けいこうとなるもぎゅうごとなるなかれ):
大きな牛の尻(牛後)になるよりも、小さな鶏のくちばし(鶏口)になった方がよい。大きな集団で人の後につくよりも、小さな集団でも長(トップ)になる方が良いというたとえ。(『史記』より) - 燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや(えんじゃくいずくんぞこうこくのこころざしをしらんや):
ツバメやスズメのような小さな鳥には、オオハクチョウ(鴻鵠)のような大きな鳥の持つ遠大な志は理解できない。小人物には大人物の考えは分からないことのたとえ。(『史記』陳渉世家より) - 卵を見て時夜を求む(たまごをみてじやをもとむ):
まだ鶏の卵であるうちから、時を告げる鶏になることを期待するように、性急に結果を求めすぎることのたとえ。(『荘子』斉物論より) - 精衛海を填む(せいえいうみうずむ):
溺死した恨みを晴らすため、伝説の鳥「精衛」が海を埋めようと小石を運び続けた故事から、微力でも根気よく続ければ大事業も成就するというたとえ。
「鳥」に関する四字熟語
漢字四字で構成される熟語。
- 一石二鳥(いっせきにちょう):
一つの石を投げて、二羽の鳥を同時に捕らえることから、一つの行為で二つの利益を得ること。 - 花鳥風月(かちょうふうげつ):
自然の美しい風景のこと。また、それを題材にして詩歌や絵画を作る風流な遊びのこと。 - 鳳凰来儀(ほうおうらいぎ):
天下泰平の世に現れるとされる伝説の鳥「鳳凰」が飛来すること。転じて、非常におめでたいことのしるし。 - 鵬程万里(ほうていばんり):
伝説の巨大な鳥「鵬(おおとり)」が一度に万里を飛ぶことから、非常に遠い道のりや、将来の道のりが雄大で希望に満ちていることのたとえ。(故事由来)
まとめ
鳥たちは、その姿や習性から、力強さ、知恵、愛情、あるいは愚かさの象徴として、実に多様な意味をまとって言葉の中に生きています。
「能ある鷹は爪を隠す」のような戒め、「鳶が鷹を生む」のような驚き、「飛ぶ鳥を落とす勢い」のような権勢の表現など、その幅広さは日本語の豊かさそのものを示しています。
これらの言葉を知ることは、私たちの表現を豊かにするだけでなく、古来の人々が自然をどう見ていたかを知る手がかりともなります。





コメント