「いろはかるた」とは?「江戸かるた」と「上方かるた」の比較

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「犬も歩けば棒に当たる」。
あるいは、「一寸先は闇」。

どちらも、いろはかるたの最初の「い」の札として知られる言葉です。
「犬」と聞いて懐かしく思うのは主に東日本の方、「一寸先」と答えるのは西日本の方が多いのではないでしょうか。

お正月の風物詩として親しまれてきたいろはかるたは、単なる遊び道具ではありません。
そこには、古くから日本人が大切にしてきた「処世術」や「道徳」、そして庶民の「生活の知恵」が凝縮されています。

実はこのかるた、地域によって収録されていることわざが驚くほど異なります。
東の「江戸」と西の「上方」。
それぞれの地域で愛された言葉の違いは、当時の文化や人々の気質を色濃く映し出しています。

「いろはかるた」とは? 48文字の教訓

「いろはかるた」とは、江戸時代後期に庶民の間で爆発的に広まった、ことわざを題材としたカードゲームです。

構成と仕組み

平安時代末期に成立したとされる「いろは歌(いろはにほへと…)」の仮名47文字に、「京(きょう)」の字を加えた計48文字を頭文字として構成されています。

  • 読み札:ことわざや教訓の文章が書かれている。
  • 取り札:その内容を描写した絵と、頭文字が大きく書かれている。

合計96枚の札を使い、読み上げられた言葉に対応する絵札を取り合うことで競います。

百人一首との決定的な違い

同じく「かるた」の代名詞である百人一首が、貴族文化の象徴である「和歌」を扱い、雅な教養を必要とするのに対し、いろはかるたは庶民の生活に根ざした「ことわざ」を扱います。
子供が文字(ひらがな)を覚えるための手習い(学習)の道具としての側面が強く、遊びながら社会のルールや道徳を学べる教材として定着しました。

東西で全く違う?「江戸」と「上方」の地域性

いろはかるた最大の特徴は、地域によって収録されていることわざが異なるという多様性にあります。
大きく分けて、江戸(東京)を中心とした「江戸かるた」と、京都・大阪を中心とした「上方かるた」の2つの系統が存在します。

1. 江戸かるた:簡潔で現実的な「江戸っ子気質」

現在、全国的に「標準」として広く知られているのがこのタイプです。
犬も歩けば棒に当たる」から始まります。
江戸の庶民文化や武家社会の影響を色濃く反映しており、表現は簡潔でテンポが良く、時に皮肉や洒落が効いています。
論より証拠」「花より団子」など、観念的な精神論よりも実益や現実を重視する傾向が見られます。

2. 上方かるた(京かるた):優雅で信心深い「商人の知恵」

京都や大阪で普及したタイプで、「一寸先は闇」から始まります。
古くからの文化都市である京都の雅さや、商人の町である大阪の価値観が反映されています。
仏教由来の言葉や、公家文化を感じさせる格調高い表現が多く、「地獄の沙汰も金次第」のように世の中のシビアな真理を突く言葉も見受けられます。
また、江戸かるたよりも古い歴史を持つと言われています。

「江戸かるた」と「上方はかるた」の比較一覧

同じ「い」の札でも、これほどまでに選ばれる言葉が異なります。それぞれの地域の文化や価値観の違いを比べてみましょう。

ことわざのバリエーションについて

いろはかるたには数多くの種類が存在します。
時代や製造元(メーカー)、地域ごとの細かい伝承の違いによって、採用されていることわざが異なる場合があります。
以下の表は、一般的に知られている代表的な例ですが、「自分の持っているかるたと違う!」という発見も含めて、その多様性を楽しんでみてください。

仮名江戸かるた上方かるた(京・大阪)
犬も歩けば棒に当たる一寸先は闇
論より証拠論語読みの論語知らず
花より団子針の穴から天のぞく
憎まれっ子世にはばかる二階から目薬
骨折り損のくたびれ儲け仏の顔も三度
屁をひって尻つぼめる下手の長談義
年寄りの冷や水豆腐に鎹
塵も積もれば山となる地獄の沙汰も金次第
律義者の子沢山綸言汗のごとし
盗人の昼寝糠に釘
瑠璃も玻璃も照らせば光る類を以て集まる
老いては子に従え鬼も十八
破れ鍋に綴じ蓋笑う門には福来る
かったいの瘡うらみ蛙の面に水
葭の髄から天井を見る夜目遠目笠のうち
旅は道連れ立て板に水
良薬は口に苦し連木で腹を切る
総領の甚六袖振り合うも多生の縁
月とスッポン月夜に釜を抜く
念には念を入れよ猫に小判
泣きっ面に蜂済す時の閻魔顔
楽あれば苦あり来年の事を言えば鬼が笑う
無理が通れば道理引っ込む馬の耳に風
嘘から出た実氏より育ち
芋の煮えたもご存じなく鰯の頭も信心から
喉元過ぎれば熱さを忘れる鑿と言わば槌
鬼に金棒負うた子に教えられて浅瀬を渡る
臭い物に蓋臭い物に蝿がたかる
安物買いの銭失い闇に鉄砲
負けるが勝ち蒔かぬ種は生えぬ
芸は身を助くる下駄と焼味噌
文を遣るにも書く手は持たぬ武士は食わねど高楊枝
子は三界の首枷これに懲りよ道斎坊
得手に帆を上げる縁の下の力持ち
亭主の好きな赤烏帽子寺から里へ
頭隠して尻隠さず足下から鳥が立つ
三遍回って煙草にしょ竿の先に鈴
聞いて極楽見て地獄鬼神に横道なし
油断大敵幽霊の浜風
目の上のたんこぶ盲の垣覗き
身から出た錆身は身で通る
知らぬが仏吝ん坊の柿の種
縁は異なもの縁の下の舞
貧乏暇なし瓢箪から駒
門前の小僧習わぬ経を読む餅は餅屋
背に腹はかえられぬ聖は道によって賢し
粋は身を食う雀百まで踊り忘れぬ
京の夢大阪の夢京に田舎あり

いろはかるたの起源と歴史

いろはかるたの成立は、はっきりとは解明されていませんが、一般的には江戸時代後期に現在の形が整ったと考えられています。

その起源は、16世紀にポルトガルから伝来したカードゲーム「カルタ」と、平安時代からの日本の遊び「貝合わせ」が融合した「天正かるた」にあると言われています。
当初は賭博的な要素も強い大人の遊びでしたが、教育的な要素を取り入れることで、子供たちの「文字の学習」と「道徳教育」を兼ねた健全な遊びとして生まれ変わりました。

明治時代以降も、戦時中の「愛国かるた」や、戦後のGHQによる改変など、時代の空気を映し出しながら形を変え、現代まで受け継がれています。

現代に広がる「郷土かるた」文化

いろはかるたの「遊びながら地元や教訓を学ぶ」という教育的効果は、現代において郷土かるた(ご当地かるた)という形で独自の進化を遂げています。

特に有名なのは、群馬県の「上毛かるた」です。

これは、群馬県の歴史や名物を詠んだもの。「県民なら誰もが暗唱できる」と言われるほど圧倒的な普及率を誇り、郷土愛形成の成功例として知られています。

埼玉県の「さいたま郷土かるた」も、郷土かるたのひとつ。
これは、埼玉県にゆかりのある人物、名所などを取り上げたかるたで、1982年(昭和57年)埼玉の風土と文化を理解し、郷土を愛する子供たちを育成するために制定されました。

郷土かるたコレクション

300種に及ぶ郷土かるたのコレクションを公開しているサイトです。

群馬大学総合情報メディアセンター中央図書館が所蔵する郷土かるたコレクションは、本学教育学部の山口幸男名誉教授、同学部非常勤講師の原口美貴子氏の両名から寄贈していただいた全国各地の郷土かるたをもとに、その後、個人や団体からの寄贈や本センターが収集したものを加え、現在、その数約300種に及び、郷土かるたコレクションとしては全国稀有なものといえます。
本サイトでは、当館が所蔵する全国各地の郷土かるたを公開しています。

まとめ – 言葉のタイムカプセル

いろはかるたは、単なる懐かしい遊び道具ではありません。そこには、かつての日本人が「次の世代にどうしても伝えたかった知恵」が詰まっています。

「江戸かるた」の威勢の良さに触れれば江戸っ子の心意気が、「上方かるた」の奥深さに触れれば古都の精神性が、言葉を通して鮮やかに蘇ります。
48枚の小さな札は、まさに日本の文化と言葉を保存したタイムカプセルとも言えるでしょう。

次にかるたを目にする機会があれば、ぜひその「言葉の選び方」にも注目してみてください。

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